漫画が名案かー。高校生の私って、こんなに子供だったっけ?想像以上に幼いな。今思い出すと笑っちゃうようなことだけど、あの頃は一生懸命だったなぁ。ほんと懐かしい。大須先生、まだバスケやってんのかな。
日本人なら誰しも一度は読んだことがあるであろう、名作『スラムダンク』であるのだが。全巻持ってるという友だちを見つけることは、なかなか簡単に出来ることではなかった。
七江の友だちも大概読んだ経験はあるのだが、そんな友だちもまた他の友だちに借りていたり。持っていても何巻かだけだったりするのが実状であった。全巻というハードルが思いの外高かったのだ。
部活動に参加していた七江はバイトもしていなかったので、自分で全巻購入することは不可能だ。悪戦苦闘を繰り返す七江に朗報を齎してくれたのは、意外にも母からの情報提供であった。なんと、どうやらいとこのお兄ちゃんが持っているらしい。念願の、全巻揃っているとのことだった。
やっとのことで手に入れた『スラムダンク』だったこともあり、心して丹念に熟読していく。七江は感動を覚えた。映画や本で泣いたことはあった七江であったが、漫画で涙したことは初めての経験であった。バスケットボールのカッコ良さを痛切に学ばされた七江の感想は
大須先生、カッコイイ。
こんな素敵なスポーツに、長年に渡り精一杯汗を注いできた先生は、七江にはヒーローに思えた。大須先生を心より尊敬した。
先生ー!バスケってカッコイイですね!!
だな。
ということで、スリーポイントシュート見せてくれませんか??
ということってなんだよ。
お願いします!
次の授業始まるぞ。
生で見たことないんです!見てみたいんです!
一回だけだからな。
やったー!ありがとうございます!
ボール!
はいっ!
ダムダム、サッ━━━パシュッ
うぅわあーーーぁあうーわぁ~!!
ボール片付けとけよ。
は、はいっ!
次の授業遅れんなよー。
はいっ、ありがとうございました!
「一回だけだからな」で、本当に一回でスリーポイントシュートを決めてしまった大須先生。七江はまた一目惚れし直した気分だった。最高にカッコイイ。
満面の笑みを携えながらボールを用具室へと運び、急いで教室へと戻る。次の授業に遅刻したら大須先生に迷惑がかかるような気がして、最近稀に見る全力のダッシュで教室に駆け込んだ。
また つづく。