その頃になると、体育係でもない七江が大須先生のお手伝いをするのは当たり前の光景となっていた。授業が始まる前に誰よりも先に来て、ボール、ラケット、ライン引き、様々な準備に勤しんだ。体育係の友だちからはいつも感謝されていたが、「ありがとうはこっちの台詞だよ」と七江もまた黙って準備を一緒にさせてくれる友だちに感謝していたのだった。
手が悴むくらい寒さも深まったある日、ふと隣を見るといつもの大須先生。今はしゃがみこんでいる為、普段近くでは余り見られない先生の頭がそこにあった。
先生の髪、あったかそうだなー。
一度思うと、気になってなかなか目線を外せられない。ちょっとくらい触ってもバレないかな~と半ば願望のような持論を採用し、思い切って手を伸ばしてみることにした。ドキドキしながらそーっとツンツンの髪の毛に触れてみると
うわ~~~ぁああ!
なに?
先生の髪の毛、めっちゃあったかいんですね!
人の頭を暖房代わりにしない。
でも先生!先生の髪の毛ツンツンで、日向ぼっこした芝生みたいです!
また馬鹿にしてんな、それ。
いやいやいやいやいや、褒めてるんですよっ!
心臓が、張り裂けそうなくらいドクドクと大きな音を出しながら鼓動している。先生に聞こえたら恥ずかしいよなぁと思いつつも、「この時間終わるな!」と一人強く念じてみる。
サボってないでちゃんとやれよー
自分に寄せられた想いを知ってか知らずか、大須先生は隣で一番サボっている筈の七江は置いといて他の生徒を注意した。友だちに申し訳ないと思いつつも、七江は先生の頭を撫でながら更にドッキンドッキンと胸を鳴らし続けた。
先生の頭の中の手だけでなく、全身がポカポカと温まっていくのを感じた。七江が注いできた恋心の褒賞として、今先生のトレードマークであるツンツンヘアーに触れている。
私、大須先生が好きだ。
ココロが、カラダが、そう叫ぶのを七江は頭できいていた。先生のことをもっと知りたい。七江は自然とそう思うようになっていった。
先生が小さい頃から今でも続けているというバスケットを、私も勉強してみようかなという考えが頭を過った。これは我ながら名案であると確信し、さっそく『スラムダンク』を全巻貸してくれる友だちを探すことにした。
また つづく。