真っ白い封筒に、青空の便箋
黒いペンで
「拝啓」から始まり
「また 書きます。敬具」で終わる
私には、ヒーローがいる。
読まれない手紙を書くのは少し寂しいけど、ヒーローへの想いを綴る、その時間が好きで、ことある毎に書いている。
いつも笑顔で満開にしてくれる彼は、正しく私のヒーロー。その日は、待ちに待った彼のライブ。劇場は意外とこじんまりしているので、とにかく彼との距離が近い。
臨場感たっぷりのライブで、またまた私は笑顔に溢れる。彼自身もめちゃくちゃ楽しそうで、そういうところが大好きだ。
ライブが終わり、トイレへ行って、ハンカチを鞄にしまうとき、ペンが無いことに気付いた。思わず「あッ」と声を上げてしまう。更にびっくりしたことに、後ろでも「わッ」と声がする。驚いて後ろを振り向くと、そこにはヒーローがいた。
うそでしょ。咄嗟に固まった私を見て、彼は
「ごめん、急に声がしたから。なんかあったん?」
と声を掛けてくれた。なんだこの普通の会話は!?と冷静を取り戻した私も
「どこかにペンを落としちゃったみたいで。会場かもしれないので探してきます。」
と走り出す。すると後ろからもう1つの足音が追いかけてくる。
「えっ!?」
立ち止まり、振り返った私を彼が追い越してゆく。
「大切なペンなんやろ。俺も一緒に探したるわ。」
「えー、いいです。いいです。」
負けじと私もダッシュした。なんなのこれ?夢なの?嘘なの?ヒーローと一緒に走っちゃってるよ、私。心臓の音が、彼に聞こえたらどうしよう。そう思えば思う程、ドキドキが止まらない。
ライブ後で疲れてるにも拘わらず、必死で私のペンを探してくれる彼。同じ空間に存在してることが、本当に夢みたい。嘘みたい。
それにしても、どこを探してもペンは出てこない。落としたの、ここじゃないのかな。でも、ライブ後のアンケートを書いたときは持ってたし、落とすとしたらここしかないよね。でもでも、百均で買えるようなどこにでもあるペンだし、ずっと探してもらってたら申し訳ない。しかも、出てきたのが高級な万年筆なら格好もつくが、ただのボールペンじゃ言い訳もできない。
「あのー、もう大丈夫です。ありがとうございました。」
「まだ見つかってへんやん。」
「いいんです。どこでも買えるし、安いペンなんで。」
「でも、思い出のペンなんやろ?」
「え…」
「なくなって『あーっ』言うてたやん。大事なペンなんやろ?」
ばっちり一人言をきかれてた。顔から火が出る程恥ずかしい。
「…実は、好きな人に手紙を書くとき、そのペンで書いてて。でもそれだけで、ほんとどこでも売ってる普通のペンなんで。また買いま…」
「大事やんか。そんなん絶対見つけたるわ。」
一目惚れじゃないんだけど。今までもずっと好きだったんだけど。なんていうか、初めて同じ世界の1人の人間として、惚れてしまったんだと思う。彼が好き。一目惚れ、みたいだった。
「これちゃう?」
彼の手には、黒いペンが1本。それは間違いなく私がヒーローへのファンレターを書くときに、いつも使っているペンだった。
「それです。すいません、本当に普通のペンで。」
「ほーい。良かったやんか、見つかって。」
「はい、ありがとうございます。」
「これで好きな人に手紙書けるもんな。」
「また 書きます。」
「また 書きます…」
「…?」
「いや、こっちの話。そんなファンレターもらったなって。」
また 書きますのファンレター?私の最後の言葉と同じだよ。てか、ファンレターってちゃんと届いてるの?
「ファンレターって、本人までちゃんと届くんですか?」
「届くよ。ちゃんと読んでるし。」
「このペン使うの、貴方への手紙なんです。」
「えっ」
真っ白い封筒に、青空の便箋
黒いペンで
「拝啓」から始まり
「また 書きます。敬具」で終わる
「あれ、君が書いたん?」
「本当に読んでくれてるんですか?嘘みたい。あの手紙、このペンで書いてます。」
「嘘ちゃうよ。ちゃんと読んでるよ。いつも、ありがとうね。」
「めっちゃ嬉しい。ありがとうございます。絶対!また 書きます。」
「FUN LETTER」編vol.1 完。