私もお姉ちゃんみたいに、素敵な人と出会いたいなぁ。信じ合える人と出会い、家族になりたい。今の家族があんなんだから、余計にそういうものに憧れてるのかもしれない。
お父さんとお母さんは、産まれたときからそこに在った家族。最初から決まっていた家族。私が望んだ訳ではない。こんな言い方、必死で生きてる人に失礼だけど、どうしてもあんなの家族って認めたくない。
でも、結婚するときは、そのときだけは自分で家族を選ぶんだ。初めて家族を自分で決める。そんな奇跡みたいな家族、私にもできるかな。みんなが出会える訳じゃないよね。これはもう神様が決めた運命だもんね。
お姉ちゃんは幸せそうだった。そりゃあまだまだ色んな夢はあっただろうけど、お兄ちゃんと出会えて、幸せそうだった。笑顔、綺麗だったな。私も誰かと出会って、あんなに綺麗に笑えるのかな。
なんでだろ、そんなこと考えてたら、頭に彼のことが浮かんでくる。彼とは最初から住む世界が違ってたのに。それに、彼はもうこの町にすらいない。私が追い出したようなもの。彼にはたくさん迷惑かけたもん。居づらくなっちゃったよね、私のせいで。
今頃、何処で何してるのかな。会いたいなー。会ったって、なんて言って謝ればいいか分かんないけど。許してもらえるとも思ってないけど。
「だったら何で会いたいのよー?」
「え?んー、分かんない。」
「教えてあげようかぁ」
「え?お姉ちゃんが?」
「好きだから。」
「…。」
「好きだから会いたい。それだけでしょっ。」
そうだよね、お姉ちゃん。私、彼のこと好きなんだよね。ずっと前から思ってた気もするし、お姉ちゃんから言われて初めて分かった気もした。でも、彼とは信頼関係がある訳じゃないし。むしろ向こうは嫌いだと思う。彼を故郷から遠ざけたのは、私。迷惑な女って恨んでてもおかしくないよ。私がいけないってことも自覚してる。
そんな感傷に浸りながら、いつものコースを散歩する。でも、あきと君だけはいつもと違って今日は何だかハイペース。おーい、そんなに頑張ると帰り疲れちゃうぞ。なんて声を掛けたくなるくらい、今日はどんどんどんどん先に行く。あきと君て、こんなに歩けたんだっけ?
乳母車と荷物係のお兄ちゃんは、簡単に置いてかれて。あきと君と私が先に東屋に到着した。やっぱ変だ、あきと君こんなに歩けないよ。どういうことだろとあきと君を抱っこしよう思ったとき、彼と目が合った。
ビックリし過ぎて、一個も声が出ない。それどころか、何にも考えられない。頭の中が真っ白って、こういうことを言うんだ。お兄ちゃんに名前を呼ばれて、やっと我に返った。お兄ちゃんに気付かれないように声には出せなかったけど「待ってて」と口だけ動かした。
あんなんじゃ伝わってないよね。もういないよ。待ってる訳ない。もしも、待っててって声に出して頼んだとしても、彼が私を待っててくれるはずがない。
むしろ、本当にあれは彼だったの?この町に彼がいるなんて有り得ないよ。見間違いじゃない?ただの私の幻想かも。
そんな考えが浮かんでも、私の足は東屋へ向かって走っている。息が苦しい。でも、苦しくても止まらない。私は、彼に会いたい。彼が好き。この気持ちを、ちゃんと伝えたい。本当に彼に会えたら、言わなくちゃ。好きってこと、伝えなくちゃ。
また つづく。