来世で再び会うことを誓いました | 夢はなくとも 希望はなくとも 

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「これもらっとくわ」

 

 

つい先ほど

 

子どもたちが寝静まったので

 

奥さんと二人で

 

エクレアをね

 

子どもたちに隠れて

 

こっそり食べようと思って

 

冷蔵庫から出してきたんですわ

 

熱々のコーヒー片手に

 

よく冷えたエクレアをね

 

またチョコ部分がいい塩梅にパリッとしてて

 

これがまあ美味しいんですよ

 

こういう甘いものは

 

子どもたちが寝静まってから

 

こっそり隠れて食べるっていうのが

 

なんとも言えない背徳感があって

 

これぞ甘党派な食通のたしなみ方だと思うんですけども

 

ここで問題がひとつ発生したんです

 

そのエクレアの個数がね

 

奇数だったんですよ

 

ひとつ余るんです

 

それで

 

僕はね

 

やっぱり

 

エクレアですから

 

なんといってもあのエクレアですから

 

子どもたちが寝静まった後に食べるエクレアってことで

 

そのなんとも言えない背徳感に

 

僕の脳細胞はやられてますから

 

なんとしても

 

そのエクレアをね

 

食べたいわけです

 

でも

 

それは

 

うちの奥さんにしても同じことで

 

(この一個余ったエクレアは絶対譲らねえよ)

 

って顔して

 

なんとも形容し難い「圧」をね

 

ピリピリと発散してきてるんですよ

 

いやいやいや

 

これはどうしたものかと

 

ここで

 

「一個余ったし、そのエクレア食べといて」

 

って言って

 

奥さんにエクレアを譲るのが

 

良き夫であり

 

ジェントルマンとしてのあるべき姿なのかもしれないんですけども

 

今、論点になっているのが

 

エクレアですから

 

なんといってもあのエクレアですから

 

子どもたちが寝静まった後に食すことで

 

より一層糖度を増す効果があると言われている

 

背徳感を身に纏ったあのエクレアですから

 

ここはね

 

いくらジェントルマンであり

 

良き夫でもあるこの僕とて

 

そこは譲れねえよと

 

そう簡単には

 

このエクレアから手を引くことはできねえよと

 

そう思ったので

 

僕としても

 

奥さんの「圧」に対して

 

「圧」返しをお見舞いしてやったわけなんです

 

そしたら

 

(アンタがそう出るっていうんなら、こっちにも考えがある!)

 

っていう含みを持たせた態度で

 

「ジャンケンしようか」

 

と提案されまして

 

まあ

 

たしかにそれが一番フェアなやり方かもしれないと

 

納得しつつ

 

それでも

 

なんとかして

 

このひとつ残ったエクレアを

 

手に入れようと

 

全身全霊で

 

この戦いには絶対に勝つぞ!

 

という意気込みで

 

奥さんとのジャンケンに挑んだわけです

 

それで

 

「最初はグー! ジャンケン……」

 

 

奥さん:パー

 

僕:チョキ

 

 

(か、勝った……! 勝ったぞ! これでこのエクレアはオレのもんだー!)

 

ジャンケンには僕が勝ちました

 

内心ガッツポーズを取りながら

 

ポーカーフェイスで

 

ジャンケン勝負に勝ったのは僕なんで

 

その残ったエクレアにね

 

手を伸ばそうとしたその時!

 

あろうことか

 

ここで聞こえてくるはずのないフレーズが僕の耳に飛び込んできたのです!

 

そのフレーズとは……

 

 

「あいこで……」

 

 

(な、何? あいこだと……?)

 

あろうことか

 

うちの奥さんは

 

ジャンケンで明らかに

 

誰の目にも疑いようのない負けを喫しながらも

 

(決してこれは負けではない! あくまでドローである!)

 

という態度で

 

さらに僕にジャンケン勝負を続けようとしてきたんです

 

いや

 

普通に考えれば

 

「なんでだよ! どこがあいこだよ! ジャンケンに勝ったのはオレなんだから、このエクレアはオレのもんだ!」

 

とか言って

 

パクっとね

 

エクレアを食してしまえばよかったのかもしれません

 

しかし

 

まさか

 

ここで

 

「あいこで……」

 

と言われるとは思っていなかったのと

 

奥さんのあまりの正々堂々っぷりに

 

(あ、そうだな、あいこだな……)

 

って不覚にも思ってしまったというか

 

もしかしたら

 

世間的には「パー」と「チョキ」ってあいこっていうことになってるのかもしれないと

 

間違ってるのは僕の方なのかもしれないと

 

何故かそう思ってしまって

 

腑に落ちたみたいな感覚になって

 

何の抵抗もなく

 

僕自身も

 

さもそれが当たり前であるかのように

 

奥さんからの

 

「あいこで……」

 

というジャンケン勝負に乗ってしまったんです

 

そうしたところ……

 

「あいこで……」

 

 

奥さん:チョキ

 

僕:グー

 

 

「あいこで……」

 

 

奥さん:グー

 

僕:パー

 

 

「あいこで……」

 

 

奥さん:チョキ

 

僕:グー

 

 

「あいこで……」

 

 

4回連続で勝ってるにもかかわらずジャンケン勝負が全然終わらないんです

 

絶対に

 

「あいこで……」

 

って返ってくるんです

 

(こ、これは、おかしい! 絶対に何かが間違っている……)

 

そう思いながらも

 

お前は不動明王かっ!

 

っていうくらい

 

全然びくともしない奥さんの威風堂々たる姿に

 

僕は

 

「あいこで……」

 

と返ってくる度に

 

どんどんエクレアが遠くに行ってしまうような気がして

 

もう二度と

 

今生ではあのエクレアに会うことはできないのかもしれない

 

という思いを強くしていくことになりました

 

それでも

 

僕はジャンケンに勝ち続けたんですが

 

決着がつかないまま

 

ジャンケンは続きました

 

っていうか

 

どれだけ僕が勝ってもジャンケンは終わらないと思うんです

 

おそらくなんですけど

 

奥さんが勝つまで終わらないんですよね

 

逆に

 

そこまで

 

奥さんがジャンケンで負け続けられるっていうのは

 

ある種の才能ではないのかと

 

奥さんに対して

 

また別の意味での

 

畏怖の念的なものを感じてきてしまって

 

正直どうしたらいいものか

 

と思っていたところ

 

奥さんから

 

「もうしゃーないから、これもらっといてあげるわ」

 

 

これまた

 

何がしゃーないのか全くわからないフレーズを聞くことになりまして

 

結局

 

最後にひとつ残ったエクレアは

 

僕の目の前で

 

奥さんの口の中に

 

スローモーションで吸い込まれていくことになりました

 

僕に為す術もなく……

 

 

エクレアよ

 

絶対に

 

また来世で会おうな!

 

絶対だぞ!(泣)

 

《終わり》