Sapd ~ストーリー~ Episode4 | 語り手ベルの古い書物庫

語り手ベルの古い書物庫

オリジナル小説を置こうかと思っています。
拙い文ですがどうか温かく見守ってください。

旅人は街の正門へ向かっていた。
露店通りには早朝から居たので、まだ昼を回ったか回っていないかぐらいの時間だ。
本当は露店通りでの買い物が終わったら次の街へ向かうつもりだったが、先ほどに予定外の行動をしたため、予定が狂い、昼頃の出発になってしまった。
しかし街を出ようとする時間が早すぎると、正門は通れない。
その街で力のある者は通過を許可されるが、セレトのような街を渡り歩く旅人たちは夜逃げなどを防ぐため、門を開けてもらえない場合がある。
そんな時は、大人しく開門時間まで待つか、それとも力のある者に頼み込むかすればいい。
尤も、旅人に力を貸す権力者など、余程の物好きではあるが。
物事を違う方向から見れば時間の遅れなど気にするほどの事でもない、と、旅人は考察した。
そのまま寄り道をせずに真っ直ぐに正門へ向かっていると、何やら重苦しい雰囲気が漂ってくる。
どうも正門前でいざこざが起こっているようで、人々の罵声のような、歓喜の声のような、そんな言葉が飛び交っていて、余程興奮しているのか、お祭り騒ぎのようだ。
正門前に人だかりが出来ている。
不意に、雄叫びのような、只の叫びのような、そんな声が響いた。

「ガアアッ!」

ドォンッ。

唐突に衝撃波が旅人の体、むしろその場にいた人全てに襲いかかった。
叫び声を上げたのは少女で、大きく股を開いて構えるように仁王立ちし、その顔は攻撃的に表情が歪んでいる。
衝撃波は、その少女から発せられていた。
先ほどは人だかりのせいで小柄な少女は見えなかったが、衝撃波で人だかりが無くなり、視界が広がったので見ることが出来た。
そして、少女は見るからに暴走(オーバーロスト)している。
暴走とは、契約精霊の暴走を意味する。
契約精霊は契約を交わした主人を守るときや、主人にとって耐えきれないほどの苦痛が降りかかった時に起こる。
他にも、未熟な者が自分の腕よりもランクが高位の精霊と無理矢理契約した時や、精霊と仲違いをし、精霊、もしくは契約者の方から正式な儀式を行わず強引に契約を破棄した際にも暴走は起こる。
その際、精霊が激昂し、パワーリミットが振り切れ、限界以上の力が引き出された時、契約者は身体を精霊に乗っ取られる。
そして、乗っ取られた時に精神が精霊の圧力(プレッシャー)により、擦り切れる事がある。
精神が強靭であれば乗っ取られることもないが、もし精神が耐えきれない場合、身体が拒否反応と防御の意味合いを掛けて意識を奥深くまで沈め、身体の自由を精霊に奪われる事となる。
しかし、精霊とて主人の身体を好き勝手に動かすことは出来ない。
精霊自身の精神と主人の身体が馴染む事はなく、主人、精霊ともに激痛が迸り、力を周りに放出し尽くす。
それが、暴走――――オーバーロスト、だ 。
意図的に起こして制御し、自分の能力として発揮できる者もいると言う噂だが、よっぽど精神力のある奴なんだろう。
とりあえず今は暴走している少女を止めなければならないだろう。
暴走を止めるにはその者の契約精霊のランクを上回らなければ止められない。
そして、今、旅人が契約している精霊のランクは高位の霊精。
少女の契約印は旅人のそれよりも幾ばくか簡素なもので、中位の中間か低位の最高クラスだろうと、旅人は推察した。

「この中で、中位の琉精以上クラスの精霊と契約をしているものはいるか?」

『······』

吹き飛ばされていた民衆の反応はそれぞれ同じで、誰もそのクラス以上の精霊と契約を結んでいないことが分かった。
街の中に住む人ならば大体が最低位クラスと契約する。
しかし、旅人たちは外で魔物と戦うため、それなりの精霊と契約しているはず。
中には低位クラスで旅をする者もいるが。
そこは契約者自身の力で切り開いているのだろう、今回は運が悪かったのだと、旅人は一人前へ出た。
左手の契約印が光を帯びる。
契約精霊を呼び出すには言(コトイ)が必要だ。
まあ、いわゆる詠唱、と言うもので、力を貸してほしいと丁寧に念じれば良いだけ。
精霊を呼び出さず力のみを使う者もいるがそれは魔法使い(クロカス)たちの仕事。

旅人はゆっくりと少女に近づいていき、自身の周りに結界を張っていく。少女の精霊は闇に属する精霊の様で、グニャリと辺りを重力で歪ませていた。唯一無事なのが旅人の周りと、歩いてきた道。
契約印の輝く左手を少女に向けて翳す。

「内側の精霊を押さえてくれ。こっちは外の圧力を中和する。」

精霊は姿を現さずにそこに存在することが出来る。
つまり、見えないだけ。

「御意。」

「さて、街を出る前に一仕事するとしようか。」

旅人は笑った。