Sapd ~ストーリー~ Episode3 | 語り手ベルの古い書物庫

語り手ベルの古い書物庫

オリジナル小説を置こうかと思っています。
拙い文ですがどうか温かく見守ってください。

旅人と貴族風の男。
二人はたった今自分たちが出てきた街と外との境界にある扉へと駆ける準備をしていた。
襲い掛かろうとする狼型の魔物にその牙や爪で身を引き裂かれないよう、二人とも己の武器を握ったまま街への扉に目を向ける。
この狼の包囲網を抜けるには、二人同時に扉へと駆けるか、寄ってくる狼を全て斬り捨てるか。
前者は二人同時に扉へと入れなかった場合、ほぼ必然的に遅れた方が狼の餌食となるだろう。
かといって後者を選んでも、狼の数が不特定な上、そのうち疲労が体を蝕み、狼の数によっては二人とも死ぬ。
ならば前者をと旅人と男は武器を持っていない方の手で扉を指し示した。

「お互い、死ぬつもりも無いだろう?」

「ああ。カッド、だったな。遅れるなよ。」

ふいに、旅人は男の方へ振り返った。
先ほど後を付けていた時は剣呑たる表情に気を取られて相貌を確認することがままならなかったが、揺らめく長髪の金糸を碧のリボンで束ねており、目は紫紺の色を湛えていた。
切れ長の目は冷たい印象を与えるが、表情はいたって柔らかい。
神経は尖らせているのだろう雰囲気は柔らかくなく、寧ろ刺すような痛さを身に覚えるほど。
随分と器用な男だと旅人は思った。
同時に男の方も旅人の容姿について考えを巡らせていた。
旅人の羽織るローブは薄汚れた灰色で、背にロータス――、蓮の模様が大きく一輪咲き入っており、蓮の形を作るラインは煤けた茶色である。
旅人の顔は目深に被ったフードで隠され、弧を画く口元が覗くだけであった。


「さて、色々考えてる暇も無さそうだ。」

「急ぐとしよう。····、名前は何だい、旅人。」

「セレト。セレト・トメロタンだ。」

「短い間だがよろしく。クロストフ・カディオロイド。まあカッドと、頼むよ。」


旅人と男、セレトとカッドは挨拶を皮切りに扉へと駆けた。
追随してくる狼と、扉側に立ち塞がっていた狼。両方を斬り捨てながら、一気に扉に向かう。
後20、10、5···
ガァンッ。
足を振り上げて二人は扉を強引に開き、勢いでそのまま中に入り、体を捻り回し蹴りを扉に浴びせ、閉める。
ドンッ。ドサドサッ。
扉が閉まり、追いかけていた狼たちが向こうでドミノ倒しのように倒れる音が聞こえる。
危なげなく、いや、長い間危なかったわけだが、二人は街の中へと無事に入ることができた。
貴族風の男は何の用があって街の外へ出たのかは分からないが、そんなことはもうどうでもよくなっていて、気付けば二人は拳を突き合わせていた。
風がさらりと流れ、頬を心地よくなぜる。

「ひどい目にあったな、本当に。」

「私に付いてくるからだよ。君も物好きだね。」

「あんな貴族然りとした格好で外に出る奴がどんな人か知りたかっただけだ。」

「どんな人か、ね···。」

「さて、旅を始めるか。元よりこの街に長く滞在する予定はないし···あ、カッド。この街は何て言うんだ?」

「ラゴニドルカジア。これがこの街の名前さ。」

ラゴニドルカジア、仰々しい名前を頂くこの街はその名に相応しく、大きく広い街である。
街は円形で、中央に近くなるほど盛り上がっていく形だ。
山に作られたのだろう、崖もあれば、なだらかな所もある。
畑は少なく、果樹が多い。地形が関係しているのであろう、主食は果物の類いなのか露店では見たことのない果物ばかりが並んでいた。
貴族風の男は綺麗な刺繍の施された布でレイピアに付着した狼の血を拭き取っている。
段々と血の赤が拭い去られ、銀の刀身が光を浴びて反射光をくゆらせた。
旅人の持つ剣は刺すことで殺傷力を発揮するレイピアと違い、薙ぐタイプの物だからか、血は付いていない。振り抜きの瞬間に血は風で飛ぶのだろう。
二人はお互いに顔を見合わせた。

「じゃあなカッド。世話に――、なってはいないか。また会う日を。」

「ああ、どこかでまた。野垂れ死なないでくれよ。」

カッドは街の中央方面へ、セレトは旅を再開するべく街の正門へ向かった。