トニー・ジョー・ホワイト『Smoke from the Chimney』 | Music and others

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 2018年10月に心臓発作で急逝してしまった、スワンプ・ロックの代名詞的な存在のシンガー・ソングライター、故・トニー・ジョー・ホワイトTony Joe White.)の未発表ホーム・レコーディングが晴れて陽の目を見ることになりました。
 
Smoke-from-the-Chimney-00
 
アルバム・タイトルは『Smoke from the Chimney』で、全9曲が収録されています。 
 
本作でプロデュースを手掛けるのは、ザ・ブラック・キーズ(The Black Keys)でギタリスト&ヴォーカリストを務め、第55回グラミー賞にて最優秀プロデューサー賞を受賞しているダン・オーバックDan Auback)になります。 ヴィンテージ・ロックの再構築に最も精通したミュージシャンですから、極上のスワンプ・サウンドを創り上げて、オリジナルの音源を際立たせています(感謝!)
 
私が最近最も注目しているプロデューサー兼ミュージシャンであり、このamebaブログでも数多く取り上げて来ております。 いくつか印象に残っているブログを最後にまとめて紹介させていただきます。
 
1943年にルイジアナに生まれ、幼い頃からカントリー・ミュージックやゴスペル・ミュージックに親しんでハイ・スクールの頃にはギターを弾いていました。 やがて、バンドを結成して地元のクラブで演奏活動を始めた頃には、南部のブルースを聴き始めその後の彼の音楽性のベースになりました。 66年にカントリー・ミュージックのメッカであったナッシュヴィルへ移り、モニュメント・レコードと契約してデビューを果たしました。 69年リリースの『Black and White』に収録されている”Polk Salad Annie”が、彼のアイドルであったエルヴィス・プレスリーElvis Presley)にライヴで取り上げられてヒットし代表曲となり、一躍名前を知られるようになります。 
 
 
Continued
 
また、続いて発表した『...Continued』に収録されていた”Rainy Night In Georgia”はブルック・ベントンBrook Benton)にカヴァーされ、R&B チャートで見事1位に輝いています。 その後71年にリリースされた『The Train I'm On』はマッスル・ショールズ(Muscle Shoals Sound)でトム・ダウトTom Dowd)とジェリー・ウェクスラー(Jerry Wexler)のプロデュースで制作されて、スワンプの名盤として知る人ぞ知るアルバムとなりました。 次作の『Homemade Ice Cream』は、トム・ダウトの全面的なバックアップの元、ナッシュビルでレコーディングされ前作に劣らない味わい深い内容となっています。
The-Train-I'm-on
 
トニー・ジョー・ホワイトの創り出すサウンドは、当時イギリスにおいても非常に高く評価されていて、ロリー・ギャラガーRory Gallagher)が『Irish Tour '74』でドブロ(Dobro)を弾きながら”As the Crow Flies”を取り上げていたのは有名ですね! エリック・クラプトンEric Clapton)も、デラニー&ボニー(Delaney & Bonnie)と共に注目していたようですし、90年代には、ジョー・コッカー(Joe Cocker)を含めた3者でヨーロッパのツアーを敢行しています(凄い組み合わせでディープなライヴだったでしょうね!!)。
 
存在感のあるドスの効いた哀愁あるヴォーカルに、”Polk Salad Annie”に代表されるブルージー、且つ、ファンキーな楽曲だけでなく、”Rainy Night In Georgia”のような男気溢れるセンチメンタルなバラッドまで、心に沁みる曲の虜になります!
 
しかしながら、長い音楽活動の中で浮き沈みがありました。 80年代はディスコ・ミュージックに接近したりするのですが、大きな成果は残せませんでした。 それでも、再浮上するきっかけとして、ティナ・ターナーTina Turner)の89年リリースのアルバム、『 Foreign Affair 』では4曲を提供し、プロデュースとギター、ハープをプレイしています。 その中の1曲、”Steamy Windows”はスマッシュ・ヒットしました。 この成功により、90年代はメジャー・レーベルとの契約を勝ち得て、また精力的に活動を続けて行きました。
 
2000年代に入ってからは、ホーム・スタジオで自主制作を続けるという地道な活動に移ります。 2004年には『Heroines』という、トニーのお気に入りの女性シンガーとのデュエット、5曲を含むアルバムを制作しています。 エミルー・ハリス(Emmylou Harris)、ルシンダ・ウィリアムス(Lucinda Williams)、シェルビィ・リン(Shelby Lynne)、ジェシ・コルター(Jessi Colter)などが参加しており、悪くない出来栄えでしたが、表舞台に戻るほどの注目は浴びませんでした。 なお、このアルバム以降は、マネージメントを担当していた息子のジョディ・ホワイト(Jody White)がプロデュースに関わる様になり、少し風向きが変わって行きます。
 
□ ”Can't Go Back Home” by  Tony Joe White feat. Shelby Lynne ;

 

 

 
2006年にはスワンプ・レコーズ(Swamp Records)より『Uncovered』と言うとても興味深いアルバムをリリースしています。 マーク・ノップラー(Mark Knopfler)、エリック・クラプトン(Eric Clapton)、マイケル・マクドナルド(Michael McDonald)、ウェイロン・ジェニングス(Waylon Jennings)、極めつけは、J.J.ケール(J.J. Cale)と言う申し分のないゲスト・ミュージシャンが参加していました。勿論、同じスタジオに入って共演した訳ではなく、ミュージック・データのファイル交換を介してのものでした。 しかし、そのネーム・ヴァリューほどには内容は魅力的なものではなく、がっかりした覚えがあります。 また、資金的な問題なのか、個々の曲のミキシング・レベルにばらつきがあり、ボトムスのベースやドラムスのフレーズが安っぽいソウル&ファンク調(打ち込みっぽい感じ)で、時代錯誤的な違和感を覚えてしまいました。
 
□ ”Did Somebody Make a Fool out of You” by  Tony Joe White feat. EricClapton

 

 

 
 
ダン・オーバックは、2009年にソロ・デビュー・アルバム、『Keep It Hid』をリリースしており、そのプロモーションのためにオーストラリアで最大のミュージック・フェスティヴァルであるバイロンベイ・ブルーズ&ルーツ・ミュージック・フェスティヴァル(現在は呼称が変わり、バイロンベイ・ブルーズ・フェスト;The Byron Bay Bluesfest)にゲスト出演しました。 ウェブサイトはこちらになります(↓↑
Bayron-Bay-Blues-Fest-2009
 
トニー・ジョー・ホワイトは2007年からほぼ毎年出演していましたが、当時同じステージで共演する機会に遭遇したのです。 当時の貴重な出演者リストの画像が、熱心なザ・ブラック・キーズのファンのフォーラムに当夜のセット・リストなどと共にありました!(ここです ↓↑
Corner-Hotel-090409
 
この出会い以降、ダン・オーバックの方より一緒にレコーディングすることを切望して、アプローチを続けてきたそうです。 しかしながら、トニーは共同作業で曲を創り上げ、演奏することに難色を示して、従来通りのやり方でホーム・レコーディングを遂行したのです。 
 
真実はどうなのかは判りませんが、ジョディ曰く「トニーはこれらの楽曲をダン・オーバックと演奏することを想定して創りあげたみたいだ。 決して我々にはそのことは明かさなかったけれど・・・・・ そうでなければ、こんなに完璧に機能擦る訳がない!?」
 
  「So, this album really all worked out perfectly.
  He was making these tracks for Dan all along, but we just didn’t know it.」
 
 
Tony-Joe-White-2014
 
□ Tracking List *****;
  All tracks written by Tony Joe White. 
 
1. Smoke from the Chimney           05:04
2. Boot Money                 03:27
3. Del Rio, Youre Making Me Cry       04:24
4. Listen to Your Song              05:24
5. Over You                05:28
6. Scary Stories                 05:15
7. Bubba Jones               04:26
8. Someone Is Crying              04:33
9. Billy                   04:51
 
Personnel;
  Produced  and mixed by: Dan Auerbach
  Jody WhiteExecutive Producer
 
  Tony Joe WhiteGuitar (Acoustic), Guitar (Electric), Harmonica, Vocals
  Dan AuerbachBass, Chimes, Drums, Glockenspiel, Guitar (Acoustic), Guitar (Electric), Percussion, Vibraphone, Vocals (Background)
 
  Bobby WoodMellotron, Piano, Wurlitzer Piano
  Mike RojasClavinet, Hammond B3, Piano, Vibraphone, Vocals (Background)
  Ray JacildoHammond B3, Keyboards
  Paul Franklin–Pedal Steel Guitar
  Marcus KingGuitar (Electric)
  Billy SanfordGuitar (Electric), Gut String Guitar, Tic Tac
  Stuart DuncanFiddle
  Nick Movshon, Dave Roe, Eric DeatonBass
  Sam Bacco, Gene Chrisman Drums, Percussion
  Roy AgeeTrombone
  Tyler SummersSax (Baritone)
  Evan CobbSax (Alto)
  Matt CombsStrings
  Shae Fiol, Pat McLaughlin, Jim Quine, Mireya RamosVocals (Background)
 
トニーの死後に、それまでも息子として父親のレコーディングに関わってきたジョディ・ホワイト(Jody White)が、残されていたアナログ・マルチテープの未発表トラックを丁寧に調べて整理したのです。 ハープ、ギター、そして、ヴォーカルがレコーディングされたホームデモの中からセレクトし、デジタル・ファイルに変換し、ヴィンテージ・ロックを手掛けては右に出る者がいないと言われるダン・オーバック(Dan Auerbach)に委ねたのです。
 
なお、レコーディングは、ダン・オーバックがナッシュビルに所有するイージーアイ・スタジオ(Easy Eye Sound)で行われ、バッキングは最近のプロジェクトで重用しているメンフィス・ボーイズThe Memphis Boys)が中心になっています。
 
注1)60年代後期に多くのヒット曲を産み出したメンフィス(in Memphis, Tennessee)のアメリカン・サウンド・スタジオ(American Sound Studio)に所属していたハウス・ミュージシャン、メンフィス・ボーイズThe Memphis Boys)を起用しています。
エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)、ダスティー・スプリングフィールド(Dusty Springfield)、ニール・ダイヤモンド(Neil Diamond)、ウィルスン・ピケット( Wilson Pickett)と枚挙に暇のないロックンロール、サザーン・ソウル、R&Bの名曲のバッキングを担当して来ました。ダウン・トゥー・アースな手触りに、ダーティーでスワンピーな粘っこさが特徴です。
 
 
冒頭の”Smoke from the Chimney”、ミディアム・テンポのサザーン・カントリーとも言えるバラッドです。 アルバム・タイトルにもなっていますが、寒空にたなびく煙に年老いた今の自分の姿を重ねているかのようです。 長い歳月の中で変わり果てたり、喪失してしまったもの(事)はたくさんあるが、逆に色褪せることなく何も変わらないものもあると言う対比ですね。 この曲聴いただけで、もうトニーの世界観に中にどっぷり浸かってしまいます。 
アコースティック・ギターはカントリーの殿堂入り(Country Music Hall Of Fame)をしている御年80歳になるビリー・サンフォード(Billy Sanford)、エレキ・ギターはダン・オーバック、そして、ハモンドB3がいいアクセントになっています。ベスト・トラックだと思います、沁みます・・・。
 
そして、オフィシャル・ヴィデオの内容が秀逸で、これまた見入ってしまいます。 想い出に浸る場面に出て来るアナログ盤がライトニン・ホプキンス(Lightnin' Hopkins)なんですよね、通しで是非観てください。
 
     Some things are special
     They don't ever fade away
     Like smoke from the chimney
     And dreams of yesterday
 
□ ”Smoke from the Chimney” by Tony Joe White ;

 

 

 
 
続く”Boot Money”では、一転してドスの効いたヴォーカルで出口の見えない貧しい生活を淡々とした泥臭いスワンピーなサウンドで展開して行きます。
□ ”Boot Money” by Tony Joe White ;

 

 

 
 
3曲目の”Del Rio, Youre Making Me Cry”はサザーン・カントリー・バラッドで、ポール・フランクリン(Paul Franklin)によるペダル・スティールと女性コーラスが哀愁に満ちた感情を更に高めて行きます。
□ ”Del Rio, Youre Making Me Cry” by Tony Joe White ;

 

 

 
 
 
 
次の曲、”Listen to Your Song”はミディアム・テンポのロック色の強いアレンジで、良く練られたギターソロ(おそらく、トニー・ジョー・ホワイトとダン・オーバック)が曲にエナジーを与えているように感じました。
 
 
更に中盤の”Over You”はテンポを落としたサザーン・カントリーで、ポール・フランクリンによるペダル・スティールと御年80歳になるビリー・サンフォード(Billy Sanford)のギターがいいアクセントになっています。 名手ボビー・ウッド(Bobby Wood)によるピアノとメロトロン、更には、ハモンドB3にストリングスと多くの楽器が重ねられています。 10代の頃の淡い恋の想い出について書かれた歌詞ですが、ドスの効いたヴォーカルで歌うミスマッチ感が凄いです!
 
 
次の曲は”Scary Stories”、タイトル通りの楽曲です。 静けさを破るようなアコギのイントロにトニーのハミングが被さり、力強く始まります。 楽器の構成は最小限に留めており、トニーのギターとハープ、ドラムスはダン・オーバック自身が叩いています。
内容は歌詞を見る限り、”rawhead and bloodybones”などの常套句が出てくるところからも、昔からある子供に聞かせる怖い物語について歌われています。
 
 
 
いよいよ終盤に差し掛かり、”Bubba Jones”が始まります。 バス・フィッシングをやられる方であれば、ご存知かもしれませんが、アメリカでは有名な釣り具のブランド、ゼブコ(Zebco)のスピニング・リールの固有名詞だったり、25ポンドの世界記録になる大物のオオクチバスを釣り上げるシーン(夢?)が登場します。 オオクチバスはアメリカ南部の州、アラバマ、ミシシッピ、ジョージア州などでは州魚となっています。 日本では、広義にはブラックバス(コクチバスとオオクチバスの両方を含む)と呼ばれることが多いようです。 
ここのギターは、マーカス・キング(Marcus King)とダン・オーバックですが、マーカスの弾く太いボトル・ネックの短いオブリガートが冴えています。何か、グレッグ・オールマン(Gregg Allman)のソロ・アルバムのような気がしてしまいます。
□ ”Bubba Jones” by Tony Joe White ;

 

 

 
 
続いての”Someone Is Crying”、そして、最後を飾るのは”Billy”になります。 長い間一緒に旅をしてきた友人、ビリーへの惜別の歌ですね、やはり残して来た愛する人の元に帰るべき時が来たのだと・・・・・言葉にならない想いを込めて。
 
僅か9曲です。 どの曲も傑出したメロディーだったり、効果的なブリッジがある訳ではないけれど、スワンプ・ロックのパイオニアであるトニー・ジョー・ホワイトが世に送り出した楽曲は、他のソングライター達のものよりも効果的であり、人の心を動かさざるを得ない魅力に溢れていることをあらためて想い出せてくれました。 
 
 
 
最後に、ブラック・キーズ()関連の過去のブログについて、紹介させていただきます。 機会があればのぞいてみてください。
 
   2013年2月   The Black Keys 『Brothers』 を聴き直す (ここ↓↑
     
   2013年2月   The Black Keys 『El Camino』  (ここ↓↑
     
   2014年6月   ブラック•キーズ 『ターン・ブルー』   (ここ↓↑      
     
   2016年8月    ドクター・ジョン 『ロックド・ダウン』   (ここ↓↑
 
   2019年10月   The Black Keys『Let’s Rock』   (ここ↓↑
    
   2021年2月     Marcus King 『El Dorado』   (ここ↓↑