Badfinger『No Matter What: Revisiting the Hits』 | Music and others

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 英国発のパワーポップ・バンドと言えば、パイロット(Pilot)と言いたいところですが、絶対にバッドフィンガーBadfinger)だと断言します(私見ですが・・)
”フック”の効いたメロディー・ラインと、”エッジ”の効いたギターに少しゆるい”スライドギター”、ビートルズの弟分的なバンドでした。 なのに、マネージメントに恵まれず、悲劇に見舞われ続けて、才能あるアーティスト2人が自殺を遂げてしまいました。
 
ご存じの様に、音楽業界に巣食う財務、法務、経営を手中に収めて”やりたい放題”の限りを尽くした策士達にはこんな悪名高き人がいました。 アップル・レコーズ(Apple Corp.)をボロボロにして。ビートルズを解散に追い込んだ張本人であるアラン・クライン(Allen Klein)、初代マネージャーのマイク・アペル(Mike Appel)とブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)との2年間に及ぶ音楽活動停止と法廷闘争、そして、バッドフィンガーを食い物にしたスタン・ポリー(Stan Pollet)。
 
アメリカ進出のために契約した代理人、スタン・ポリー(Stan Pollet)がとんでもない悪辣な策士であった事から、楽曲の著作権やワーナー・ブラザーズとの契約の内容に至るまであり得ないほどの不利な内容とされてしまい、音楽活動は制限され、著作権は自分たちの手にはなく、更には生活苦にまでなってしまいます。
 
今や誰でも聴いたことのある名曲、”Without You”はニルソン(Harry Edward Nilsson III)によってカヴァーされ、1971年に全米、全英でチャート1位に輝き、それ以降も数多くのミュージシャンにカヴァーされており、若い世代ではマライア・キャリー(Mariah Carey)による93年のカヴァーで広く知られているはずです。この曲によりもたらされるはずの莫大な著作権料は、彼らの元には殆ど届いていなかったのです!
 
Badfinger-StraightUp
 
前身のバンド、パンサーズ(The Panthers)時代からの中心メンバーであるピート・ハムPete Ham)、そして、アイヴィーズ(The Iveys)と改名してから加入したトム・エヴァンスTom Evans)とマイク・ギビンズMike Gibbins)、そして、バッドフィンガーと改名する前後にギタリストとして加入したジョーイ・モランドJoey Molland)の4人が在籍した時代こそ、このバンドの真骨頂とも言える瞬間でした。
 
しかしながら、75年にピート・ハム、83年にトム・エヴァンスが自殺してしまい、マイク・ギビンスも2005年に亡くなっています。バッドフィンガー自体は、ジョーイ・モランドがリーダーとなり、メンバーを補充しながら活動を継続して行き、1984年に活動を停止しました。
 
当初は、ジョーイ・モランドがバッドフィンガーを代表する様なポジションにはいませんでしたが、徐々に楽曲提供の面において大きな比重を占めるようになり、バッドフィンガーの持つ独自のパワーポップを継承して来たことは評価に値すると思います。
 
昨年にはクラウド・ファンディングで資金を集めて、2013年以来のソロアルバム、『Be True  To  Youeself』を制作して、らしさを聴かせてくれました。 バッドフィンガーとして図抜けた楽曲は全て、今は亡きピート・ハムが作曲したものですが、演奏面も含めて基本的な枠組みを考えていたのは、ジョーイ・モランドではなかったかと思います。
 
今回は、バッドフィンガー名義で往年の名曲を豪華なゲスト陣を迎えて再現しています。 但し、あまり効果的な組み合わせとは思えない楽曲が多くて、少々ガッカリするものでした。 逆に、オリジナルの良さがより強調されたのは皮肉な結果ですが……。
 
Joey-Molland-Revisiting
 
Track listing;
1. No Matter What     (Pete Ham ) Feat. Mark Stein (Vanilla Fudge)
     from 『No Dice』in '70
2. Come and Get It     (Paul McCartney) Feat. Rick Wakeman
     from 『Magic Christian Music』in '70
3. I Don't Mind     (Tom Evans/Joey Molland) Feat. Carl Giammarese (The Buckinghams)
     from 『No Dice』in '70
4. Day After Day     (Pete Ham) Feat. Ian Anderson (Jethro Tull), Terry Reid ; Manchester String Quartet
     from 『Straight Up』in '71
5. Love Is Gonna Come at Last     (Joey Molland) Feat. Rick Springfield
     from 『Airwaves』in '79
6. Baby Blue     (Pete Ham) Feat. Matthew Sweet
     from 『Straight Up』in '71
7. Midnight Caller     (Pete Ham) Feat. the Legendary Pink Dots
     from 『No Dice』in '70
8. Suitcase     (Joey Molland) Feat. Sonny Landreth
     from 『Straight Up』in '71
9. Sweet Tuesday Morning     (Joey Molland) Feat. Albert Lee
     from 『Straight Up』in '71
10. Without You     (Pete Ham/Tom Evans) Feat. Todd Rundgren
     from 『No Dice』in '70
 
Badfinger-NoDice
 
 
まずは、アルバムのタイトル・トラックでもある“No Matter What”(邦題;嵐の恋)、70年リリースの3rdアルバムである『No Dice』からのリードシングルで全米のビルボードチャート8位に輝きました。 ピート・ハム作曲でリード・ヴォーカルも本人と言う、代表的な楽曲ですね。 この曲のゲストは、元ヴァニラ・ファッジ(Vanilla Fudge)のリード・ヴォーカリストであったマーク・スタインMark Stein)ですが、90年代以降は目立った活動はしておらず、存在感はあまり感じられません。 もっと、思い切ってレトロなサイケデリックな方向に振り切れば面白かったように思います。
□ ”No Matter Whatby Joey Molland featuring Mark Stein ;

 

 

 
 
2曲目はバンド名をバッドフィンガーに改名しての第1弾シングルである”Come and Get It”で、ポール・マッカートニーPaul McCartney)の作詞作曲というアップルレコーズの全面的なバックアップの下でレコ―ディンされました。 リンゴ・スター主演のムーヴィーである”The Magic Christian”の主題歌として、全英第4位にチャーインしました。 96年にリリースされたビートルズ(The Beatles)のコンピュレーションである『Anthology 3』で、ポール本人によるこの曲のデモ・ヴァージョンを聞くことが出来ますが、個人的にはそちらの方のシンプルな方が好きです。 で、この曲、”キーボードの魔術師”であるリック・ウェイクマンRick Wakeman)がゲストですが、存在感はあまり感じられません、完全なミスマッチでは??
 
Badfinger-MagicCh
 
3曲目の”I Don't Mind”では、60年代に一瞬輝いたブラス・ロックの先駆的グループ、バッキンガムズThe Buckinghams)のカール・ジャマリーズCarl Giammarese)が客演しています。 67年に”Kind of a Drag”で全米1位に輝いたのもつかの間で、あっという間に消滅したはずなのに、85年に再結成されて以降活動を継続しています(知らなかった!)。 当時のまんまのサイケデリックな味付けが意外にもフィットしていて、面白い雰囲気に仕上がっています! カール・ジャリマーズのインターヴューに因れば、数年前に60年代のポップ・バンドによる再結成ツアーで知り合い、意気投合したそうです。 ベーシックなトラックを仕上げた後で話し合った結果、ちょっとピンク・フロイドっぽい(a little Pink Floyd)ギター・リフをオーヴァーダブしたそうです。 感覚的には、デッド(Greatful Dead)とバーズ(Byrds)がミックスしたように聴こえますけれど‥‥。
□ ”I Don't Mindby Joey Molland featuring  Carl Giammarese ;

 

 

 

 
 
ベスト・トラックは次の楽曲、”Day After Day”ですね。 この楽曲が収録されている4枚目のアルバム、『Straight Up』は、当初はジェフ・エメリック(Geoff Emerick)のプロデュースで完成していたのですが、アップル・レコーズ側で却下されてお蔵入りになっています。 切り札として登場したのが、泣き節の得意?なジョージ・ハリソンGeorge Harrison)であり、”Day After Day”に”Suitcase”とあと2曲をプロデュースしました。 この曲のオリジナルには、ピアノでリオン・ラッセル(Leon Russell)も参加しています。 
□ ”Day After Dayby Badfinger;

 

 

 

 
全曲プロデュースし終える前に、バングラデッシュ難民救済コンサート(the Concert for Bangladesh)のために離脱してしまいます。 その後、尻拭いのために呼ばれたのがトッド・ラングレン(Todd Rundgren)と言うことで、技術的な能力は評価されていました。 2週間と言う限られた期間内にミックスまで完成させると言う命題の前では、殆どグループのアイデアは尊重されなかったと後日談で言われています。
 
□ ”Day After Dayby Joey Molland featuring  Ian Anderson (Jethro Tull), Terry Reid and Manchester String Quartet ;

 

 

 

一本足奏法のフルーティストであるイアン・アンダーソンIan Anderson)は流石の存在感であり、足跡の残し方を心得ています。弦楽四重奏団とのコラボレーション自体は、自身のソロ・プロジェクトとしてレコーディングしており、2017年にはアルバム『Jethro Tull – The String Quartets』が発表されています。 少しクラシカルで端正な室内楽の模様替えした演奏ですが、テリー・リードTerry Reid)のギター?が少し違和感を残しています(笑)。
 
余談ですが、テリー・リードの来日と隠れた名作『River』について触れたブログがあります。(こちらです↓↑
     2019年6月  テリー・リード 『River』
 
 
続いては、”Love Is Gonna Come at Last”ですが、ゲストはまた現役ミュージシャンとして復活していたリック・スプリングフィールドRick Springfield)です。 80年代を飾ったイケメン・リックの代表曲、”Jessie's Girl”によく似ていますね、わざと連想させるようにアレンジしているのかなぁ??
□ ”Love Is Gonna Come at Lastby Joey Molland featuring  Rick Springfield ;

 

 

 

 
更に、次に登場するのは90年代に登場して話題をさらったマシュー・スイートMatthew Sweet)、オルタナティブ・ロック世代の中でもひと際光り輝いたオタクなシンガー&ソングライターです。名盤『Girlfriend』、憶えていますか? この辺りは相性がいいので、何の違和感も感じません。
□ ”Baby Blueby Joey Molland featuring  Matthew Sweet ;

 

 

 

 
続いて、アンビエント、且つ、インダストリアルなフィールドで活動しているレジェンダリー・ピンク・ドッツthe Legendary Pink Dots)とのコラボレーションによる“Midnight Caller”ですが、ミスマッチな感じはしませんし、面白い組合わせだと思います。
□ ”Midnight Callerby Joey Molland featuring  the Legendary Pink Dots ;

 

 

 

次の2曲は、二人のギタリストによるコラボレーションですが、オリジナルの方でも聴かれるスライド・ギターの更に上を行く様なソニー・ランドレスSonny Landreth)の名演が冴えわたっています。 一方、9曲目のアルバート・リーAlbert Lee)の方は例の高速カントリーピッキングが聴ける訳でもなく、匿名性の中に埋もれてしまっている様に思います。
 
 
そして、最後を飾るのは、もうこれしかないであろう”Without You”です。 魔法使いのトッド・ラングレンTodd Rundgren)が客演しているのですが、お家芸のトリッキーなギター・リフを聴いただけで存在感はあるのですが、彼の持つ本来のプロデュース力やアレンジの才能をもう少し前面に出して欲しかったですね。 まあ、楽曲の持つ力が図抜けており、知名度の高さから無難な演奏になっていますが、仕方ないですね‥‥。 自身が急遽呼ばれて、プロデュース&ミックスを手掛けた『Straight Up』に収録されている楽曲、パワーポップの典型とも言える”Baby Blue”なんかをやって欲しかったと思います。
 
□ ”Without Youby Joey Molland featuring  Todd Rundgren ;

 

 

もっと評価されていいバンドだと思うのですが、YOUTUBEを見ると少しばかり哀しくなってしまいます。