ごく普通のプログレ・ファンであった私にとっては、宮殿こと、キング・クリムズン(King Crimson)の創立メンバーの一人であるイアン・マクドナルド(Ian McDonald)の名前は特別な存在です。 キース・エマースン(Keith Emerson)、グレッグ・レイク(Gregg Lake)と先に旅立って逝った彼等と同じくらい、何かを期待させる人なのです。 基本はEL&Pファンでしたけれど・・・・。
でも、最近のトリプル・ドラムス編成のキング・クリムズンにはぞっこんですけれど・・・・。(関連するブログはこちら↓↑)
そして、更には、マクドナルド&ジャイルス(McDonald & Giles)、そして、フォリナー(Foreigner)での活動でも知られるマルチ楽器奏者ですから、何か音楽活動を始めれば当然大きな期待を持って注視します。マクドナルド&ジャイルスのセカンド・アルバムはやはり幻に終わってしまいましたが・・・・。
だから、最初で最後??の筈のソロ・アルバム、1999年リリースの『Drivers' Eyes』 も、何の下調べも試聴もしないで即買いしました(ブログでの紹介はこちら↑↓)。
内容は、皆さんご存知のように、期待したようなクリムズンの面影は殆ど感じられず、どちらかと言えば、あの産業ロックの申し子と言ったフォーリナー(Foreigner)に近いポップな普通のロックでしたね。 私的には全く満足はしませんでしたが、どうしても気になり続けるアーティストなのです。
やはり、良く言えばフィクサーであり、普通の言い方であれば裏方に徹した方がその才能を十二分に発揮出来るのだと思いますけれど。 スティーヴ・ハケット(Steve Hackett)来日時のライヴである『Tokyo Tapes』(ブログはここ↓↑)でも、その存在感はありましたね。
1976年のフォーリナー(Foreigner)結成当時からニューヨークのマンハッタンに移り住んでおり、2000年代以降はセッション・ミュージシャンとしての活動が中心でそれなりに多忙だったようです。2011年頃から、近所に住んでいた”Frog and Peach Theatre Company”なる演劇集団の舞台監督を務めていたリネア・ベンソン(Lynnea Benson)とその夫君で舞台俳優であったテッド・トゥルコウスキー(Ted Zurkowski)と知己を得て、一緒に舞台音楽を手がけていました。
そんなイアン・マクドナルドが、トゥルコウスキー氏が趣味でやっていたアマチュア・バンド、Honey West に興味を持ち、時折一緒に演奏をするようになったのです。 その内に何かを感じて、自身の他に息子までも巻き込んで演奏面を補強して、正式にレコーディングするに至ったわけです。 まあ、最初は半分趣味の延長だったと思われますけど・・・・。
そして、デヴュー・アルバム『Bad Old World 』が完成し、本当にリリースされました。 海外のみで5月19日に発売され、リリース元は、2005年設立の新興のインディペンデント・レーベルである、United For Opportunity(UFO)。このレーベルに所属するアーティストで、知っていたのはアニー・ディフランコ(Ani DiFranco)だけでした。バンドのウェブサイトはこちらです(↓↑)
最初は趣味の延長でバンドに加わり、レコーディングまで進める予定ではなかった筈です。 しかしながら、シェークスピア等の舞台俳優であり、且つ、アクターズ・スタジオ(Actors Studio)を主催しているテッド氏の並外れた”作詞”(作 詩?)能力、演劇人であるが故の巧みで独特の鋭い言葉遣いに魅了されたのが理由だそうです。 ネイティヴ・スピーカーではないので、歌詞の持つ意味全てを理解はできませんが・・・・。
バンド名は洒落だと思うのですが、65年にTVで放映された女性の私立探偵が主役のシリーズ、『Honey West』(邦題;ハニーにお任せ)から借用しています。以前より、ライヴ・ハウスで活動していたテッドのバンドとして存在していたわけです。
基本、4ピース・バンドで、テッド・ツルコウスキー(Ted Zurkowski )がリード・ヴォーカルとギター、サウンドの中心には勿論イアン、そして、彼のご子息であるマックスウェル・マクドナルド(Maxwell McDonald )がベース、スティーヴ・ホリー(Steve Holley )がドラムス担当です。
スティーヴ・ホリーは、ポール・マッカートニー&ウイングス(Paul MaCartney & Wings)の後期
(アルバムで言うと、79年の『Back to the Egg』)に在籍していたセッション・ドラマー
(アルバムで言うと、79年の『Back to the Egg』)に在籍していたセッション・ドラマー
レコーディング時には、ジョー・ジャクスン(Joe Jackson)の盟友とも言えるグラハム・メイビー(Graham Maby)がベースで参加して、大半の曲でベースを担当しています。 作曲とサウンド・プロダクション全般はイアンが担当していますが、キーボード類やギターのオーヴァーダブは最小限に抑えられており、ライヴでの演奏を前提にしたレコーディングになっているように感じました。
アルバムは全12曲入りで、アルバム発売前には、”SoundCloud”で全12曲が試聴可能となっているので、聴いてみました。 またプロモーション映像(EPK=Electric Press Kit:音声や映像をまとめた宣伝キット)も公開されています。アルバム・リリース後の現在では、音楽配信サービスの”Sportify”で全曲がダウンロード可能となっています。
イアン・マクドナルド曰く、長年本当にやりたかったギター・オリエンテッドなロックバンドだそうです。念頭に置いていたのは、 モット・ザ・フープル(Mott The Hoople)、 キンクス(the Kinks)との事ですが、個人的にはトム・ペティ(Tom Petty)かトラヴェリング・ウィルベリーズ(Traveling Wilburys)の影を強く感じました。
それにプラスして、今となっては懐かしいパンク&ニューウェイヴの感覚が漂うようところが逆の意味で新鮮かも知れません。いずれにしても、期待しすぎたあのソロ・アルバムのような散漫な印象は受けません。リード・ヴォーカルが固定化されたことでの統一感がありますね。
□ 『Bad Old World 』 Track-listing*****;
1. The September Issue
2. Brand New Car
3. Bad Old World
4. She's Not Your Life
5. Sylvia Strange
6. Generationless Man
7. California
8. Sailing
9. A Girl Called Life
10.Old Man
11.Terry & Julie
12.Dementia
□ Personnal****;
Ted Zurkowski (composer, lead vocals, rhythm guitar)
Ian McDonald (composer, lead guitar & multi instruments, harmony vocals)
Steve Holley (drums, harmony vocals)
Maxwell McDonald (bass)
Graham Maby (bass)
1曲目から何処か懐かしいシャッフルビート全開のギター・オリエンテッドなサウンドで始まります。サウンドのニュアンスは、ザ・フー(The Who)という感じでしょうか?
2曲目はニュアンス的にはビートルズ、それも歌い方がジョン・レノン(John Lennon)そっくりで、コーラス部分ではビートルズ譲りのハーモニーが感じられます。 ここでは、イアンお得意のフルートが聴こえてきます。
次は、アルバム・タイトル曲“ Bad Old World” の登場です。これこそ、トラヴェリング・ウィルベリーズのサウンドに最も近い様な気がします。
□ Introducing Honey West “ Bad Old World”;
4曲目、アコギで始まるミディアム・テンポのカントリー・ワルツです。”She's Not Your Life”のリフレインが印象的です。
次の曲は、懐かしいグラム・ロックのニュアンスを感じます。でも、サウンド全体の感じは、ニューウェイヴ、頭に浮かんだのは、ずばり クラッシュ(The Clash)= ジョー・ストラマー(Joe Strummer)です。
そして、 公開されているMVの中で演奏されている曲、”Generationless Man”ですね。 このMVを観れば、このバンドと言うか、テッドとイアンが考えている事が良く分かると思います。 正に、ビートルズ(The Beatles)の『A Hard Day’s Nigh』をパロっている事が一目瞭然で、その50年後を描いているかのようですね。
コメディの部分は、おそらく英国で20年間続いた有名なコメディー番組である、”The Benny Hill Show”の下ネタや老人虐待ネタがベースになっているようでね。 何と云うか、アメリカの東海岸には住んでいるけれど、ウィットの感性はやはり英国人ならではと納得してしまいました。
一つだけ分からないのが、地名の付いた楽曲を作ることですね? 以前のソロ・アルバムにも、“ Saturday Night in Tokyo ” とか、“ Hawaii” と言う意味不明なご当地ソング?が収められていました。 この “ California “ からも、青い空に煌めく光と言った情景は思い浮かびませんでしたので、少し残念な感じがします。
後半の8曲目”Sailing” ですが、アコギの使い方と、間奏で飛び出すフルート、何とも言えない味わいのあるローレル・キャニオン風のサウンドですね。 フルートなのか、メロトロンなのか判別がつかないですけれど。イメージ的には、かつてのバーズ(The Byrds)でしょうかね。
自虐ネタ全開の10曲目、”Old Man” はバックで鳴り響いている12弦のリッケンバッカーな音、カントリー・ロック的な解釈の出来る良い曲ですね、一番かもしれません。 これぞ、正にトラヴェリング・ウィルベリーズ的な展開です。 リード・ギターは、ジョージ・ハリスン(George Harrison)的な音色ですね。
□ "Dementia" by Honey West;
最後の曲は衝撃的なタイトルです。”Dementia” (意味は、痴呆症)ですから、笑えない様なブラック・ユーモアに満ち溢れた曲です。 イアンのバリトン・サックスがなだれ込んで来ます。
日常生活の断片を鋭い観察眼で皮肉たっぷりに描いており、少し自虐的ではあるが、決して軽薄にはなっていないテッドの作詩(言葉)がイアン・マクドナルドを動かしたことは間違いないように感じます。
Honey Westは5月24日に地元ニューヨークのライヴ・ハウスである、Bowery Electric(あの伝説のCBGB'sのすぐ近く)でデヴューを飾ったそうですが、全米ツアーがブッキングできるのか注目ですね。
それから、今年の夏から秋に向けてイアン・マクドナルドが楽しみにしているもう一つのイベントがあります。 フォーリナー結成40周年を祝うオリジナル・メンバーによる再結成ツアー(40th anniversary reunion tour)が計画されています。
現在も活動中であったフォーリナーのリーダーであるミック・ジョーンズ(Mick Jones)に、脱退しているリード・ヴォーカルのルー・グラハム(Lou Gramm)が核となり、イアン・マクドナルドにアル・グリーンウッド(Al Greenwood)、デニス・エリオット(Dennis Elliott)、リック・ウィリス(Rick Wills)がステージに立つ予定になっています。勿論、アルバムで言えば、1枚目『Foreigner』から3枚目『Head Games』までの初期の曲の演奏に加わるだけです。 そうは言っても、色々な思惑があり、バンド内の主導権争いの結果追い出されたことには変わりはありません。
実際、金銭面の条件も含めて交渉がまとまったわけではないため、まだまだ紆余曲折はありそうですね。
とにかく、このアルバムを聴き終えて感じたのは、我々音楽愛好家が勝手にレッテルを貼り付けているだけであって、イアン・マクドナルド本人は元キング・クリムズンなどと言われて意図しないサウンドを求められてジレンマを感じて来たんだろうと思います。