ジョー・コッカー 『Stingray』 | Music and others

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 8年ほど前になりますが、アナログLPを1枚を残して全て処分しました。売るタイミングとしては、少し遅かった様に思ったものでした。 愛聴盤と言えるものは、キチンとCD(廃盤であれば、リイシュアーのタイミングを逃さずに)で買い直すつもりでした。 それでも、買うタイミングを逃してしまい、気が付けば”廃盤”の憂き目にあい、中古盤を時折探すことになる可哀想なアルバムも数多く存在します。



今回取り上げる、ジョー・コッカー(Joe Cocker)の76年リリースの本作スティングレイ』(Stingray)はまさにその典型例ですね。

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Stingray 』は、76年リリースとなるジョー・コッカーの6枚目のスタジオ作になります。 74年『I Can Stand a Little Rain』、75年『Jamaica Say You Will』、に続いての作品でA&Mレコーズでの最終作品になります。

いわゆる、彼固有のアクの強い初期の作品からは離れた、ロックとソウルとが上手くミックスされたメローな内容だと言えます。

私の持つ”彼のイメージ”とは、
- ウッドストック・フェスティバルでの強烈なインパクトあるライヴ
- マッド・ドッグス&イングリッシュメン(Mad Dogs & Englishmen
- 元祖エアーギター的なステージ・パフォーマンス
と云う要素が思い浮かびます。


でも、このアルバムは成熟した落ち着きある"激シブ"のアルバムです。 達人技が冴え渡る、スタッフ(The Stuff)の面々の身に染み付いたグルーヴに支配されたサウンド、もう心地よさは例えようがありません。


彼ら自身のバンドとしての素晴らしさ(ここ↓)、”職人技”は言うまでもありませんが、”歌伴”の巧さはテクニックだけでは語ることが出来ないと思います。


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このアルバム以前の作品においても、リチャード・ティー(Richard Tee)やコーネル・デュープリー(Cornell Dupree)は顔を出しています。 ただ、この作品全体を通して聴くことの出来るグルーヴは別格です。やはり、歌伴での巧みさは、場数を踏んでいる彼らならではのものではないでしょうか?


特に、リチャード・ティーが繰り出すピアノ、フェンダーローズの独特なグルーヴ空間に、スティーヴ・ガッド(Steve Gadd)の叩き出す硬質なビートが絡まると、もうそれは唯一無比と言えます。




◇ ***** Track listing *****

1. "The Jealous Kind" (Bobby Charles)
2."I Broke Down" (Matthew Moore)
3."You Came Along" (Bobby Charles)
4."Catfish" (Bob Dylan, Jacques Levy)
5."Moon Dew" (Matthew Moore)
6."The Man in Me" (Bob Dylan)
7."She Is My Lady" (George Clinton)
8."Worrier" (Matthew Moore)
9."Born Thru Indifference" (Joe Cocker, Richard Tee)
10."A Song for You" (Leon Russell)

◇ ***** Personnel ****
Joe Cocker - lead vocals, guitar

The Stuff is ;
Cornell Dupree - Guitar
*) Lead Guitar on #1
Eric Gale - Guitar,
*) Lead Guitar on #4, 5, 7
Gordon Edwards - Bass
Steve Gadd - Drums
Richard Tee - Piano, Fender Rhodes, Organ

Guest Musians;
Albert Lee - Lead Guitar on #3
Eric Clapton - Lead Guitar on #8
  Sam Rivers - Soprano sax solo
Felix "Flaco" Falcon - conga, percussion
Backing Vocals;
Patti Austin
Bonnie Bramlett
Lani Groves
Gwen Guthrie
Phyllis Lindsay
Brenda White
Maxine Willard
Deniece Williams
Arranged by;
  Eric Gale, Richard Tee, & Rob Fraboni on #4
 Taylor Downey, Peter Tosh, & Rob Fraboni on #6

Produced by
 Rob Fraboni
Recorded at Kingston, Jamaica



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ジョーコッカーの存在が最も認知されたのは、やはり、82年リリース、映画『愛と青春の旅立ち』のサウンドトラックである同名曲、"Up Where We Belong"ではないでしょうか?
ジェニファー・ウォーンズ(Jennifer Warnes)とのデュエットで大ヒットしました。 映画の原題は『An Officer and a Gentlemen』であり、リチャード・ギアー(Richard Gere)が一躍ブレークした恋愛映画でした。

70年前後のジョー・コッカーのイメージとは相当に違う印象となってしまいます。ヒット曲は必要不可欠なものではありませんが、活動を継続するためにはある種の力にはなると思います。



今回も、カヴァーする曲の選び方は巧みと云うか、渋いです。 レコーディング前に、そんなに熱心に何百曲と聴き込んでから、選曲しているようには思わないのですが、実際はどうなんでしょうか?

デヴュー時代からの盟友であるマシュー・ムーア(Matthew Moore)の曲が3曲、ボビー・チャールス(Bobby Charles)作が2曲、ボブ・ディラン(Bob Dylan)が2曲、何とパーラメントなどファンクの大御所であるジョージ・クリントン(George Clinton)の曲、名曲の誉れ高いリオン・ラッセル(Leon Russell)のあの曲、そして、今回リチャード・ティーと書き上げた楽曲とヴァリエーションに富んでいます。何時も以上に!


◇ ”The Jealous Kind” by Joe Cocker;




特に相性の良さを感じさせるのが、ボビー・チャールズ作の"The Jealous Kind"と未発表曲であった"You Came Along"の2曲です。


1曲目の "The Jealous Kind"は、このレコーディングが行われたのが、ジャマイカのキングストンであったせいか、レゲエ調にアレンジされています。
古いカントリーブルースに似たコード進行ですが、歌詞はもう単純な女性不信の塊のような内容です。


「Baby, don't be angry if I seem rude
 each time I meet
 Someone that you want to know that you say you used be
 so close to you
 It's just I'm so afraid someone must steal you away
 I'm lose my mind
 So please forgive me for the way I act sometime
 cause I'm a jealous kind

「会うたびに俺が無作法に感じられても
 ベイビー、どうか怒らないでくれ!
 君がよく話していた気になっている男が
 君のそばにいるんだろ

 誰か他の男が君を虜にして連れ去るかもしれないと思うと
 俺は気が変になる
 だから、ときどき俺がすることを許してくれ
 俺は 嫉妬深い性質なんだ」



 
◆ ”The Jealous Kind” by Bobby Charles feat. Sonny Landreth ;




オリジナル曲は、ボビー・チャールズの94年リリースの『Wish You Were Here Right Now』に収録されています。 この仕上がりも非常に素敵で、ギターはソニーさんことソニー・ランドレス(Sonny Landreth)のスライドがいい切れ味を出しています。

この曲、錚々たるアーティストがカヴァーしており、レイ・チャールズ(Ray Charles)、リタ・クーリッジ(Rita Coolidge)、エタ・ジェームス(Etta James)、フランキー・ミラー(Frankie Miller)、デルバート・マクリントン(Delbert McClinton)と数多くあります。



◆ ”The Jealous Kind” by Ray Charles ;





3曲目の”You Came Along” はこのアルバムでしか聴くことの出来ない曲となっていました。 しかしながら、2011年にあのライノ・ハンドメイドよりリリースされた“Bobby Charles: Rhino Handmade Edition”でようやくオリジナルが陽の目を見ました。 この曲のギターは、イギリス人ながら完全無欠なカントリー・スタイルのピッキングを見せるアルバート・リー(Albert Lee )が弾いています。 短いオブリガートながらいい味出しています。

■ ”You Came Along” by Joe Cocker feat. Albert Lee ;









そして、このアルバムを最初に買う動機となったのが、8曲目の”Worrier”です。 理由は、我が敬愛する”エリック御大”(Eric Clapton)がギターを弾いているからです。特別どうってことないフレーズで、そのためだけに買う価値があるとは言い切れません・・・・・・?!

おそらくは当時、シャングリラ・スタジオ(Shangri-la Studios)でレコーディングした『No Reason To Cry』の交通整理役としてプロデューサーとなったロブ・フラボーニ(Rob Fraboni)が繋ぎ役となったからでしょう。 この『Stingray』においても、プロデューサー兼エンジニアとして名前を連ねています。


この曲のギターのオーヴァーダブは、おなじシャングリラ・スタジオで録音されました。76年4月で、使用したギターはあの”ブラッキー(Blackie)”です。


□ ”Worrier” by Joe Cocker feat. Eric Clapton ;







10数年振りに聴きましたが、今聴いても古さを感じさせることなく、”噛めば噛む程に味の出る”スルメか、おぼろ昆布のような”良さ”を感じます。 アナログLPを手放したこと、後悔しています。(今では、オークションで1万円以上の値が付いています・・・)


この暑苦しい夏の夜に、バーボンかラムを一杯やりながら聴くと最高に合います
このサウンドを担ったスタッフ(The Stuff)のメンバー5人の内、
 ー エリック・ゲイル
 ー リチャード・ティー
 ー コーネル・デュープリー
の3名はすでに天国に旅立ってしまいました。 一度も観たことのなかった彼らのステージ、今夜はまた例のDVDでも見ましょうか(東アジアカップ観戦よりも安心出来るはず!)。