肩を叩かれながら「終わりましたよ」の声で目が覚めた。
まだ人工呼吸器のための器具が挿入されており、声が出せない違和感が目が覚めた時に強く感じたことだった。
手術台からベッドへ戻される時、ドラマみたーいと思ったのが次の記憶。
手術室から病室へ運ばれているとき初めてベッドを押してくれているのが主治医だと気付き「先生が押してくれてるんですね」と発したのが第一声だった。
病室に戻り沢山の看護師の方や先生が私の周りで血圧やら酸素の機械やらを手際よく装着していく様ははっきりとしない意識の中でこんなにたくさんの人が私のために動くのかと驚いた。
そして次に襲ってきたのは
『暑い!暑い!痛い!』
あまりの暑さで意識がはっきりし、それと同時に脇のあたりが焼けるように痛い。
看護師の方と主人が上に掛けられてる布団をどかしてくれる。
主人は私の露わになった太ももから汗が流れているのを見て驚きながらその場にあったタオルで仰いでくれた。
幸いにも痛さは手術室で入れてくれた痛み止めがすぐに効き引いていったが暑さだけはそれから小一時間続いた。
病室には主人と義母、そして義妹と姪2人が居てくれた。
義妹は介護士をしているだけあって手際よく私の口の渇きを察知してリップを塗ってくれ、口をゆすがせてくれた。
あんなに口をゆすぐことが気持ちいいと感じたのは初めてで、
主人には気が付かない女性らしい気遣いが本当にうれしかった。
痛い、暑いという私に中学生になる姪はクレヨンしんちゃんのハンドタオルを差し出して
『1番お気に入りのタオル、ミホに貸してあげるね』
と言いながらはにかんだ。
この子は本当にいつも優しい。
ふざけながら色んな管につながれる私を記念撮影をして笑いながら帰る彼女たちに私も主人も救われた。
私が癌になったことに何かに意味があるとしたら、
こんなに素敵な家族をしっかり大切にしなさいと教えてくれる為なのかもしれないと思う。
あのクレヨンしんちゃんのタオルは今も私のクローゼットにあって、返さなくてはと思いつつ、何だか返すのも切ないからそのままにしてあるよ。
花梨ありがとね。
大好きよ。