主人と手を繋いで歩いた。
手術室のある地下は、上の階に沢山の人がいるとは思えない静けさだった。
主人とハグをしてまっすぐ自動ドアをくぐる。
振り返って見えた主人はいつも通り優しく目尻を下げていた。
ドアが締まり沢山の手術室が並ぶ廊下を歩いていたら涙が止まらなくなった。
私の手術を行う手術室前に看護師の女性が立っていて、泣く私を優しく迎えつつ、
名前と生年月日を聞かれた。
声が出ない。
嗚咽しか出ない。
やっとの事で絞り出した声は恥ずかしいほど震えてて、自分の臆病さと恐怖心を表していた。
その時主治医の先生が見えた。
キャスターの付いた丸い椅子に座りながら、他の人に指示を出す姿が見えた。
形成の主治医の先生は手術台の足元近くの壁に寄りかかっていた。
その姿に急に安心した。
手術前から病院の看護師さんたちに言われた言葉を思い出した。
主治医の先生の名前をカルテやベッド上のネームプレートで確認される度に
「この先生なら間違いないから大丈夫」
「えっ。K先生がオペしてくれるの?
なら安心だよ~」
「この病院で1番腕のいい先生だよ」
この病院にかかって4ヶ月。
短い期間だけれど私は先生を信頼できていた。
それは自分の心の持ちようかもしれないけれど、信頼こそ安定剤だった。
その信頼する先生に任せるのみ。
人事は尽した。
あとは天命を待つのみ。
私に出来ることは耐えることだけ。
麻酔のマスクが苦しくて、息をすることに必死になっていたら手術なんてあっという間に終わってた。
そして右の乳房を失った。