平行世界って知ってますか?
所謂パラレルワールドってやつです。


シム世界には数え切れないほどの平行世界が存在していて、同じシムでも世界によって年齢が違ってたり、性格が変わってたり、はたまた別のシムと結婚していたり……それぞれの世界で異なる運命を皆辿ってるんです。


でも、1人だけ――唯一運命が変わらない男の子がいました。

その子はどの世界でも必ず家族から虐待されていて、心も体も痛めつけられてシム以下の扱いをされて育って、それでも自由を求めて、ティーンになったら家を飛び出すんです。


けど結局、その子は家族に半ば拉致される形で連れ戻されて……虐待された末に亡くなります。

死因は餓死だったり、絞殺だったり、世界によって違えど いずれも家族からの虐待によるもの。

その子は絶対ティーンで亡くなる運命なんです。
未来がないんです。
若者になれずに人生を終える。


最後には「生まれてこなければ良かった」と言って。


僕達はその子を助けたいのに、これが最後なのに……どうすれば良いんだろうか……。

 


月曜日


キルシュ(さて、そろそろ学校に行く準備を……あれ?ダイアナちゃんからメール……珍しいな)


【キルシュお兄さん、お久しぶりです。お兄さんもカイザもお元気ですか。実は最近 保護したお馬さんのことでキルシュお兄さんに相談があってメールしました。保護したお馬さん、なんだかすごくパニックになってて逃げ回ってて、どうすればいいのかわからなくて……キルシュお兄さんにお馬さんとお話してほしいんです。お時間ある時に、ブリンドルトン・ベイにある私達のお家に来てくださいませんか】


キルシュ(保護した馬のことで困ってるのか……力になれるかわからねえが、放課後にダイアナちゃんの家に行ってみるとするか)

 


 カッパーデール高校



校長「やあ、ブルームくん。待っていたね」
キルシュ「うっ…………おはようございます……」


校長「おはようございますじゃないね、木曜日、無断欠席したの忘れたのかね?連絡もなしに学校休むなんてバカにしてるよね」
キルシュ「えっと……すみません、急用が入って……連絡するのも忘れてしまって……」

校長「なんか嘘くさいね、信じられないね。ていうかさ、学校には来てたんじゃないの?カデックくんとフーくんから聞いたよ、木曜日の朝は校門前で君を見かけたって。おかしいよね?学校に来てから急用が出来たんなら、教師に一声かけるもんだよね?ホントは学校に隠れてて授業サボったんじゃないの?怒らないから、ホントのこと言ってみなよ」
キルシュ「………………」


キルシュ「…………その……色々トラブって……トイレの個室に閉じ込められてて……」
校長「うわっ!君の両親から聞いたとおりだね……都合が悪くなると自分に非はありません、悪気はなかったんですって感じで良い子ぶって、自分可哀想アピールするって……そういうの良くないと思うね。そうやって周りを欺いてると、ろくな事ないね。素直に自分の非を認めて謝罪するということを君は覚えるべきだね」
キルシュ「……あ……」


校長「今度問題を起こしたら、親御さんを呼んで三者面談するからね」
キルシュ「親を……呼ぶ……」

校長「一人暮らしをしてると言えども、君はまだ子供だからね。子供が間違った道に進まないよう軌道修正するのは教師や親の役目だね」
キルシュ「…………………」



キルシュ(……三者面談……絶対に嫌だ…………もう何も、トラブルが起きませんように……)


キルシュ(あ、メールだ……ダイアナちゃんからかな……)

【必ず連れ戻す】

キルシュ「え……」


【私達を散々狂わせておいて、お前は自由に生きて幸せになる?そんなことは許さない】

【お前が楽しく暮らしてるというだけで腹が立って仕方ない】

【お前は一生私達の奴隷】

【逃さない】


キルシュ(…………た、ただの、迷惑メール、だよな……知らないアドレス、からだし……俺が、考えすぎなだけ……最近、ナーバスになってて、良くない、な……)

 


 ブリンドルトン・ベイ



ダイアナ「キルシュお兄さん、久しぶり!来てくれてありがとう!」
キルシュ「ああ、久しぶりダイアナちゃん」

ダイアナ「お父さんとお母さんもキルシュお兄さんに会いたがってるの、お家に上がって上がって」
キルシュ「じゃあ、お邪魔します」


キルシュ「あ、はじめまして……キルシュ・ブルームです」
女性「……あら、貴方……」

キルシュ「え?」
女性「……何でもないわ。はじめまして、私はキャサリン・フェニー。カイザの件では娘がお世話になりました」


男性「やあ、君がダイアナの言っていたキルシュくんか。俺は父親のアランだ。宜しくな」
キルシュ「宜しくお願いします」


ダイアナ「キルシュお兄さんは凄いんだよ、本当に動物とお話出来るんだ」
キャサリン「まあ……確かに動物が好きなシムは、動物と心を通わせることが出来るって聞いたことがあるわ」

キルシュ「あはは……あの、それで問題の馬というのは……」
アラン「ああ、案内しよう」


アラン「ほら、あそこにいる白い仔馬だよ」
キルシュ「仔馬か……」


仔馬「ヒヒン!
キャサリン「あっ……また逃げてしまったわ……」

アラン「見ての通り、物音や声がしただけで逃げてしまうんだ……何を恐れているのかわかれば対処が出来るし、君に話を聞いてもらいたくてね……」
キルシュ「なるほど……とりあえず話しかけてみます」


キルシュ「よう、はじめまして」
仔馬(ビクッ
キルシュ「あ……大丈夫、脅かすつもりはないから……ただ、お前の話を聞きたいだけなんだ。俺はキルシュっていうんだ、宜しくな」

仔馬(……キルシュ……?)
キルシュ「そう、キルシュ。キルシュ・ブルーム」


仔馬(……なんだか、懐かしい香りがしましゅ……あの人達と同じようなニオイ……それにブルームって……)


仔馬(……わたくち、ワイルドソニックでしゅ……)
キルシュ「ワイルドソニックっていうんだな、格好良い名前だ」


キャサリン「すごい……私達が近づくだけで逃げまわったのに、あの子には懐いてる……」
アラン「本当に動物と話せるのか」
ダイアナ「もう、だから言ったじゃない!本当に話せるって!」

クルーク(ふふん、キル兄が褒められてます!ボクも鼻が高いですよー!)


ワイルドソニック(キルシュしゃん、わたくちのお話、信じられないかもしれましぇんけど、聞いてくだしゃい)
キルシュ「うん、なんだ?」

ワイルドソニック(あのね、わたくち……別の世界から、来たんでしゅ)
キルシュ「…………どういうこと?」


ワイルドソニック(わたくち……ここじゃない世界の牧場で飼われてたんでしゅ。でも……飼い主しゃん達がお引越しして……新しいおウチに入った瞬間……目の前が真っ白になって……気づいたら仔馬の姿になって、この世界にいたんでしゅ)


キルシュ「……なんで別の世界って言い切れるんだ?」
ワイルドソニック(言葉にするのが難しいんでしゅけど……なんか、違うって……違和感があるんでしゅ。わたくちがここにいる違和感。それに、前に住んでたおウチに行っても全然違うシムが住んでましゅし……わたくちが知ってる世界と似てるのに違うんでしゅ。これが噂の平行世界ってやつなのかなと思いまちた)

キルシュ「なるほど……?」
ワイルドソニック(わたくち、どうすれば良いのかわからなくて困ってて……そうしたらここのシムさん達に保護されたんでしゅけど……なんでかわかんないでしゅけど、他のシムさん達に拒絶反応が出ちゃうんでしゅ。なんだか無性に怖くなって、つい逃げちゃうんでしゅ)

キルシュ「そっか……でも俺には大丈夫なのか?」
ワイルドソニック(あい!キルシュしゃんには、なぜか拒絶反応が起きましぇん!それに、わたくちの飼い主さんと同じニオイがして安心するんでしゅ!)
キルシュ「同じ匂い……」


キルシュ(うーん……別の世界から来たって……にわかには信じがたい話だけど……ウソついてるようにも見えないし、妄想という訳でもなさそうだし……キャサリンさん達にどう説明すりゃいいんだ……?)


ダイアナ「あっ、キルシュお兄さん!どうだった?」
キルシュ「えっと……あの子、ワイルドソニックという名前があるみたいだ」

ダイアナ「名前があったんだ!勝手にイデアって名前つけちゃってた」
キャサリン「名前があるということは飼い主がいるのかしら?」

キルシュ「飼い主はいたみたいなんですけど……この世界の何処にもいないって……」
キャサリン「亡くなってしまわれたってこと……?可哀想に……他には?」

キルシュ「今は、他のシムと触れ合うと拒絶反応が起きてしまうみたいなんです……俺は……なんか、前の飼い主と匂いが似てるみたいで平気みたいですが」
アラン「うーん、なるほど……拒絶反応か……何らかのトラウマだろうか……しかし参ったな……シムに慣れてもらわないと、里親が見つからないし……」


アラン「……キルシュくん、悪いんだが……あの子がシムに慣れるまで、預かってもらえないだろうか。カイザに続いて、また預かりボランティアをやってもらって申し訳ないんだが……」
キルシュ「…………」


キルシュ「……俺で良かったら引き受けますよ。なんかあの子、放っておけませんし」
アラン「おお、ありがとう」


キャサリン「貴方、優しいのね……噂とは大違いだわ」
キルシュ「噂?」

キャサリン「お隣さん、牧場スタッフセンターで働いていて……よく貴方の話をしてるのよ。キルシュっていうスタッフの派遣を断られるほど悪名高い馬主がいるって」
キルシュ「え……」

キャサリン「アロガンというチェスナット・リッジ一の馬主さん?そのシムが牧場スタッフセンターに注意喚起して、派遣を止めさせたって。相当悪い子ってネットでも噂になってるけど……全然そんな素振りもないし、やっぱり噂は噂ね」
アラン「おいおいキャサリン、ネットの噂話なんて真に受けるもんじゃないぞ」
キャサリン「そうね」

キルシュ(…………牧場スタッフの派遣を断られたのは、アロガンの嫌がらせってことか……)


アラン「アロガンというシムのことはあまりよく知らないが、きっと若い才能に嫉妬でもして嫌がらせでもしてるんだろう……しかし牧場スタッフが雇えないというのも大変じゃないか?私の知人にボランティアで牧場の手伝いをしているシムがいるんだ。もし良かったら、そのシムに頼んで君の牧場の手伝いに行ってもらおうか?」
キルシュ「え……いいんですか?」

アラン「ああ、カイザの件からお世話になっているからな」
キルシュ「ありがとうございます、助かります……!」


キルシュ(良かった……いくら皆が大丈夫と言っても、留守にするのは気が引けてたんだよな……でもスタッフがいるなら安心だ……)


キルシュ(しかしアロガンの奴……わざわざ牧場スタッフセンターに行って、俺の所にスタッフを派遣させないようにするなんてな……やっぱりこれって……嫌がらせ、なのかな……)

 


 ブルーム牧場


キルシュ「ふう……着いたぞワイルドソニック。今日から暫く、ここで一緒に暮らそうな」
ワイルドソニック(あい!)
シュバルツ(………………)


キルシュ「しかし、別の世界から来た馬か……どうにか元の世界に帰る方法とかないのかな」
ワイルドソニック(どうなんでちょ……そもそも、どうちて別の世界に飛ばされちゃったのかもわかんないでしゅし……)
シュバルツ(…………………)

キルシュ「………………」


キルシュ「あの、シュバルツ……?なんかさっきから圧が凄くないか……?」
シュバルツ(……ボク イガイ ノ ウマ……)

キルシュ「ワイルドソニックにヤキモチ妬いてんの?仲良くしてやってくれよ、アイツも別の世界から飛ばされてきて不安がってるんだわ」
シュバルツ(………………ムゥ)
ゼーレ(シュバルツ、大人ゲナイゾ)


クルーク(まったくシュバル兄はお子様ですね!ボクはちゃーんと大人ですから、ワイルドソニックちゃんをエスコートしますとも!)
ワイルドソニック(子供扱いしないでくだちゃい!わたくち、仔馬の姿になってるけど、ホントは大人のレディーなんでしゅからね!)
クルーク(はわ……すみません……)


キルシュ「ほらシュバルツ、ニンジンやるから機嫌直せよ」
シュバルツ(……キルシュ ノ アイボウ……ボクダケ……)
キルシュ「うんうん、俺の相棒はお前だけだよ。ほら、あーん」


シュバルツ(……アーン)
キルシュ「よし、良い子だ」


シュバルツ(ホラ、アーン シテモラッタ!ヤッパリ、キルシュ ノ アイボウ、ボク!ボクダケノ、トッケン!)
ワイルドソニック(……なーんか、ムカつきましゅね)


ワイルドソニック(キルシュしゃん、わたくちもお腹空きましたわ〜)
キルシュ「ああ、ご飯か。シュバルツはちょっと待っててな」
シュバルツ(エッ


キルシュ「えっと、ミルクで大丈夫かな?」
ワイルドソニック(あい!!


キルシュ(シュバルツもこうやって哺乳瓶でミルク飲んでた時期あったな……なんだか懐かしいな)


シュバルツ(…………ムスー

ゼーレ(シュバルツ、完全ニ不貞腐レテルナ)
クルーク(同じ馬だから余計に妬いてるんでしょうねぇ……これは暫くは大変ですよ……)
ゼーレ(動物 ニ モテモテ ナノモ大変ダナ)


シュバルツ(フーン ダ!ボク、オニイチャン ダモン!ヤキモチ、ヤイテナイモンネ!)
クルーク(妬いてますよ)
ゼーレ(妬イテルナ)


シュバルツ(ミルヒ、ナハト……ワイルドソニック ニ、アイボウ ノ ザ、トラレタラ、ドウシヨウ……)

ナハト「めぇ……めめぇ」
ミルヒ「メッ!メェ」

シュバルツ(エッ、カンガエスギ……?ダイジョウブ ダカラ、アンシン シロ?ウン……)


カイザ(カッカッカ!神・降臨!!奴隷よ、また厄介な事を引き受けたようだな!!)
キルシュ「別に厄介ではないけど……ただまあ、ワイルドソニックは何とか元の世界に帰してやれないかなとは思ってる」


カイザ(ふむ……猛き音速の天使は異なる世界から来たと言うのだろう?)
キルシュ「ワイルドソニックな、変なあだ名つけるな」

カイザ(奴隷よ、私がラマ・ザ・ゴッドであることは覚えているか?)
キルシュ「毎日毎日 神だのゴッドだの聞かされてんだから忘れようがねえよ」

カイザ(いや、その……この場合のラマ・ザ・ゴッドとはサイエンス・ラマという意味だ)
キルシュ「サイエンス……勿論覚えてるさ」


カイザ(ならば話は早い!私を降臨させたあの研究所……実はサイエンス・ラマだけではなく平行世界の研究も行っていたのだ)
キルシュ「平行世界の研究……あっ」


キルシュ「確かに、落ちていたメモに平行世界がどうとか色々書いてあった記憶があるわ……あの時は寿命を伸ばす餌のことで頭がいっぱいで、そんな場合じゃなかったけど……」



カイザ(うむうむ!その研究所ならば、猛き音速の天使を在るべき世界に帰す手がかりがあるのではないかと私は考えているのだ!!)
キルシュ「確かに……メモもまだ沢山あったし、何か情報があるかもな。ありがとよカイザ、明日早速あの研究所に行ってみるわ」
カイザ(カカカッ!神のお告げに深く感謝するが良いぞ、奴隷!)


シュバルツ(……ムスー)


※明日の更新はお休みします。