明治深刻悲惨小説集 | あだちたろうのパラノイアな本棚

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読書感想文、映画感想、日々のつぶやきなどなど。ジャンルにこだわりはありませんが、何故かスリルショックサスペンスが多め。

 

 

明治深刻悲惨小説集・・・

 

ものすごいタイトルです驚き

 

けどこれは、「悲惨小説」とか「深刻小説」と称された一つのジャンルだったらしいです。明治期、浪漫主義から自然主義への過渡期文学として。

日清戦争後の社会不安を背景に、死、貧窮、病苦、差別などをテーマに書いてあります。

もう、暗いのなんのって。

物語の展開があまりに悲惨すぎて「ちょっとこれどうなの」って思うところもありましたが、実際のところそんなに現実と大差ないところもあったんだろうな・・・

いつの時代も虐げられるのは、女や子供など弱き者です。

 

明治文学は文語体で書いてあるものが多いので、読むのに時間がかかりますね・・・ひとたび興に乗ると、不思議なリズムで音楽を奏でるように進むんですけど。このリズミカルさは、もしかして講談とかを聞き慣れた人々が書いたからなのかな?

 

 

●『蝗うり』/前田曙山

 

病気の母と二人ぐらしの少女が、生活のために毎日田んぼにイナゴをとりに行き、それを行商して歩くお話。

夜が明けるとともに病床の母は少女を起こしてイナゴとりにやらなければならないが、もっと寝かせてあげたいなあと思う母心と、ここで起こさねば二人とも食べるものもないというジレンマで苦悩する母が・・・もうこれだけで涙。

 

 

●『断流』/田山花袋

 

どこまでもどこまでも続く艱難辛苦。

ちっとも救いがない。

 

長い!!!

 

長すぎて、くどい・・・

田山花袋の『蒲団』が気持ち悪すぎて個人的にこの作家が好きじゃないからイメージ悪いのかな?

 

越後魚沼にある商家のお嬢さんとして生まれた少女お勝が、継母と放蕩者の父のせいで東京の紡績女工に出され、無理やり妾にされ、女郎に売られ、盗賊の妻になり、性病に罹ってボロボロの状態で帰郷するというお話。

 

誰が悪かったんだろう?

 

驚きだったのが、紡績女工として働いていた工場の偉い人がお勝を無理やり手ごめにしてしまうんですけど、

 

世間皆かくの如くなり。

否少くとも紡績会社は皆かくの如くなれば、お勝のかく堕落したるは、更に咎むべき事にてもなく、

 

って書いてあることなんです。

女工は劣悪な労働条件で健康を害する者が多かったのは聞いたことがあるのですが、こんな性被害も日常茶飯事だったってことか?教科書に載せられない事実だわ・・・ガーン

(田山花袋が盛ってるのかもしれないが)

 

 

●『寝白粉』/小栗風葉

 

差別がテーマの物語です。

昔は「穢多」と呼ばれ、明治になって「新平民」と呼ばれるようになった人たち。

新平民という呼称がすでに差別的です。

 

宗太郎とお桂というきょうだいは薹が立つ年齢なのにどちらも未婚のまま。お桂はいい歳をして若づくりしているのを周りの女たちに陰口叩かれています。

 

お桂をやっと見初めてくれた男が現れ、婚約の話になるのですが、宗太郎は大反対します。理由は、

「自分たちの素性が知れれば絶対に破談になるから。俺たちは一生このままでいるしかないんだ」

そう、この兄妹は新平民だったのです。

 

結局、兄のせいで破談になってしまったお桂の結婚。

 

しかしこの物語はここで終わらず、どうも最後は近親相姦を匂わせる描写があるんですよね。

宗太郎の動機は最初からここにあったのか。

それとも、社会に蔑まれ行き場のない者たちが行き着く絶望の結婚だったのか。

なんともわかりません・・・ガーン

 

 

●『女房殺し』/江美水蔭

 

学生と茶屋の娘の純愛を、金持ちの男が娘をカネで買って傷物にしてぶっ壊すお話でした。

この金持ちの男、クズ野郎め!と思いますが、茶屋の娘も意思薄弱で、なんかフワフワして流されまくっているんです。

 

『断流』のお勝と似たところがあります。

 

これは、女はそうあるべきという世間が育てたからでもあるんだろうなあ。女は従順に出しゃばらないのが美徳だなんて、いいように利用していたとしか思えない。

 

 

●『にごりえ』/樋口一葉

 

女性が犠牲になる物語が続きましたが、どこかネタ的というか、「女って哀れな生き物よのう」みたいな、外側から眺めている感じが見え隠れする中で、樋口一葉女史の迫力は全然違いますな。

内側からバシイッと斬ってくれます。

 

娼妓のお力は売れっ子で客引きがうまく、結城という太客に気に入られているのですが、お力には源七という思い人がいました。源七はかつてのお力の客で、お力に入れ上げたせいで窮乏し、今は女房子供と険悪になっています。

 

お力は男を手玉にとって金を巻き上げる性悪女かと思いきや、物語が進むにつれ人物像が明らかになり、ああ大変だったんだなあ、生きていくためにこうなったんだ、こんな女に誰がした、という悲哀が見えてくるんですね。

 

源七の女房がお力を罵ったり、亭主に恨みをぶつけたりする気持ちもわかる。

社会の歪みの中でどちらも被害者なのに憎み合い、結局みんな苦しんで不幸になるってどういうこと?

 

これが一生か、一生がこれか、

 

このフレーズいいな・・・なんかズシンときました。

 

 

泣泣泣

 

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夏目漱石はこの本に入ってなかったな。