普段、ホラーとか戦とか不穏な物語ばっかりなので、たまにはちょっと面白いものを。
幕末から明治にかけて人気を博した落語家、三遊亭圓朝のお話。
「怪談牡丹灯籠」「真景累ヶ淵」「死神」などの名作を生み出した方です。
世間は幕府が倒れたり戦争があったり政府が変わったりなど激動の時代でしたが、そんなのは勝手にお上がやってることで、庶民たちのやることは時代が変わっても同じ。日常生活で浮いたり沈んだりの積み重ね。
それだけに、「ああ、こういうことあるある」と身近に感じながら読むことができました。
奥山景布子さんのわかりやすい文体、好きだなあ。
父・圓太郎の血を引いて、幼い頃から寄席に入り浸り、若くして噺家の才能を発揮した圓朝。21歳の頃には三遊亭圓朝としてちょっとした売れっ子でした。
圓朝はどうやったら客が呼べるかと思案したうえ、高座に芝居のような書き割りや道具を持ち込み、場面に合わせて道具を動かしたり、三味線や笛などで話を盛り上げたりする工夫をして評判になっていました。
が、それが気に食わなかったのか、圓朝の師匠である圓生がおかしな行動をとる。
ある寄席で、圓朝がトリでやろうとしていた同じ話を、仲入り前の出番を頼んでいた師匠が先にやってしまった。
事前に打ち合わせていたはずなのに。
高齢だからボケちゃってるのか?
それとも、わざとなのか・・・?
ともかく、同じ話はできないので、圓朝は急遽、即興で考えた話をしどろもどろになんとかこなします。
が、用意していた芝居じかけは全く無意味になる。
その他、この圓生師匠は、圓朝のところから黙って逃げた弟子をこっそり自分の門下に入れて真打披露をしたり、対立が明確になってしまいます。
この時代は法とか制度とかがしっかりしているわけじゃないから、義理や信頼関係がモノを言う世界。
理不尽な仕打ちを受けながらも、自分の何が悪かったのかなぁと、心を痛める圓朝です。
しかしこの師匠は大人気ないな・・・
圓朝は可哀相っちゃ可哀相なんだけど、これがきっかけになって「怪談牡丹灯籠」が出来上がってしまった。転んでもただでは起きない強い人。
でも、こんなことはまだ幕末の頃で良かったのですけど、明治政府になってから、庶民の娯楽であった寄席なんかにもお上がめんどくさい決まりを押し付けるようになってきて、ここからも苦労の連続です。
圓朝さんはすごく有名になるので、後半は自分の芸の道よりも、たくさんいる弟子のことで頭を悩ませることが多いです。
借金や博打でトラブルだらけの奴とか。
コロリ(コレラ)が流行って寄席が壊滅的になっちゃった時、一門の生活をどうするかとか。
もうホント、自分のことだけ考えていればいい方が楽ですね・・・
弟子の面倒を見てやらなくちゃならないのって、大変。
「またか!!」ってくらいに次々と事件が起こります。
それでもさすがは芸人。困ったことが起こっても最後は昇華して、新たな噺のネタになったりするもんだから、たくましいなぁと。
楽しく読めるお話でした。