横溝正史ミステリ&ホラー大賞という文字に惹かれ、読んでみました。
怖いっていうより…
とっても読後感が悲しいお話でした。
悲しいって、誰がどう不幸になるわけではないんだけど、登場人物たちの関係性とか、少しだけ希望のある行く末とか。
主人公の三咲は、昔、家族でドライブ中に交通事故に遭い、両親を亡くして一人だけ生き残ってしまいました。
交通事故の原因となった相手には情状酌量が認められ、執行猶予となったため、三咲の「こんな人は死刑になればいい」という怨みの気持ちの持って行き場がないです。
その後、三咲は怪談師という職業をしながら、それを体験した人が本当に死ぬという怪談を探しています。
誰も罰を与えられない憎い相手に、呪いをかけるために。
その一方、三咲と一緒に暮らす女性・カナちゃんには自殺願望があって、「呪いか祟りで死にたい」といつも言っています。
薬物を大量に飲んで路上で死にかけていたカナちゃんは偶然通り掛かった三咲に助けられました。カナちゃんは三咲がつけた名で、本名も、素性も、どうして死にたがっているのかも、何にもわからない。
三咲が本当に死ぬ怪談を見つけたら、自分がまずそれを体験して死ぬかどうか試してみるよ、と言って、二人の利害関係が一致します。
多くを語らず、空気のように一緒に暮らす穏やかな日々。
たまに聞きつけた心霊スポットに行って、心霊体験を試してみる二人。
二人のもとに、ある魚を釣り上げると、釣った人間がみんな死んでしまう、という怪談情報が入ります。
静岡県の海、もしくは川。
その怪談を追って、三咲は本格的に調査を始めます。…
ここら辺からミステリーになりますね!!
釣り人や住民への聞き込み調査とか、なんかオカルトドキュメンタリーみたい。
ただの噂でも複数集めて共通点を見出し、推理して真相を突き止めます。
この、”釣った人が死ぬ魚”ってのが、怪談とはいえどうも妖怪チックなイメージがあって、あまり怖くない。ちょっと可愛かったりする。
でも、冒頭に悲しいお話って書きましたけど、カナちゃんの過去がだんだんわかっていくにつれ、悲しかったですね…
そもそも、自殺願望を抱きながら暮らしている人の心を思うと、それだけで悲しい。
何にもしなければ、生き物は普通に息をして、心臓が動いて、お腹も空いて、自然に生きようとしているのに、無理やり強制的に止めようとするのって、そんなことまでしなくちゃならないほど追い詰められているのかって、とても悲しい。
三咲とカナちゃんは、特にお互い干渉することもなく、お互いの事情を静かに受け入れるやり方をしてきたわけなんですけど、一緒にいる時間が長くなって、運命を共にするような関係になって、やっぱり生きていて欲しいと執着し始める。
ああよかった。
ここ感動。
怪談て、誰かの心の拠り所だったりするんだ。
死ぬとか呪いとかの物騒な話だけじゃなくて。
達者でな!!
最後、そんな言葉をかけたくなってしまいました。