松前の花 土方歳三蝦夷血風録 | あだちたろうのパラノイアな本棚

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富樫倫太郎さんの土方歳三@箱館作品。
三部作の第二部だそうです。
第一部は「箱館売ります」でした。
 
かっこいい土方歳三が
読みたい
 
(何度も何度も叫び恐縮です)
 
これを動機に追っかけているのですが、おや??実は、あんまり土方さんは出てこない…
どちらかというと、土方さんを取り巻く旧幕軍の人物たちが主人公になっています。
 
しかし冷静になって考えてみると、
 
土方さんて、ご本人が主人公となるお話よりも脇役として出てくる方がはるかにカッコイイ
 
ということに気づいた次第です。
基本、仏頂面で寡黙な方ですから…
 
で、前作「箱館売ります」では、陸軍奉行・大鳥圭介さんの見事な常敗っぷりがイジられていたわけなのですけれど、
今作の魅力は、
 
松前奉行・人見勝太郎さん
遊撃隊・伊庭八郎さん
 
何と言ってもこのコンビではないでしょうか。
 
 
伊庭八郎さん。(画像はまうのすけさんのマンガより)
元からわりとお気に入りの人物です。
 
伊庭さんは箱館に来る前の戦闘で左手を負傷し、切断することになったのですが、ちょっと飛び出ていた腕の骨を「こんなん痛くねえや」などと言いながら自分でゴリゴリ削ったとか。
 
ギャアアアアア
 
「伊庭の小天狗」と異名をとり、隻腕なのに剣は振るうわ、上手に銃に弾を込めて打つわ。
怯むことなく敵に切り込む豪胆な方であり、なかなか女性にもおモテになっていたようで。(女心を察するのが上手いのですね)
 
人見勝太郎さんは、なかなかイケメン。このシリーズでは、すぐ冗談を飛ばしたりバカ笑いが止まらなかったりする底抜けに明るいキャラです。でもやる時はやる。持ち場の松前を死守します。
 
今回は恋のお話も…
 
ヒロインは旧松前藩の重臣だった山下雄城の娘、蘭子です。
松前藩では勤皇派と佐幕派に内部分裂し、蘭子の父、山下雄城は勤皇派である下国東七郎に殺されました。
蘭子は父の敵を撃つため、土方さんが指揮する雪中行軍に協力し、以後旧幕軍に加わりました。
 
土方さんに「女に戦闘はできない」と冷たく突き放されたのが悔しくて、蘭子は髪を短く切り、軍服をまとって、さながら男装の麗人のよう。松前は人見勝太郎さんが奉行を任された土地なので、蘭子は人見さん預かりになります。
 
人見さんは、蘭子さんに恋しちゃうのですね…
戦闘前のある夜、二人きりで酒を飲みながら、人見さんは伊庭さんに吐露する。
 
「誰にも言うなよ」
「おれは口の軽い男じゃないぜ」
「おれな…お蘭のことが好きなんだ」
「…」
 
何ですかこの男子中学生みたいな会話?!
ドキドキしちゃうわ〜
 
でも、伊庭さんのアドバイスは、いつ死ぬかもわからないこの状況で、そんな気持ちをぶつけられても、蘭子を苦しめるだけだろうと。
 
それに…
 
「お前の期待をぶち壊すようで悪いが、蘭子さんが好きなのは、おまえじゃないよ」
「やっぱりか?」
 
ああっ人見さん、ショック……
でも人見さんも何となく気づいていた。
 
そう、蘭子が好きなのは、土方歳三さん。
 
「まあ、飲めよ。今夜はいくらでも付き合ってやるから」
「たまらんなあ」
「それが男ってもんだ。ほら、飲め」
「泣きたいぜ」
「泣いてもいいさ。笑いやしないよ」
 
このシーン、すごく好きだな〜〜
 
お願いお願いお願い
 
このあと、新政府軍が軍艦とともに蝦夷に攻め込み、今まで小規模な戦闘では何とか勝利していた旧幕軍も、新政府軍の圧倒的な兵力の前で敗戦続きとなります。
 
伊庭さんは戦闘中に重傷を負い、五稜郭に運び込まれたのですが、もう助かる見込みはなく、服毒して自害。
 
人見さんは生き残って、明治政府に出仕し茨城県令などを務めたそうです。
 
この小説、別に恋愛小説というわけではなく、あまり語られない箱館戦争の状況が詳しく描写されていて、実は硬派な物語なのですが、どうしても五稜郭側の戦況が悪くなり、主要人物が傷つき亡くなってゆく様が悲しいので、先ほどのような恋バナとか、幕間のほっこりするお話が鮮烈に印象に残ってしまいます。
 
土方さんの最期については、もう本の中では詳しく描写されていませんでした。
人見さん、伊庭さん、蘭子さんの中で、土方さんの存在が語られます。
それで、じゅうぶん素敵です…
わたしは満足です…
 
かくして、かっこいい土方さんの本を探すわたしの旅は、まだまだ続くのでした。
 
 
 
まうのすけさんの絵柄だとマイルドになりますが、もう最後のあたりって悲しいエピソードばかり。
降伏後も生き残ってご活躍された人物がわりと多くいるのが救いです。