本棚にはまだまだあるけど、とりあえずまた二冊。ネタばらしありです。

『紫の傷』
五篇収録の短編集。
ミステリ色が濃い短編集。アウト・オブ・プリントになっているのが不思議。
「唯一の証人」
会社の部長が、秘書の女と出来、痴情のもつれの果てに絞殺する。
警察に捕まる部長。留置場のなかで彼は女を絞め殺す夢を見るが、自分が秘書を殺していないことを知っている。そして、自分と秘書の事を嫉妬した妻の犯行でないことも知っている。残っているのは、秘書の恋人だった自分の部下だけだが、彼を告発するのはちょっとした賭けでもあった。
部長の視点と警察の視点で事件を眺めるような仕組みになっており、事件の主眼が、実は別のところにも存在したことが明らかになる。冒頭の夢のシーンが大胆な伏線になっており再読ひざをうつ。
「唯一の証人」が部長の無実を証明し、また同時に言い逃れのできない罪の証人ともなってしまうオチが巧妙。
「ゴースト・トレイン」
「小説推理」の特集で赤川次郎と連城三紀彦で競作がしたことがあったそうで、赤川は連城「恋文」を「ラブレター」として、連城は「幽霊列車」を「ゴースト・トレイン」としてリトライする面白い趣向のもの。
そういうお遊びって最近ないですよね。
線路の上に死を覚悟でレールに横たわった男、迫りくる列車に身をゆだねるが、気がつくとマグロならず、生きている。しかし、列車が通った証拠に男の片耳の鼓膜が破れ、腕時計は列車通過時刻に割れて壊れた状態だった。
不思議な自分の事件を聴いてもらいたくて話した相手は、「幽霊列車」の女子大生。「幽霊列車」事件のサイドストーリーとして、もうひとつの「幽霊列車」の話が進んでいく。
最近出版された「レジェンド」で島田荘司の作品を引き合いに熱く語っているのも頷ける。
物語の不思議さだけを見ると『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の殺人』の豪快シマソーを思い浮かべるが、実は『眩暈』や『異邦の騎士』のシマソーなのです。
つまりは、記憶は嘘をつくということ。魅力的な謎に対する物理的な答えではなく、こっちの方が驚き、すこし背筋が寒くなる。
「落書きの家」
とある女子高生が、隣家でおきた悲劇を友達に電話で話をする。
美しい奥様、大企業の部長でダンディな夫、おしとやかな娘。裕福で何不自由なく素敵な家庭のように見えるこの家族と近所付き合いをはじめるのだが、どうもこの家族、ようすがおかしい。娘は、隣家の女子高生をだしに不特定多数の男と遊びまくって、父親をやきもきさせる。妻は娘に隠れて不倫をし、夫にも不倫相手がいるようで、見た目は幸せそうな家族の不幸な一面を女子高生は見せつけられる。
やがて、娘は誰の子か分からない子供を妊娠し、母親はおろおろ、父親は動揺のあまり事故で死んでしまう。
この不幸のドラマを友人は、華麗に絵解きしていく。連城はこういう逆転劇がすきね。
「花衣の客」や「二重生活」を合わせて、さらに進化させた因縁ドラマで、結構好きです。ドロドロの愛憎劇を外側からのぞかせる意図や倒錯した結末もいい。
「眼の中の現場」
妻に癌であることを告知して自殺に向かわせた医者の夫。
未必の故意ともいうべき、医者の犯罪。誰も知りようない医者の秘密を妻の不倫相手が知っており、医者に脅しをかけにくる。
「デス・トラップ」や「スルース」のような舞台劇を彷彿とさせる。
病院のような真っ白な部屋で展開される、夫と間男のドラマは意外な方向へと二転三転して読者を転がして行く。
この結末では果たしてどちらの男が勝ったのか分からないというのが、ミソ。
復讐が成就し、医者は失墜、青年はプラットフォームで自殺した女性に報告するだけかもしれない。
でも一方で医者が青年の仕掛けた罠にはまり、不安のあまり不意に病気で倒れ死んでしまい警察に連絡できない。青年は警察に連絡がいかなかったことを知り、好きだった女性が投身自殺したフォームに同じように飛び込むかもしれないと受け取ることもできる。
「紫の傷」
シンデレラストーリーにしてコメディです。
孤児院育ち、警官くずれの男は、小さな警備会社でボディガードをしている。
ある日、お嬢様学校の卒業生の旅行に付き添う仕事を仰せつかるのだが、遺産相続を巡る敵の襲撃や、自分の体に刻まれた傷と意外な過去が明らかになる冒険の旅となる。
ボディガードが実は保護対象だったという逆転の設定は面白い。しかも守ってくれるのが女性と「逆転」にもひねりが加わっている。
しかし一番意外だったのは、連城に多い酷薄な親の設定が、この作品では見事にひっくりかえっている点。これはいままで読んだ中で初めての事なので、これが一番驚いた。

『蛍草』
五篇収録の短編集。
主に恋愛小説が中心。ミステリとしては「カイン」と「選ばれた女」くらい。
解説では作者と田中芳樹夫妻とのエピソードが書かれている。
「蛍草」
勢力の弱くなったヤクザの組長が、命を狙われ負傷する。組の中で組長の懐刀である侠客は、組長の仇を討つために、単身で相手の組に乗り込もうとするのだが、組長の姐さんが、とりもつ縁談にかちこみの意思がぶれてくる……。
連城はたびたびこういう湿っぽい任侠ものを書く。こういう作品では私はイケイケ系が好きなので、こういうのは合わない。
ここでは組長の姐さんの一計がミステリの肝になるような話だが、悲恋が中心の恋愛小説か。
結婚したその日にかちこみをかけて二度と戻ってこないかもしれない夫。それでも夫婦になって渡世人の妻として匕首を玄関で手渡す女が不憫。まるで出征まえの夫婦みたいな描き方になっている。
「微笑みの秋」
離婚した夫婦がいい感じに復縁する話。
復縁のきっかかけで、子はかすがいのような話は「化石の鍵」といったトリッキーな短編がある。
しかし、これは、子どもはまったく寄与しない。ひねりもなく、かませ犬の青年ただひとりが可哀そうな感じで終わる。
「カイン」
かなり技巧的なゲイミス。二重人格の男性患者とその主治医の精神科医師の青年の愛憎の物語である。
患者は大人しい性格で彼女もいて緑色に執着する青年。しかし、何かの拍子に凶暴なゲイ野郎に変身する。ホモっ気のある精神科医師は、その凶暴なゲイ野郎の方に翻弄され苦しめられ、遂に殺人に手を染める。
殺人犯が家に戻ると、そこには大人しい性格の方の彼女が、意外な真実を持って待っていた。
患者が佯狂で、医者が真正の狂人という連城らしい逆転劇。彼女の正体を読んで、吹いてしまった。
「選ばれた女」
彼氏と別れたばかりの傷心の女性が、道で親切にしてあげたアメリカ人青年と職場で偶然出会い、ホテルに食事に誘われる。振られて落ち込んでいた女性に降ってわいたデートの誘いに、心晴れるような気分になったのもつかの間、青年が自分とおなじような名前の日本人妻を絞殺後、剃刀で切り刻んだ疑惑をもつアブナイ男だと知る。
しかし、分かった時にはもう遅く、アメリカ人青年にまんまと拉致られてしまう。
狂気的な男の行動に死を覚悟する女性。しかし、事件は意外な形で幕が下りる。
連城ファンならおそらく先行する「親愛なるエス君へ」を思い浮かべる。先行作品よりもソフトな感じに仕上がっているので、毒気はあまりない。
「翼だけの鳥たち」
勝って負けるか、負けて勝つか。
白鳥とアヒルの女友達が一人の男を巡っての奇妙な三角関係の物語。正直、女どもよりもこの奇妙なゲームに巻き込まれた男の方が可哀そう。女性同士の見栄の張りあいに巻き込まれた感がある。