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『喪失』の変貌に驚かされたが、『人形』においても嬉しい驚きは継続されていた。
モー・ヘイダーさん、着実にミステリ作家として腕を上げられていらっしゃいます。
前回はルヘインやコナリーに似たような作品だったので、なんとなくアメリカンなミステリと感じたが、今回はイギリスミステリの伝統にそったような内容。私がこの作品にイギリスミステリらしさを感じた点は以下になる。
1、幽霊譚に端を発する不可思議な事件
2、田舎生活の風景
3、労働者階級の出身者の悲哀
4、事件を通じてくっつく男女
5、あと味すっきりな終わり方
謎解きとしては若干弱いところがあるが、伏線や「ものごとは見かけどおりではない」逆転の演出が見事で、もう参りました。
シリーズキャラクターであるジャック・キャフェリー警部は本作では、主役から少し離れた立ち位置にいる。もちろん本筋の事件を捜査するのは彼だが、本筋の主人公は、神科医療施設で重度の精神疾患患者の看護に従事するA・J・ルグランデになる。
問題行動をとる精神病患者を収容するビーチウェイ重警備精神科医療施設で不穏な空気がながれていた。一世紀前、施設の前進であった救貧院の小人の寮母“ザ・モード”が、亡霊となって悪戯をする。過去数年に渡り、まことしやかな噂に翻弄される収容患者たちは、混乱し身体を傷つけ、ある者は障害を負い、ある者は死に至っていた。患者も職員も張り詰めた緊張状態にあり上級職員A・Jは、対応に苦慮していた。
職員は無断休暇を使うようになり、連続夜勤で身体が疲弊するA・J。家に帰れば口うるさい叔母と母を死なせた悔恨、唯一の癒しの飼い犬がいるだけ。何のとりえもない仕事でも私生活でも苦しい状況の四〇代男子「アベレージ・ジョー」は、ある日、冷たい管理職だと思っていた女性院長メラニーが、プレッシャーに耐えられず酒に手を出し酩酊状態だったところを助けたる。そこから二人に恋が芽生え、A・Jの生活に張りがでてくる。
新たな気分で仕事に臨んだからか、A・Jは今まで気がつかなかった事件のある「共通点」を見つけ、事件が生きている人間の仕業だと考え警察に捜査依頼をするよう院長のメラニーに進言するが、自分のキャリアをふいにしたくない彼女は、それを拒否する。
恋する女性を守りたいA・J、しかし職員として事件を放置できない。悩んだ末、刑事司法フォーラムで知り合ったジャック・キャフェリーに秘密裡の捜査を依頼する。
A・Jとキャフェリーは、事件の裏に施設を退院した元患者がおり、彼の不気味な人形から再び凶悪な事件を起こす可能性があること、そんな危険な人物が行方知れずになっていることを突き止める。
完全なネタばらしになります。一言でいえば
「メンヘラには気をつけろ!!」
に尽きる。壮絶なDVが明らかになる終盤は怖気をふるいます。
犯人の言動をひとつひとつ後で確認するともう「サイン」がでています。
(「約束、約束、指切りする?」とかもう……アウトだ)
嘘で嘘を塗り固めていかないと自分が保てない犯人の姿は、施設の患者たちと変わりがない。しかし、労働者階級から抜け出そうとする女性の鬱屈とした描写は、PDJ作品のケイト・ミスキンやコーデリア・グレイにも重なってくる。
そんな女に恋してしまった被害者たちをキャフェリーも笑っていられない。皮肉な構成だ。
サイド・ストーリーは前作『喪失』に引き続きミスティ・キットスン事件をめぐるキャフェリーとマーリーのすれ違いだ。しかし、本作でようやく二人は事件に向き合うようになる。
キャフェリーは懸案事項であったミスティ・キットスン失踪事件に答えを出すことを考えている。恋する女性警官フリー・マーリーがしでかした犯罪隠匿行為について、ウォーキングマンのおかげで警察官のギリギリの良心のところで踏ん切りをつけたキャフェリーは、マーリーにミスティの死体を返すように提案する。愛する人の「死」を確認できない家族の苦しみをキャフェリーもマーリーも知っている。しかし、マーリーはなかなか首を縦に振らない。苛立つキャフェリー。しかし生来の「いらち」を抑えて彼女を説得し続ける。物語は、二つの一応のハッピーエンドを用意しており、胸糞悪い芸風が控えめになっている点も好印象だった。
次回作“Wolf”もエドガー賞候補になった作品なので、モー・ヘイダーは今一番、脂がのっている状態か。ハヤカワさん、北野さんには是非とも頑張って早めに出して欲しいが、古いノンシリーズも作品にもスポットをあてて欲しいところ。よろしくお願い致します。














