悪党をくじきたい反骨の男 | 読んだらすぐに忘れる

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とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。



シリーズ二作目は悪辣な陰謀を暴く、敏腕探偵サムスンの活躍が描かれる。


前作の怪我が癒え、徐々に体力を取り戻してきた38歳のアルバート・サムスンの元に仕事が舞い込む。警備中に人を殺し、捕まった夫ラルフ。夫の殺人が故意ではなく過失によるだと証明してほしい、妻ロゼッタとその母親の依頼にサムスンは事件の背景を洗い始める。ベトナム帰還兵のラルフは現地でも人を殺した経験がもとで精神疾患になっていた。そんな彼にアメリカ社会は冷たい。社会復帰の場所もなく、ようやくありついた高級アパートの警備員の仕事で彼はまたしても人を殺してしまうことになる。しかし、妻は夫が故意に人を撃ったとは思えないと訴える。調査を進めるうちにサムソンは、殺された人物が私立探偵であり、強請で生計を立てていた事を突き止める。そして、警察が見落としていた奇妙な事実を見つけ、ラルフ事件には「演出者」がいることを確信する。


処女作『A型の女』に比べるとサムスンの語りが、こなれてきたというか、くだけた感じになってき楽しい。自虐ネタが多いように感じられるが、卑屈な感じに見えないのは、鋼のような反骨精神が見え隠れするからだろう。立場や権威を利用して弱者を食い物にした悪党たちに怒りを覚えるサムスンは、それを証明する手立てがないことに苛立ち、ついには自ら囮になって悪党たちの陰謀を暴こうとする。とてもじゃないが平凡な人間ではできません。


生活苦にあえぐ精神耗弱の人間を雇い、人殺しをさせる手口は、共犯にならない上に、謀殺にもなりにくい。サムスンが命がけで取った録音テープも結局、ラルフを助ける物証にはならないのが歯がゆい。そして、最後にはもう一つの醜悪な事実を掘り出すことになる。社会が弱者を搾取するのは怒りを覚えるが、家族がそれをすると悲しみを覚える。物語は勧善懲悪にはなるが、ハッピーエンドとはならずビターな終わり方をする。