久しぶりに一挙に読書記録を書いておこう。
『緋色の迷宮』 トマス・H・クック
評価:☆☆☆
やはり「家族」をテーマにした作品というのは、手垢にまみれているとはいえ、人の心を掴んで話さないのだなぁ。自分の息子が八歳の少女を誘拐した上に悪戯、さらに殺害したのではないか? いきなりこんなことを突きつけられた円満家族のお父さんだったエリック。警察や世間からの冷たい逆風に一致団結して立ち向かわなければならないときに、彼は不安と猜疑心の泥沼に嵌りこんで行く。殺されたのか、それとも生きているのか、それすらも分からない五里夢中の世界で、この家族がどう転がっていくのかが、サスペンスの中心となっている。物語の結末はもうバッドエンドということは決まっている。しかし、そこに至るまでに色々とあるのだ。悲劇のなかにもほんの少し救いがあるので、後味の悪さが半減されているのにも好印象でした。
それにしてもゴールドダガーとシルバーダガーがなくなったのがちょっとショック。
『あなたに不利な証拠として』 ローリー・リン・デラモンド
評価:☆☆☆
ミステリ的な驚きを仕掛けはちょろっとあるが、女性警察官の目から生と死、家族、警察組織等のスリリングな描写、主人公たちの葛藤に引きずり込まれる。リアルというより「生々しい」といった方がいい。例えば、死を「臭い」ではなく「味」と喩えるところはもう凄い。文章にパワーがありますね。
『失われた男』 ジム・トンプスン
評価:☆☆☆☆
スティーブン・キングがこの作品に目をつけていたのは流石。目のつけどころが鼻の上。興奮するような「巧緻な殺人劇」というのはトンプスンの中では『ポップ1280』だけなので、あまり期待していなかったが、これはトンプスンの上ランクの一作だ。トンプスン「らしい」と言えば「らしい」し、「らしくない」と言えば「らしくない」非常に複雑な気分になる作品である。
たとえば、これを東野圭吾が書いたとすれば、出版社はかならず「感動」ミステリと売り込むだろう。ジム・トンプスンだから「悪夢」のようなミステリが出来上がる。
『奇術師の密室』 リチャード・マシスン
評価:☆☆☆☆
テレビや雑誌が最も面白かった時代の作家はやはり違いますね。まるで二時間のトリッキーなサスペンス映画を観ているみたいにさくさくと読める。どんでん返しの楽しみもあるが、この作品の醍醐味は登場人物を好きな俳優、女優に置き換えて頭の中のシアターで楽しむというやり方ではないかなぁ、と思う。シナリオライターとして活躍していた(今でもしている?)マシスンの職人芸が光る逸品。
『怪物』 ハリントン・ヘクスト
評価:☆☆☆
この異常な盛り上がりは何だろう? なぞの殺人鬼が洞窟の中を行き来し、子供から探偵までとにかく殺しまくるのだが、これがなかなか怖い。『テンプラー家の惨劇』よりもこちらの方が面白い。しかも、これを犯人側から描いたらリッパなジム・トンプスンになりそうな気がする。へクスト恐るべし。
『迷路』 フィリップ・マクドナルド
評価:☆
つまんねー。てっきり「文鎮」がただの石の塊に見えるか、文鎮に見えるかがポイントだと思っていたのに……。
『獣どもの街』 ジェイムズ・エルロイ
評価:☆☆☆
リックとドナが凶悪犯罪に立ち向かう短編集。あの世から三つの時代に起きた三つの事件の昔話を聞かせるというなんとも変わった手法(超能力デカも出てくる!)で語られる。馳星周の言う、卑しい街を卑しい人間たちが這いずり回って生きる「ノワール」の感じはあまりしない。明るいSF恋愛譚と言えそう。惹かれあうが決して一緒にはなれない男女、韻を踏んだリズムのよい文章(翻訳するの大変でしょうねぇ!)、ユーモアと狂気、エルロイの魅力のすべてが詰め込んであるとは思わない、まして《暗黒のLA四部作》と同等の重みがあるとは到底感じられないが、その一端を窺うことが出来る。





