【渡邉哲也】強盗致傷罪の共同正犯で民主党を一網打尽?【要注意】 | 独立直観 BJ24649のブログ

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渡邉哲也ツイッター 2015年6月16日
https://twitter.com/daitojimari/status/610994419194400768


 経済評論家の渡邉哲也氏がこのようなツイートをし、この記事を執筆する時点で650回を超えるリツイートがされ、160回を超えるお気に入り登録がされている。
 大変ウけているようだ。
 渡邉氏の学歴を見ると、日本大学法学部経営法学科卒業とのことなので、「法学部卒業の渡邉さんの言うことなら信頼できる」という安心感があるのかもしれない。
 しかし、刑法の学んだ人であれば、大半が「それはない」と考えるのではないか。

 渡邉氏は、「計画メモがあるので、共同正犯で一網打尽に」と言う。
 つまり、渡邉氏は、民主党の国会議員が今月12日に衆議院厚生労働委員会の渡辺博道委員長を襲って怪我をさせた行為につき、強盗罪の実行行為を行っていない民主党の国会議員についても、強盗致傷罪の共同正犯が成立するということだ。
 これは共謀共同正犯という法律構成で刑事責任を問おうという考え方である。ここまではいい。
 問題は、民主党の国会議員の間で、強盗罪についての共謀が行われたのかという点だ。
 共謀の認定の手がかりとなる証拠は計画メモであり、報道に出ているものを私も見たが、私が見る限りでは、計画メモには強盗罪については書かれていなかった。
 他の報道にひょっとしたら強盗罪に関する計画メモが出ているのかもしれないが、私としては、渡邉氏の立論は無理筋だと考える。
 強盗罪について共謀が行われていないならば、強盗致傷罪の共謀共同正犯も成立しないのだ。

 本件は、刑法的には論点てんこ盛りだ。
 法学部生でも処理しきれない人は結構いると思う。
 私の処理が正解かはさておき、参考までに、私の大まかな考え方を示す。



◆◆◆



<問題>
 平成27年6月12日、民主党の国会議員である甲と乙が、衆議院厚生労働委員会の議事を妨害するため、渡辺博道委員長を殴打した。
 甲らは、「数の力による横暴は許さない」と主張している。
 甲は、殴打中、渡辺委員長の携帯電話を奪取した。
 渡辺委員長は全治○日の負傷をした。
 民主党においては、暴行前に、別紙資料の計画メモが作成され、回覧されていた。
 民主党の国会議員が全員この殴打行為を行ったものではなく、幹部である丙と、幹部ではない丁は殴打行為を行わなかった。
 甲、乙、丙、丁の罪責を論ぜよ。
 (別紙資料)



<答案1>
できるだけ重い罪を成立させる処理
 ・強盗罪を成立させる(強盗致傷罪の成立は否定した。)。
 ・傷害罪の故意を肯定する。

第一 甲の罪責
1 暴行行為および携帯電話奪取行為について
(1) 甲は、渡辺委員長に対して暴行し、同人が占有する携帯電話という財物を奪取した。
   甲は強盗罪(236条1項)にあたるか。
   甲は、当初は計画メモに書かれた通りに、議事を妨害するために暴行を実行しており、財物奪取の手段として暴行を実行していなかった。
   しかし、暴行をしている中で、事後的に、渡辺委員長の携帯電話を奪取できるという隙に気がつき、これを奪取する意思を生じ、さらに暴行を行い、これを奪取した。
   甲が同携帯電話を奪取する手段として行った暴行自体は、渡辺委員長の反抗を抑圧する程度に足りない。
   しかし、甲の暴行は、既に生じていた渡辺委員長の反抗抑圧状態を継続する程度のものであることは認められる。
   したがって、甲は強盗罪の客観面を満たす。
(2) 強盗罪は領得罪であるので、不法領得の意思を要する。
   不可罰的な一時利用と区別し、法定刑の軽い毀棄罪と区別するため、領得罪には、権利者を排除してその物の本権者として振る舞い、これを利用または処分するという、不法領得の意思が必要である。
   甲は、渡辺委員長の携帯電話に記録された情報を見て、彼を批判したり自民党を批判したりするのに有用なものがあれば、これを利用する意思を有していた。
   かかる利用は、権利者でなければできないものである。
   したがって、不法領得の意思を認めることができる。
   甲は強盗罪にあたる。
(3) 渡辺委員長は、甲の暴行の結果、傷害を負った。
   甲は強盗致傷罪(240条前段)にあたるか。
   同罪が成立するためには、強盗行為と傷害結果との間に因果関係を要する。
   本件では、単なる暴行から渡辺委員長の傷害が生じたのか、強盗行為からこれが生じたのか、因果関係が不明である。
   したがって、強盗致傷罪は不成立である。
(4) 多人数で64歳の渡辺委員長にとびかかれば、傷害結果が生じる蓋然性は高く、甲はこれを認識認容していたと認められる。
   したがって、甲は、傷害罪(204条)にあたる。
2 甲は、渡辺委員長に対して暴行を行い、議事を妨害したので、公務執行妨害罪にあたる(95条1項)。
3 甲は、「数の力による横暴は許さない」と主張するが、議会においては議論を尽くして当該法案を成立させるか否かを決めるのであるから、議論を尽くさずに暴力に訴えて立法を阻止することに、何らの正当性もない。
  したがって、上記犯罪は正当業務行為にはあたらない(35条)。
4 甲は、強盗罪(236条1項)、傷害罪の共同正犯(60条、204条)、公務執行妨害罪の共同正犯(60条、95条1項)の罪責を負い、これらは一個の行為で行われているので観念的競合(54条1項前段)の関係に立つ。

第二 乙の罪責
1 乙は、甲と共同して、渡辺委員長に対する暴行を実行した。
  乙は甲と事前に暴行について意思疎通を行い、甲と同様に傷害結果を生じさせることについても認識認容していたと認められる。
  しかし、乙は、暴行中に甲が渡辺委員長の携帯電話を奪取する意思を生じていたことを知らなかった。
  したがって、乙は傷害罪の共同正犯(60条、204条)にあたるが、強盗罪の共同正犯(60条、236条1項)にはあたらない。
2 乙は、甲と共同して渡辺委員長に対して暴行し、議事を妨害したので、公務執行妨害罪の共同正犯(60条、95条1項)にあたる。
3 甲と同じく、違法性阻却事由は認められない。
4 乙は、傷害罪の共同正犯(60条、204条)と公務執行妨害罪の共同正犯(60条、95条1項)の罪責を負い、両罪は観念的競合(54条1項前段)の関係に立つ。

第三 丙の罪責
1 丙は、甲乙と実行行為を共同して行っていない。
  丙を共同正犯に問うことができるか。共謀共同正犯が問題となる。
  60条が「すべて正犯とする」という趣旨は、相互利用補充関係にある者同士を正犯とするというものであるから、この関係に立つ者を共同正犯に問うことができる。
  丙は、甲乙とともに、事前に計画メモを作成および回覧し、共謀を行っていた。
  計画メモには傷害結果については書かれていないが、多人数で64歳の渡辺委員長にとびかかったならば、同人が負傷する蓋然性は高い。
  したがって、丙らの共謀は、傷害結果が生じることを認識認容するものであったと認められる。
  丙は、甲乙と共に、傷害結果が生じることを認識認容した上で、渡辺委員長に対して暴行して議事を妨害するという謀議を行い、甲乙がこの共謀に基づく実行行為を行った。
  また、丙は、甲乙の上司であり、指揮命令する立場であり、計画策定に強い影響力を有していた。
  したがって、丙は、共謀した傷害罪および公務執行妨害罪につき、甲乙と相互利用補充関係に立ち、共同正犯である。
  ただし、強盗罪については共謀していないので、同罪については、丙は共同正犯ではない。
2 甲乙と同じく、違法性阻却事由は認められない。
3 丙は、傷害罪の共同正犯(60条、204条)と公務執行妨害罪の共同正犯(60条、95条1項)の罪責を負い、両罪は観念的競合(54条1項前段)の関係に立つ。

第四 丁の罪責
 丁は、計画メモを回覧した。
 しかし、実行行為を分担せず、計画の策定にも影響力がなく、事前の準備にも協力せず、事後の逃走に協力することもなかった。
 したがって、丁は甲乙丙と相互利用補充関係に立たず、共同正犯にはあたらず、犯罪不成立である。

以上

<答案例2>
できるだけ軽い罪を成立させる処理
 ・強盗罪を成立させない。
 ・傷害罪の故意を否定する。

第一 甲の罪責
1 暴行および携帯電話奪取行為について
(1) 甲は、渡辺委員長に対して暴行し、同人が占有する携帯電話という財物を奪取した。
   甲は強盗罪(236条1項)にあたるか。
   強盗罪の暴行は、財物奪取の手段として行われる必要がある。
   甲は、議事を妨害するために渡辺委員長に対して暴行したに過ぎず、暴行している中で、同人の携帯電話を奪取できることに気づいたに過ぎない。
   したがって、甲は財物奪取の手段として暴行したとは認められず、強盗罪にはあたらない。
(2) 甲は、渡辺委員長の携帯電話を奪取した後、これを取り返されることを防ぐために、同人に対して暴行を行った。
   甲を事後強盗罪(238条)に問うことはできるか。
   事後強盗罪は窃盗犯が行う身分犯であり、そして窃盗罪(235条)は領得罪であるから、不可罰的な使用窃盗および法定刑の軽い毀棄罪と区別すべく、権利者を排除してその物の本権者として振る舞い、これを利用または処分するという、不法領得の意思が必要となる。
   甲は、渡辺委員長の携帯電話を隠匿するために奪取したに過ぎない。
   したがって、不法領得の意思は認められない。
   事後強盗罪は不成立である。窃盗罪も不成立である。
(3) 甲の暴行の結果、渡辺委員長は傷害を負った。
   甲は、議事を妨害する目的で殴打行為をしたに過ぎず、また、傷害結果が生じれば自党に批判が向けられるおそれが強まるため、傷害結果が生じることを認識認容していない。
   したがって、傷害罪(204条)の故意(38条)は認められない。
   ただし、傷害罪は暴行罪(208条)の結果的加重犯という性質を有する。
   したがって、甲は傷害罪にあたる。
2 甲は、渡辺委員長に対して暴行を行い、議事を妨害したので、公務執行妨害罪(95条1項)にあたる。
3 甲は、「数の力による横暴は許さない」という理由で本件暴行を実行したが、これは議会制民主政治の否定にほかならず、正当業務行為(35条)にはあたらない。
4 甲は、傷害罪の共同正犯(60条、204条)と公務執行妨害罪の共同正犯(60条、95条1項)の罪責を負い、両罪は一個の行為で行われているので観念的競合(54条1項前段)の関係に立つ。

第二 乙の罪責
1 乙は、甲と共同して渡辺委員長に対して暴行し、同人に傷害を負わせた。
  乙は、渡辺委員長の議事を妨害する以上の意思を有しておらず、傷害罪(204条)の故意は認められない。
  乙は、甲と傷害罪の共同正犯(60条)の関係に立つか。結果的加重犯の共同正犯が問題となる。
  結果的加重犯は、基本犯の実行行為自体に重い結果を生じさせる高度の蓋然性のある犯罪であるから、基本犯の実行行為を共同して実行した以上、これと因果関係のある加重結果についても帰責されるのが相当である。
  傷害罪は、暴行罪(208条)の結果的加重犯という性質を有する。
  乙は、甲と共同して、渡辺委員長に対して暴行し、これと因果関係のある傷害結果を生じさせた。
  したがって、乙は、傷害罪の共同正犯にあたる。
2 乙は、甲と共同して渡辺委員長に対して暴行し、議事を妨害したので、公務執行妨害罪の共同正犯にあたる(60条、95条1項)。
3 甲と同じく、違法性阻却事由は認められない。
4 乙は、傷害罪の共同正犯(60条、204条)と公務執行妨害罪の共同正犯(60条、95条1項)の罪責を負い、両罪は観念的競合(54条1項前段)の関係に立つ。

第三 丙の罪責
1 丙は、甲乙と共に実行行為を分担していない。
  丙も甲乙と共同正犯関係に立つか(60条)。共謀共同正犯が問題となる。
  60条が「すべて正犯とする」となっている趣旨は、相互利用補充関係にある者同士を正犯とするところにあり、実行行為を分担しない者でも、この関係に立っているならば、共同正犯となる。
  丙は、甲乙とともに、渡辺委員長に対して暴行して議事を妨害するという謀議をした。
  財物奪取については謀議しなかった。傷害を負わせることについても謀議しなかった。
  丙は、甲乙の上司であり、重要な影響力を有していた。
  そして、甲乙はこの謀議に基づいて、渡辺委員長に対する暴行を実行した。
  したがって、丙は甲乙と相互利用補充関係に立ち、共同正犯である。
  結果的加重犯の共同正犯については上記の通りである。
2 違法性阻却事由は認められない。
3 丙は、傷害罪の共同正犯(60条、204条)と公務執行妨害罪の共同正犯(60条、95条1項)の罪責を負い、両罪は観念的競合(54条1項前段)の関係に立つ。

第四 丁の罪責
 丁は、計画メモを回覧した。
 しかし、実行行為を分担せず、計画の策定にも影響力がなく、事前の準備にも協力せず、事後の逃走に協力することもなかった。
 したがって、丁は甲乙丙と相互利用補充関係に立たず、共同正犯にはあたらず、犯罪不成立である。

以上



◆◆◆



 強盗致傷罪の共同正犯で民主党を一網打尽?
 事実関係によくわからないところはあるが、渡邉氏の刑法論には疑義がある。
 渡邉氏を鵜呑みにしないよう、注意されたい。