女性肛門科医(日本に約30名)という肩書を持つ佐々木みのり先生に、温水洗浄便座(ウォシュレット)に潜む問題点について解説してもらいました。ブログ用にアレンジしてお送りします。近著にオシリを洗うのはやめなさい(あさ出版)があります。

 

 

■ある患者さんのエピソード

医学書にもない肛門トラブルが増加しています。日本人の「オシリ」、大ピンチに見舞われています。「日本人の3人に1人は痔(じ)である」と言われています。痔ゆえに「温水洗浄便座」で洗うようになったという人も少なくありません。しかし、洗うとかえって、痔が悪化するなどと誰も思わなかったはずです…。

 

今では、公共のトイレにまで付いている温水洗浄便座。日本を訪れている海外旅行者もトイレ事情に驚いていますが、それほど、日本人はオシリを洗うのが大好き。おそらく、世界で最もオシリを洗っている民族だと、佐々木さんは説明します。日本人は洗いすぎによるオシリのトラブルを抱えているそうですが、その真実とは?

 

佐々木さんの診療所には日本各地、海外からの患者さんも多いそうです。しかし、肛門科を訪ねるのは勇気がいること。そのため、すでに楽観的な状況ではないともいいます。

 

「65歳の女性が1人で来院されました。長年勤めた会社を定年退職したので時間もできたし、人生の区切りとして、思い切って勇気を出して、肛門科を受診しようと思って来たと問診票に書いてありました。出産後、30代くらいから痔があったようですが、恥ずかしくて誰にも相談できなかったようです」(佐々木さん)

 

「通販で買える痔の薬を家族にも内緒で取り寄せで使い続けていたそうです。幸い、痛みもなく、時々出血するものの大した量ではなく、大丈夫だろうと病院に行きませんでした。新聞広告でも『痔は薬で治せる』と書いてあったし、電話相談でも『使い続けたら治る』と言われていたので、迷うことなく使ってきましたとのことです」

 

ところが、症状は改善せず、便を出すときに出血する回数が増えて、下着に血がつくようになります。仕事をしているとなかなか時間が取れず、ようやく今日、来院することができたのです。検査の結果はどうだったのでしょうか。

 

「彼女は痔の手術を希望されていたのですが、診察、検査をしてみると、彼女のいぼは痔によるものではなく、がんである可能性が高いことが分かりました。当然、細胞の検査をしてみないと最終的な確定診断にはならないのですが、痔とがんの区別は医師であれば、すぐにできます。私は彼女にがんが疑われること、しかも、ほぼ間違いないと確信していること、大きな病院を紹介するから、一刻も早く受診してほしいことを伝えました」

 

「実はこのようなケースは少なくありません。きっと、私が経験していることは氷山の一角でたくさんあることでしょう。症状が出ていることに気付いているのに病院に行かないなんて、とてももったいないことです。不安が少しでもあるのなら、一度、肛門科を受診して、自分のカラダに起きていることが何かを確かめてください」

 

オシリの状態は自分で見ることができません。どんなにネットで情報を調べても、自分の症状を見極めることなどできないと、佐々木さんは警鐘を鳴らしているのです。

 

■便秘は臭いに注意

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、成人の便秘症の有訴者率は男性4.0%、女性5.9%で、成人になると約14%に増加します。日本人の7人に一人が便秘の症状をもっているのです。便秘になると臭いに注意しなければいけないと、佐々木さんは指摘します。

「それは、『出残り便秘』です。出残り便秘のことをお医者さんが知らない場合が多いうえ、精神科や心療内科では肛門の診察をしないので、実際に肛門から臭いが漏れ出ているのに『自己臭症』『自己臭恐怖症』と診断され、精神科の薬を飲んでいる患者さんが来院されることもあります」

佐々木さんは、

「便が常に肛門に鎮座しているのですから、臭いがあって当然です。臭いがあるのなら、それを取り除けばいいだけなのに、精神的、つまり、心の病のせいにされてしまうことで心が参ってしまう人もいます。何をしても治らなかった症状の原因が出残り便秘である可能性もあるのです。このような場合は、出残り便秘を疑ってみるといいかもしれません」

と話しています。

  

インターネットの情報やメディアにも誤った情報が多いので、正しい情報をキャッチアップしなければいけません。また、最近では冒頭にふれたように、温水洗浄便座による弊害が多いようです。「痔だー!」と言って受診した患者さんが「ただの洗い過ぎ」だったという結末も多いとのこと。この機会にオシリの正しい情報を入手しましょう。

 


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尾藤克之(BITO Katsuyuki)
コラムニスト、著述家、明治大学客員研究員