<馬車道の不思議少年・翔:第2話>7
叔母さんはこれまでと違う口調でゆっくりと話しかけた。
「どう、あなたも私の会社で働いてみない?
確かデザインが好きだったじゃない。
小さい会社だけど、きっとやりがいが見つかる。」
あまりに唐突なことで女は返事に窮したが、
よくよく考えれば断る理由は何もなかった。
むしろ今の立場では有難いお誘いだった。
「ありがとうございます。
目の前が急に明るくなった感じがするけど、
一応、母に相談してからあらためてお答えします。」
多分これは母も了解済みの話なんだ、と思いつつ、
女は、この場では即答は避けた。
二人が、瀬里奈での食事を終り、日本興亜ビルを出た時、
向こう側の歩道にどこかで見た少年が立っていた。
「あなたがさっき見たのはあの少年じゃない。」
叔母さんの言葉に女はハッとした。
次の瞬間、少年は走ってくる自転車の前に飛び出した。
よく見ると自転車の男はヘッドホンを頭にかけて
周りを気にかけないでかなりのスピードを出していた。
少年に気づくのが遅く衝突は避けられないように思われたが、
男が急ブレーキをかけるのと少年の姿が消えるのは同時だった。
男は驚いてヘッドホンをはずし、周りをキョロキョロと見わたし、
ゆっくりと自転車を押して行った。
「そう、さっき見たのはあの男の子。」
「実は私もここであの不思議な子に出会ったの。
それであの子のイメージをイラストにしたらお得意さんが大歓迎。
私はあの子に会ったことで運命が変わった。
あなたもあの子に会ったことできっといいことがあるはずよ。」
叔母さんは女の顔を見てにこりと微笑んだ。
完 (記 原田修二)
■次回は2/9 <馬車道の不思議少年・翔:第3話>1