ZOO (1) | ∴EROGLOG---鬼畜・グロ・エログロblog∴

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よく来たな者ども。くつろいでゆけ。

▼若干17歳でデビューした、奇才である。
「黒乙一」と「白乙一」などと分けられる程、全く違った傾向の小説を書ける文筆力は素晴らしい。
だがここはアレでソレなブログなので、勿論前者の方を紹介させて頂こう。


ZOO〈1〉/乙一

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ZOO (1)

著者/乙一

▼久々に読後、圧倒された短編集である。
まずはラインナップと、アマゾンの紹介文をご覧頂きたい。

何なんだこれは!天才・乙一のジャンル分け不能の傑作短編集が「1」、「2」に分かれて、ついに文庫化。

双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され…(「カザリとヨーコ」)、

謎の犯人に拉致監禁された姉と弟がとった脱出のための手段とは?(「SEVEN ROOMS」)など、

本書「1」には映画化された5編をセレクト。

文庫版特別付録として、漫画家・古屋兎丸氏との対談も収録。


紹介文からして、何なんだこれは!ときた。それはこっちが聞きたいんですが。と思わずツッコミも入れたくなるというものである。そんな話が、5編詰っている。
わらわと乙一の出会いはこの本では無いが、この作者の意図や感覚、そして理不尽さという恐怖を書ききる力を味わいたいのなら、持って来いの一冊である事には間違いない。同時に「黒乙一」だけではなく、不思議な暖かみのある「白乙一」も味わえる。

▼それではこの5編の中から、それぞれ「黒」と「白」を一話ずつお勧めしよう。
まずは、この一冊の中で絶対的な存在感と強烈な「黒」を誇る、「SEVEN ROOMS」。この一話は、他4編の話全てを圧倒する。

話は、まず姉弟が見知らぬ男に拉致され、あるコンクリートで出来た部屋に監禁される所からスタートする。
部屋に配給されるのは毎日食パンが一枚。聞こえるのは、その男のものらしき足音と、部屋の隅に流れている排水溝の水音…そしてそこには決まった時刻、死体の断片が流れてくるのである。
幼い弟が排水溝を潜り、知ったのは7つの部屋があり、そこには女の人が一人ずつ閉じ込められているという事実。
そして入っている部屋の順番通りに殺され、次々と新しい女が補充されていくという事実…。

閉じ込められているのは、中学生の姉と小学生の主人公である。
そんな幼い2人が突然に突きつけられた、恐怖で塗り固めらた現実。そこで過ごす時間。二人の交流。そして、ラスト。
ラストは何となく、想像してはいた。しかしその斜め上をいかれた、と言った感じであった。
先に言っておこう。

読後は切なく、苦しい。読んだことへの後悔さえ襲う。出来るならば、思い出したくもない。けれどそこには、納得できる暗い安堵感がある。だからまた、ページを開いてしまうのである。

▼次は「白」である。
優しさと切なさと、そして少しの異世界感によるホラー感、「陽だまりの詩」。題名からして暖かいではないか。

世界は、病に満ちていた。
その病にかかれば、二ヶ月で死ぬ。それを知った男は、ある目的のためにロボットを作った。
この話は、そのロボットが主人公である。

ロボットの心の動きは、簡単に書けそうで難しい。
無機質であるはずのものに人間を染み込ませなければ、我々には届かない。けれどそれをやりすぎれば、それは最早ロボットでは無い。「無機質が有機物に変わる瞬間」という、ロボットものを書くときの感動のお決まりシーンが書けなくなるのである。
そしてこの話は、勿論それをクリアしている。
ロボットが主人公としては、王道のパターンであろう。しかしそれを取り巻く世界観と乙一の文筆力が、きちんと独特の余韻を残してくれる。ぜひ味わってみてほしい。

▼残りの3編にも、勿論乙一ワールドはあますところなく展開している。
好みによって分かれるではあろうが、外れは無いと言っていい。これだけ多岐に渡った世界が、一冊の本で読めるとは。


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しかし著者の乙一は、後書きでは「ただの謙遜の上手い、冗談を飛ばす気の良い兄ちゃん」であったりする。
そのギャップも面白いところである。