最後にプロメテウス編。
一番本編にかかわるエピソードなので麻草氏と共作(アルシオーネ編は畑澤のみ)です。
御覧の通り、僕らのホンにはあまりト書きがありません。
自分で演出するから、ではありますが、役者に想像の幅を広げてもらいたいからです。
■プロメテウス篇
■キャラクタ
プロメ
サポートドロイドの試作品の一つ。試験的にヴェッカーのバディとして活動したが、破壊される事が多く、量産化はされなかった。オラクルに拾われ、共に活動する仲間となるが……
■からみ
レピス(斉藤亜美) オラクル(ダブルキャスト)
0景(オープニング前)
暗転、打撃音の後、照明がつく。
プロメテウスは、下手下段でブラスターを持ち、敵を捜している。
上手上段からブレードを持ったレピスが駆け降りる。
レピス「プロメ!」
プロメ「レピス! 近づいてはいけません、まだ敵がいます」
レピス「(ブレードで防御の構え)プロメ、戻ろう、本部に報告しなきゃ」
プロメ「逃げ道はありません、ここで最後まで戦うのが、私たちの仕事です」
レピス「最後、まで?」
プロメ「レピス、サポートドロイドである私と、コンビを組んでくれて、ありがとう」
レピス「そんなこと…言わないでよ!」
プロメ「そうだ、レピス、今度二人でクリスマスパーティーを開きませんか」
レピス「二人で?」
プロメ「ええ」
レピス「いいけど…べつに」
プロメ「ありがとう、人間のようにプレゼントを交換しましょう。もちろん、この戦いから生きて帰れたらの話ですが」
レピス「生きて帰るんよ、絶対!」
プロメ「レピス…危ない!」
上手に立ったレピスが二発のブラスターをブレードで防ぐ。だが気が抜けて三撃目を防げない。倒れたレピスをかばうように、上手に走り両手を広げ撃たれるプロメ。ブラスターで反撃する。
レピス「プロメ!(下段に駆け下りる)」
プロメ「なあに、本気を出せばこんなものですよ……」
レピス「大丈夫なの?」
プロメ「いいえ、壊れてしまいました、このままでは、廃棄処分です」
レピス「廃棄処分?」
プロメ「私は試作品です、あなたとコンビを組んで、作戦を遂行し、データをとり、記録するためだけに、存在しています。役に立たないサポードドロイドなんて、廃棄処分です」
レピス「捨てられちゃうってこと?」
プロメ「ええ」
レピス「そんなのやだよ!」
プロメ「レピス」
レピス「そうだ……いい方法があるよ。仮想現実ネットワークで、プロメをオークションにかけるの、すぐに売れちゃうよね、きっと直せる人もいるよ」
プロメ「そんな事をすれば、あなたは逮捕されてしまいます、私は時空警察の備品ですよ?」
レピス「大丈夫だよ、この時代で敵に破壊されて、奪われたって本部には報告しておくから!」
プロメ「レピス」
レピス「だって……だって、せっかく仲良くなったのにさ…捨てられちゃうなんて……やだよ…」
プロメ「レピス……残る敵は一人、戦えますか? レピス、あなたは手数が少ない、いつも教えたように、必ず三手目を考えて戦ってください」
レピス「ごめん、ごめんね」
プロメ「レピス、返事を」
レピス「わかった、わかってる、戦うよ、うん……私…一人でも戦う…」
プロメ「ええ、そうです……レピス、ありがとう、さようなら」
レピス「さよなら、プロメ」
暗転
8景前
上手上段から出て来るメリー。あとを追うマス。
マス「待ってよ、テルル、なんで落ち込んでるの!」
メリー「うるさい! 放っておいて! …ビスマス、落ち込まない方がおかしいと思うよ!」
マス「そうかなあ、人生色々だよ、悪い事もあれば、ろくでもないこともあるよ」
下手上段からクリス。
クリス「いいことないね」
メリー「セレン!」
クリス「調べたよ。プトレマイオスラインにも、ハイペリオンラインにも、ご先祖様の描いた絵と彫刻は……一個も残ってないって」
メリー「……やっぱり……ああ……」
マス「テルル、セレン、なんで落ち込むの?」
クリス「ビスマス、あんたにはわからないの? 私たちはね、天国から地獄に落とされた気分だよ」
マス「だからなんでさ! ご先祖様が偉大な芸術家だってわかったのが先週で、その作品が一個も残ってないって知ったのが、今日でしょ?」
メリー「そうよ」
マス「じゃあ、先々週は? 何も知らなかったときは借金まみれだって落ち込んでなかったのに、なんで今日になったら落ち込むの?」
クリス「奇跡が起こるかもって思ったから! あがったから落ちたの!」
マス「あがったから、落ちた?」
上手上段からプロメが現れる。
プロメ「あがったから、落ちた、人間らしい考え方ですね」
メリー「プロメ、もう動けるの?」
プロメ「ええ、安物のパーツですが、動けますよ」
クリス「そりゃ時空警察の純正パーツと比べたら、安物だけどさ」
メリー「まあまあ、プロメ、あなたが来てくれて助かってる、ありがとう」
プロメ「どういたしまして。そういえば、イブから連絡が来ていましたよ」
マス「イブ? プロメの前の持ち主の?」
プロメ「ええ、そうです。テルルとセレンとビスマスの事を面白おかしく伝えたら、好意的な返事が返ってきました」
クリス「好意的な返事?」
プロメ「はい。イブは言いました、もし三人のご先祖様の作った芸術作品が、なくなってしまう前に取り返せるとしたら、取り返したい? と」
マス「取り返したい!」
メリー「あ、でもそれって…時空犯罪だよね」
プロメ「ええ、過去から現在へ、物を盗んで持って帰るのは、立派な時空犯罪です」
クリス「イブだってわかってるはずだよ」
プロメ「ええ、ですが、イブは言いました。もし君たちが本気で取り返したいと思うなら、どの時代のいつ、どこで失われたかを、教えてあげてもいい、と」
メリー「それって……なんだか、預言みたい、順番逆だけど」
プロメ「預言、いいですね、イブに伝えておきましょう……どうしますか?」
メリー「私は、やる」
クリス「私も……ビスマスは?」
マス「えっ……あのさ、プロメは、イブが誰だか知ってるの?」
プロメ「いいえ、記憶はフォーマットしてあります、以前の記憶はいっさいありません」
マス「そっか……テルルもセレンも元気になってきたみたいだから、私もやる!」
プロメ「よろしい、ではイブに報告しておきましょう」
11景前
クリスマスソングが薄く流れている。
上手上段から走って来るオラクル。振り向くとプロメテウスが出て来て叫ぶ。
プロメ「早く逃げなさい! 時空刑事が近づいています!」
メリー「でもプロメ、あなたは!」
クリス「テルル!」
プロメ「テルル、セレン、ビスマス、約束をして。ご先祖さまの作った作品を、全て取り戻すのだと、私に約束を」
マス「……約束するよ、絶対に取り戻すよ!」
プロメ「よろしい。さあ、逃げて!」
下手上段に去るオラクル。センターで待つプロメ、上手上段から駆け込んで来るレピス。
ブレードをかまえて戸惑うレピス。
レピス「……プロメ?」
プロメ「おや、時空刑事に知り合いはいないはずですが?」
レピス「そうか、記憶は、フォーマットしたんだよね……だから、私のことも、おぼえてないんだ……」
プロメ「おかしな事を言いますね、私の持ち主はテルル、セレン、ビスマスの三人だけ」
レピス「……そう、だよ……だから私は……あなたを倒して、三人をアレストするの」
プロメ「ならば私はあなたを全力で止めましょう」
レピス「……行くよ、プロメ!」
二合交わして、三撃目、レピスの突きがプロメを貫く。
ブレードを抜き、センターへ転ぶように走るレピス。
プロメ「レピス、ありがとう、あなたに止めてもらえて、私は幸運です」
レピス「プロメ、思い出したの?」
プロメ「ええ、レピス、あなたに会った時に全部」
レピス「じゃあ、どうして」
プロメ「あなたが一人でも戦えるかどうか、知りたかった……立派になりましたね、レピス」
レピス「プロメ!」
プロメ「けれど……私は…あなたにまだ教えていないことを、学びました……あなたには、仲間が必要なんです…ともに戦える、信頼できる仲間が……」
レピス「仲間……」
プロメ「それを、伝える事ができて、私は……嬉しい……ありがとう、良いクリスマスプレゼントになりました……メリークリスマス」
レピス「プロメ……」
上段の照明が落ちて、下手下段に照明、オラクルが現れる。
メリー「プロメの反応が消えたよ……」
マス「死んじゃったの?」
クリス「私たちを守るために、それが、つとめだから」
マス「そんなの……知らないよ!」
SE アラーム音
メリー「イブから、通信が入ってる」
マス「出て! 早く!」
クリス「なんでこんな時に?」
メリー「はい……」
上手上段に照明が入る。レピスがリストコムに話しかけている。
レピス「聴こえる? 私は……イブ。テルル、セレン、ビスマス……あなたたちに名前をあげる…プロメがつけてくれた、新しい名前」
音楽盛り上がり、暗転。