日露戦争 もう一つの戦い
塩崎 智
日露戦争 もう一つの戦い―アメリカ世論を動かした五人の英語名人
もう一つの戦いの舞台はアメリカ。当時の岡倉天心や朝河貫一なんかのアメリカにおける言論活動は知られているが、他に金子賢太郎、家長豊吉、野口米次郎といった、アメリカの社交界、教育界、文学界で活躍した日本人の群像を描いている。なかなか興味深いテーマではあるし、判官びいきから日本支持に傾いた当時のアメリカ世論や、ロシアの反撃工作などにも触れていて勉強になる。しかし、今から100年以上も前となると、アメリカ留学もそう簡単には出来るものではないと思うのだが、ハウスボーイなどをしながら大学に在学していた日本人は決して少なくなかった様だ。その中には永井荷風の様な高等遊民も一定数いたらしい。この辺は現在、第三世界からアメリカに留学する学生と似た様なところがあるのかも知れないが、出発前にビザで門前払いされてしまう現状では、勤工勤学型はそう多くはないのかもしれない。ともかくそうした中から結果として日露戦争に、ひいては日本の運命に大きな役割を果たした人物が出てきたことはたしかであり、「東洋の後進国」であった日本人が英語で世論を動かしたというのは、移民一世が多く、またアメリカ人の中でも非識字率が高かった当時のアメリカの事情とも無縁ではなかろう。また岡倉と朝河の様に対照的な主張が出てくるのも、アメリカの多様性にマッチしていただろうし、西洋的価値観を尊重しながらも、東洋の伝統を擁護するというのは、プレ・オリエンタリズムの時代にあって知識人の眼鏡にかなうことであった様だ。考えてみれば、現在、日本をベースにしている外国人の論客も自国の価値観のみを擁護し、日本を批判するだけのものが多いが、そういう人物を支持するのは自国より他国の方に重きをおく思想信条の日本人しかいない。「ナショナリズム」という問題を考えるとき、やはり「ナショナリズム」とは普遍なものではないかと感じる。反ナショナリズムを叫ぶものが他国のナショナリストを支持しているのを見ると滑稽に感じる。
★★