午後3時頃、我々は次の拘置所に向かう為ケンタッキーから西に走り続け、永遠と続くトウモロコシ畑を抜けてセイントルイスの市内に入った。大きな橋の上から左側に有名なアーチの塔が見える。そして我々はそこから約45分離れた所にあるリンコーン・カウンティー・ジェールに着いた。

昨晩の経験から酷いジェール恐怖症になっていた僕は、ロメロと一緒の部屋に入れてくれるように頼んで欲しいと頼んだ。そして、手続きが済むとダニエル達は僕たち3人に二日後には必ず迎えに来る事を約束し、彼らはシカゴまで囚人を迎えに行った。

『よし、お前からそこの部屋に入りなさい。』

と、監視官が僕に命じた。そこには6人用の狭い部屋があった。部屋の中は暑く空気の通りが悪かった。天井の換気扇を見上げると黒く汚れて詰まっているらしく日風が入ってこなかった。二人の白人が怖い顔をしながら僕を見ていた。ひとりは大男で上半身裸のスキンヘッド。黒いヒゲが印象的だった。もう一人は中年の男。電気会社の社長だったと言う。大男はすごく怖い顔つきだったが話してみる意外と優しかった。電気会社の社長はすごく頭が良かった。社長は僕に聞いて来た。

『名前は?どこから来た?シスコに住んでいる日本人?日本はアメリカの見方だ。』

どうやら僕のことを気に入ってくれたらしい。

その社長さんはもう1年以上もここにいるらしく、監視官とすごく親しかった。なんだか、特別に良くしてもらっているみたいだ。ここにはラジオがあり、氷が入った冷たい水まであり、粉でつくるアイスティーまでもあった。おまけに時々巻きタバコを隠れて吸っていた。一服すればコロリーンのスプレーでタバコの匂いを消した。居心地はこれまでの拘置所よりはマシだった。しかし、2時間位経つと監視官がやって来て、なぜかロメロと僕はその部屋の隣にあった大きめの10人用の部屋に移動させられた。そこは何もなく、暗く、汚かったが電話だけがあった。

『健司、電話があるぞ。俺達が電話をしてはいけない事をこのジェールの監視官達は知らない。今がいいチャンスだ。家族に今どこにいるかを伝えてあげればいいよ!』

僕たちのように護送されている囚人は外部との連絡を取ってはいけないことになっている。なぜならカージャックの恐れがあるらしい。さっそく僕は監視官に見られない様にこっそりと、暗記したイーサンの電話番号をダイヤルした。電話が繋がってすぐにイーサンは電話に出てくれた。

『もしもし、健司です。今、Saint Luis のあたりまで来ています。今はリンカーンジェールというところにいます。昨日はケンタッキーのジェールで一夜を過ごしました。トランスポーター達は僕達を2日間後に迎えにくるそうです。』

『健司、ずっと心配していたよ。アトランタのジェールにいる健司の友達のジョージさんから電話をもらって、31日にトランスポーターがシンジを迎えが来た事を知らしてくれたよ。彼はいい人みたいだね。何回も電話があったよ。健司の事を心配していたしね。』

ちゃんと電話してくれたんだ。有り難い。本当に彼に会えてよかった。

『カリフォルニアに帰るまで、僕たちの居場所が外部に漏れるとカージャックの恐れがあるとのことで、電話の使用は禁じられているのですが、たまたま入れられた部屋に電話があったので、こっそりと電話しています。次はいつ連絡出来るか分かりませが、とりあえず僕が元気だということと、2日後にはまた移動するという報告をしたかったのです。』

『分かった。電話ありがとう。十分気をつけて!』

イーサンと話せてホッとした。これで自分が生きている事を伝えられた。電話の向こうにはカリフォルニアがあるんだなと思うと、こんな暗い所から出たい気持ちで一杯になった。

9月2日(日)

ケンターキーのジェールとは一転しここはとても暑かった。夜中の2時、いきなり酔っぱらったホームレスが入って来た。真っ赤な顔をした中年の白人の男だった。酔っぱらっていた彼は一晩中叫び続けた。とても寝むれる環境ではない。酒の臭さだけではなく長い間風呂を入ってなかった為か、汗臭さを通りこしていかにも死んだネズミが腐りかけたようなものすごい悪臭が部屋中に充満した。その夜、僕は一睡も出来なかった。

9月3日(月)Memorial Day

一日が経ち、アルコールが抜けたホームレスは釈放された。 彼が出て行った昼過ぎ少しの間静かな時間が続いたのでやっと眠ることが出来た。もう一日でトランスポーターが迎えに来るから我慢しなければいけないと我々は気合いを入れた。夕食を終え、明日に備えてベットに横になると突然女性監視官がドアを開けた。

『あなた達、信じられないわ。昨日来た同じ酔っぱらいのホームレスが戻って来たわ!』

『え?信じられない。』

同じ酔っぱらいが叫びながら入って来た。

昨日と同じようにひどく酔っ払っているホームレスは僕たちを見て、大きな声ではしゃぎ始めた。

『おー、又お前らか?元気だったか?又会えて嬉しいよ。』 と抱きつくようによって来て、我々は必死に逃げた。汚い体を近づけてほしくはなかった。

『どうした?なんで逃げるんだ?歓迎してくれないのか?』

『冗談じゃない。近づいてこないでくれ。』

ロメロと僕は彼の臭さに耐えられなかく、

『なんて臭いんだろう?』

と話していると酔っぱらいが急に起こりだし再び近づいて来た。

『なんだと?なんか文句あるのか?』

『静かにしてくれ。一日我慢したが、また捕まりやがって。2度も帰って来るなんて、こっちが迷惑だ。ぶっ殺してやる。』

すると女性監視官が慌ててドアを開けた。

『元の隣部屋に俺達を戻してくれ。さもないとこいつを殴り殺す。』

ロメロは怒りで震えたこぶしを監視官に見せながら言った。
女性監視官は我々を最初の部屋に移してくれた。
そこには社長と大男が待っていた。

『大変だったね』

社長は僕にアイスティーをくれてにっこりと笑顔を見せてくれた。


バードダディーのブログ-ロメロ

バードダディーのブログ
9月1日(土)夜2時 HOPKIN COUNTY JAIL, KENTUCKY

僕は長い手続きを済ませると白と黒の縞模様の囚人用ジャンプスーツに着がえさせられ、指示された個室に薄い毛布一つ持ちながら移動した。その個室はアトランタの拘置所とは違い天井が高く、冷房がすごく効いていてとても寒かった。まるで大きいな肉屋の冷蔵庫に入っているみたいだった。監視官も近くにいなく、呼び出すボタンさえ見つからない。監視カメラもなかった。ここで凍え死んでも誰も助けに来てはくれず、ほったらかしにされるかもしれない。ドアの小さな窓からそっと見ると向かいの個室から目をギラギラさせた囚人が興味深く、微笑みながらこちらを見ている。このくそ寒い場所でTシャツ一枚だけ着て平気なのだろうか。落ち着いて周りを見てみると、どうやらここは、麻薬中毒で頭がおかしくなった犯罪者達が入所している所らしい。だからこの寒さも彼らには平気なのだろう。ちょうど、他の個室があいてない為、僕はここに入れさせられたみたいだ。

長い旅で体は疲れきっていたし、眠ればすぐに朝が来ると思い目を閉じた。一時間ほど眠りにつくと、異常な寒さで目が覚めた。気がついてみると息が白くなっていた。寝について何時間、いや何分経ったのだろうか。そして、部屋は前よりも寒さがひどくなっていた。それとも自分の体がもっと冷たくなっていていたのだろうか。

『さ、寒い…』 

寒すぎて空気が薄く、息が出来ない。体の震えが止まらなかった。冷房の風が上から強く吹いて直接僕の顔にあたる。僕はアトランタでルームメイトだったバーグを思い出し、腕立て伏せをし始めた。体を動かせば暖かくなると思ったが、朝まで体を動かし続ける事は何も食べていなかった僕には出なかった。体は冷たくなる一方でもしかしてこのまま死んでしまうのではないかと突然ものすごい不安に一気に呼吸困難が僕を襲った。ドアを必死たたいて助けを呼んだ。

“Help me! Somebody help me! Please help me!!”

『だ、誰か助けて!助けて!お願いです。助けてください!』

しかし、誰も来てくれない。頭がくるった向かいの囚人が僕の真似をしながら、叫び始めた。

『誰か助けて!誰か助けて! 誰か助けて!ヒヒヒ!』

僕はゆっくりとひざまついて地面に倒れた。冷凍なコンクリートの地面を寒さで麻痺した帆でやや感じた。まったく動けない状態のまま、ただ時間が経つのを待った。

『もう駄目だ。どうしよう。こんな所で死にたくはない。』

“Help me! Help... Please… Hel…p! I can’t breathe…”

『い、息ができない。。。』

僕はこのまま死んで行くのだろうか?アメリカの全く来た事のない州で寒く何もなくコンクリートで囲まれながら暗闇で閉じ込められながら一人ぼっちで死にたくはない。神様、これは僕に対する罰なのでしょうか?なぜ、ここまでしなきゃ行けないのでしょうか?お願いします助けて下さい。お願いします。お願いします。なんでもします。こんな所で死にたくない。』

頭の中でこれまで起きた事やジョージの励ましの言葉がフラッシュバックした。

数時間経つと朝食を持って来た監視官が僕の様子を見に来た。

『おい、大丈夫か?おい。』

『。。。』

僕は力がまったく出ず冷たい床に倒れていたままで、監視官に返事すらする事が出来なかった。しかし、監視官はドアを開けて僕の状態も確認もせず、朝食のトレイをドアの小さな窓口に置いたまま去って行ってしまった。

『食べなきゃいけない。 このままだと本当に死んでしまう。』

僕はトレイを手元に引き寄せ、プラスティックのスプーンをとった。何もかも冷たく不味そうに見えた。小さな箱に入ったコーンフレークだけが唯一食べられそうに見えた。粉ミルクは臭い水で溶かしてあり、飲める状態ではなかった。しかし今は何か口に入れなければと思い一口だけ食べた。朝食は6時だと言っていたから、ヴァンの迎えが来る10時まであと4時間。僕は独り言をいいながら、時間が経つのをひたすら待った。

数時間後、やっとドアが開いた。

『出ろ。時間だ。』

最後の力を振り絞って僕はゆっくりとそこから出た。ここから出られたという事で、少しずつだが生きる気力を取り戻し始めた。

『助かった。死ぬかと思った。本当に助かった。』

自分の服に着替えると大きめなホールドセルに連れて行かされた。するとそこにはロメロがすでにいた。僕は彼の個室はどんな感じだったか聞いてみた。

『どう、よく寝れた?寒くはなかった?』

『ぐっすり寝れたよ。寒くもなかったよ。毛布なんてかける質用なんてなかった。個室にはたった一人だったしね、久しぶりにゆっくりさせてもらったよ。シャワーにも入ったしね。そっちはどうだった?』

『寒くて死ぬかと思ったよ。寒すぎて、呼吸困難になって助けを求めたんだけど周りに頭のおかしい囚人が違う個室から僕の事をからかったんだ。』

『え?もしかして、シンジはメンタルのセールに入れられたのかも。俺がジョージアでやな経験したのと同じだよ。ケンタッキーでは麻薬中毒犯罪者がいて、特別にそこだけの個室を寒くしておくらしい。』

我々はホールドインセルで話しながら二時間半ほど待った。ヴァンはそのジェールで南なまりの激しい40才位の女性を拾う。ヴァンの中は囚人3人になった。

ロメロは笑いながら運転手のダニエルに言った。

『健司が大変だったみたいだぜ。健司、話してみろよ』

僕はこの恐怖をダニエルとジェーピーに話した。すると彼等はその話が面白かったらしく大笑した。

『冗談じゃない。笑い事じゃないよ。二度とこんな体験はしたくない。そんな事よりも何か食べさせてくれ。』

窓から見えるトウモロコシ畑を見ながらこれからどんな旅になるのか呆然と考えていた。

『これからどんなジェールに泊まらなければいけないのだろうか。』

ヴァンは一日中トウモロコシ畑一面にする高速を走り続けた。僕達は暑い真夏のアメリカのど真ん中にいる。喉が乾くが何も飲ませてくれない。おなかもすき始めて来た。なんだか、様子がおかしい。このまま、この畑で殺され放置されても誰も分からないだろう。囚人の命なんて保証なんてされていないのだからその可能性もある。

我々は一つのガソリンスタンドに止まり、そこでサンドイッチと水を買ってもらった。食べ終わると暑い日差しの下でタバコを吸いながら運転手のダニエルが本部との連絡をし終わるのを待った。周りは360度一面にトウモロコシ畑で何もなかった。

身の危険を感じながら不安で一杯だった。なんだか遠くで電話で話しているダニエルの態度がおかしい。本部から電話があったようで、予定を変更しなければいけないようだ。すごくイライラしている。彼等はもっと北にあるシカゴまで囚人を迎えに行かなければならなくなり、僕たち3名は途中のジェールで待機する事になった。次に泊まるジェールはケンタッキーよりもマシでありますようにと心の中で必死に祈った。

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8月31日 (金)

昨日はよく眠れた。僕達はコップとスプーンを持ち、朝食を食べに行く為それぞれの部屋の前に一列に整列していた。カリフォルニアからの迎え来るといる期限などはとっくに過ぎている。いつの間にか日にちを数えるのも忘れていた。ジョージや数人のラテン人と話すのが楽しみになっていた。小さい頃から中南米育ちの僕はラテン人といるとすごく落ち着く。

朝食を終え、掃除をし、みんなは静かな時間を過ごしていた。ルームメイトのバーグと今日の昼食はあまりチャンスがない月に一度のチキンが出るからすごく楽しみだと話していると、突然部屋のトランシーバーから雑音が鳴り始めた。一度もトランシーバーからの音を聞いた事がなく、どうしていいか分からずにいるとルームメイトのバーグが起き上がり耳をトランシーバーに近づけて話し始めた。彼は僕に振り向き笑顔でこう言った。

『健司、カリフォルニアに帰れる日がやっと来たよ。』 

僕は信じられなかった。しかし程なくするとドアが開き、監視官が部屋に入って来て僕に釈放に関するいくつかの資料を渡した。

『ここにサインしろ。迎えが来た。荷物をまとめろ。』

僕はバーグと強くハグを交わした。うれしさで勝手に涙があふれてきた。僕は泣きながら夢中で荷物をまとめた。

僕の物を片付けるとともにジョージのいる部屋に走って行き、彼の部屋のドアを叩いた。

『ジョージ、ジョージ、やっと迎えに来たよ。行かなきゃ。必ず連絡するからね。さようなら。』

『気をつけろよ。またどこかで会う日まで。』

ジョージは手を振ってくれた。

僕は自分の荷物を手にとり歩き始めた。後ろを見ると寂しそうなバーグの姿が見えた。心の中で、彼に良いルームメイトがくればいいのにと祈った。

『バーグ、本当にありがとう。』

僕は遠くから小さな声で言った。

外へ出るまでの長いホールを歩いている間中涙が止まらなかった。その暗いホールの向こうには長い間見てなかった太陽の光が見える。森林の緑が涙で霞んで見える。

久しぶりにジャンプスーツから解放され、自分の服や靴を身につけた。そこには二人の黒い服で武装した若者が待っていた。彼らは僕に手錠を掛けその手錠を腰に巻きつけた鎖に繋ぎ、両足にも手錠のようなものをつけさせた。そうやってようやく外に止まっているヴァンまで案内してくれた。

久しぶりの外の世界は暖かく眩しかった。清々しい風が森林の葉を揺らしながら僕の頬にあたった。そこには素晴らしい自然があった。空は一面に青く染まっていて久しぶりの自由を体感していた僕は感謝の気持ちで一杯になっていた。初めてここに来た時は周りも真っ暗だったのでこんな大自然の中に東京ドーム位ある大きな拘置所がある事が信じられなかった。合計19日間のアトランタ・クレイトン・カウンティー・ジェールでの生活はやっと終わった。これでサンフランシスコに向かうことが出来る。もう二度とこんな経験はしたくないと思った。

ジャラジャラと重い鎖で両足を縛られた僕は歩きにくく、ヴァンに乗る時うまくヴァンに乗るが出来なかった。側にいた運転手は親切に手を貸してくれ笑顔で僕に話しかけた。

『大丈夫?俺はダニエルだ。君は変わったルックスだね。』

確かにダニエルが言った通りかもしれない。僕は東洋人でブランドの黒斑の眼鏡をかけ、黒いスーツを着て髪が肩よりも長くメッシュが入っていた。

僕は後ろのシートに静かに座った。

僕の他にはもう一人の囚人がいた。彼の名前はロメロ。イタリア系アメリカ人だ。彼は白いシャツに黒いズボンを履いていて、見た目は悪そうな奴ではなかった。彼は運転手のダニエルと助手のジェーピーが座っていた、ちょうど鉄網で区切られた席で彼等と親しく会話をしていた。ロメロはすでにケンタッキーからジョージアまで僕を迎えに来る為に、7時間の道のりを旅して来たらしい。そして昨晩この拘置所に到着しここで一泊したらしい。そしてこのヴァンはもう一人の囚人を迎えに行く為、再びケンタッキー州に戻らなければいけないらしい。ロメロはまたケンタッキーに逆戻りしなければ行けない事で飽きれていた。そして僕がいた拘置所の扱いがあまりにも悪かった為、とても苛立っていた。

『しかし、ここのジェールは最低だぜ。部屋の床辺り一面小便でベトベトしているし、ベンチにも横になれなかったし、鼻が痛くなるほどアンモニア臭くて一晩中眠むれなかった。おまけにシャワーをしていた全裸の俺を後ろから偉そうな黒人監視官は蹴りやがった。そして床に転んだ俺の事を笑いやがった。こんなジェール、絶対に訴えてやる。』

『マジかよ。それは笑えるぜ。最低だな。』

『おいおい、笑い事じゃないよ。』

運転手のダニエルは笑いながらバックミラーでおとなしくしている僕を確認しながら言った。

『どうした、健司?やけに静かだね。あれ?ケ*ン*ジだよね?俺たちは奴等(監視官、警察官)と違って良い奴らだよ。だから怖がわらなくても大丈夫だよ。君はとても面白いルックスだよね。日本人だろ?仕事は何をしてるの?』

『デザインの仕事をサンフランシスコでやっています。』

助手席に乗っていたナビゲーターのジェーピーが後ろに振り向いて笑顔で言った。

『俺は日本アニメがすごく好きなんだ。健司はアニメ好き?』

僕は彼らの親切さが何かのワナだと疑った。2日前にジョージが教えてくれた事を思い出した。

「信じられる人はあなたの弁護士だけだ。警察なんて信じちゃいけない。何を聞かれても話しては行けない。」

『迎えにきてくれて有り難うございます。』

僕は彼等に丁寧に礼を言った。するとダニエルは

『これからが長い旅だからね。ちゃんとシートベルトつけて。』

僕は質問しなくてもすぐに分かった。このヴァンは飛行場には行かない事を。

ヴァンは5分ほど走ると人気の無い広い駐車場の端に止まった。

『タバコ吸うかい?』 

ダニエルは助手のジェーピーに僕の足に付けていた重い鎖を外し、手錠をゆるくするように言った。

彼は僕のタバコに火をつけてくれて、暑い日差しの下で一緒にタバコを吸った。久しぶりのタバコは美味しかった。タバコの煙が青い空に舞い上がるのを見ながらすごくホッとした。

『で、健司はどうして捕まったんだ?君のような日本人は犯罪者には見えない。ここの資料によると“SEXUAL ASSULT”『性犯罪』と書いてあるがいったい何をしたんだ。話したくなければ話さなくて大丈夫。俺達には関係のない事だからね。』

この二人は警察の人間ではないし、テープレコーダーなど持っていないようなので、気を許してしまった僕は話し始めてしまった。

『6ヶ月前、当時付き合っていた彼女のアパートのドアを開けようとしたとき、酔っ払った勢いで壊してしまったのです。しかし以前からあたり前の様に彼女は彼女の6才の息子と喧嘩すると必ず玄関のドアを強く閉め合っていて、一度そのドアの鍵が壊れた事もあったんです。もともと前からそのドアはかなりいたんでいたのだと僕は思うのです。それは言い訳なのですが、壊れたドアはちゃんと弁償しました。しかし性犯罪と聞いた時はとても驚きました。反対に彼女の方がよくレイプしてほしいと求めて来てたの方なのです。僕はあまりその行為は好ましくなかったのですが、彼女と口論した時はそれが唯一の仲直りでした。そんな彼女がなぜ僕に性犯罪を訴えて来たのか分かりません。』

『彼女はアメリカ人?』

『いいえ、日本人です。』

『日本の女性って変態な子多いんでしょ?』

彼等はそう言いながら大笑いした。僕もつられて笑ってしまった。

『タバコ、もう一本欲しいか?』

彼は僕とロメロにタバコをもう一本ずつ吸わせてくれて、その後近くのファーストフードのドライブスルーに寄った。僕はランチセットのチーズチキンサンドにフライドポテトを注文した。久しぶりに食べた脂っこい暖かい食べ物と氷が沢山入った炭酸のジュースは本当に美味しかった。ジェールでは味がない食べ物と、生ぬるい飲み物だけだったので、今日食べたファーストフードは忘れられないほど美味しかった。

そして、ヴァンはジョージア州の渋滞を抜け、高速を7時間かけ北に走った。途中にアトランタ国際空港が見えた。あの場所から始まったんだなと思いながら空に舞い上がる飛行機を呆然と見送っていた。心の底には飛行機で帰れたらなという願いもあったのかもしれないが、自分の席から外の世界が見えるだけで感謝し、長時間座りっぱなしでも苦ではなかった。途中我々は休憩所でお手洗いにいくが手錠は外してくれないので一般の観光者達がジロジロと見られる中でトイレに入った。さらに我々は北に進みテネシー州を抜けて、ケンタッキー州まで行くともう夜はかなり遅かった。車内ではみんな疲れてきたせいか口数も少なくなり、エンジンの音だけが響いていた。ガソリンスタンドに入ると、ダニエルとジェーピーはヴァンを降りてまじめな顔で僕たちには聞き取れないように何かを真剣に話し合っていた。

その時ロメロは僕の耳の側で言った。

『こいつ等の事を信用してはいけないぞ。アメリカでは親切にする奴らは得に信じられない。さっきだって健司の事件の事を色々質問してきただろう?あれは罠かもしれないぞ!』

『でも、テープレコーダーもなかったし大丈夫でしょ?』

『今の携帯は優れている。録音されているとヤバいぞ。奴らはこちらに不利になりそうな情報を金で検事に売るかもしれないぞ。』

『でも、さっき僕は何も悪い事言ってなかったよね?』

『いや、彼が日本人の女性の事で冗談言っただろ?その時おまえも一緒に笑ったのはやばかった。』

僕は急に崖から誰かに後ろから突き落とされたような気分になった。ロメロの言葉がとても重く感じた。僕の将来は終わりだと思うと一気に元気がなくなった。暗くなった道のりを走る他の車のブレーキランプを目で追いながら頭の中でこれから僕の人生はどうなってしまうのだろうかと心配しながらじっとしているしかなかった。

気分の重いまま、ヴァンは走り続け夜中2時頃ケンタッキー州の拘置所で一夜過ごす事になった。道のりの10時間、タバコだけで何も食べさせてもらっていなかった為、精神的にも体力的にもすごく疲れていた。

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