子犬だった僕はある日
何の前触れもなく
ご主人様に捨てられて
段ボールの箱と一緒に
空き地の木陰に置いていかれた
僕は最初、それが
どういう意味かを理解できずに
段ボールから抜け出して
自分の住んでいた家まで歩いて戻った
でもそこにあったのは
誰もいない抜け殻の家で
僕はそれでも自分に
何が起こったのかを理解できず
その空家の前で
何日も過ごした
雨が降った日も
風が強かった日も
僕はそれを悲しいとも思わず
ご主人様はいつか帰ってくるものだと思っていた
でも何カ月か過ぎた頃
僕もようやくそれを感じ取り
同時に僕は悲しみが湧いて来て
その悲しみを打ち消すように
ご主人様の帰りを強く信じるようにした
でも信じれば信じるほど
それを打ち消す心も大きくなり
ある雨の日、僕は
その雨の音に紛れ込ませるように
ひっそりとその空家の前で泣いた
すると、そんな僕の様子を見ていた
魔法使いが
「しばらくの間、
君を人間にしてあげよう
そうすれば君のご主人様の気持ちが
少しは分かるかもしれないね」
と言って、魔法をかけて
僕を人間にしてくれた
僕は早速、自分のご主人様を探す為に
街を歩いてみたけれど
どんなに歩いてもご主人様は見つからず
代わりに目についたのは
僕と同じ様に捨てられていた
子犬や子猫達だった
僕が彼らを拾い上げ
優しく撫ででやると
後ろから「それ、君の犬?」
という声が聞こえてきて
僕が振り返ると
そこには女の子が立っていた
僕が慌てて首を振ると
彼女は優しく僕の手から
その子犬を抱き寄せ
そして優しく頭を撫でた
それから僕とその子犬は
ペットショップをしているという
彼女の家に連れて行かれ
子犬はしばらく
新しいご主人様が見つかるまでの間
そこで預かってもらえることになり
僕も安心して帰ることにしたけれど
僕には最初から帰る場所なんてなくて
そんな僕の様子を見かねた彼女は
優しく僕に語りかけた
「どうせあなたも帰る場所がないんでしょ」
そうして彼女は優しく笑い
そして僕は彼女のそばで暮すようになった
でも結局僕は
自分のご主人様を見つけられず
そして人間の気持ちもまた理解できず
というよりも、彼女の気持ちを理解してあげることが出来ず
いつも、自分の弱さを武器に
彼女の寂しい気持ちを攻撃していた
それでも彼女は懸命に僕に優しさを分けてくれた
涙を流しながら何度も何度も
「ごめんね」と言った
でも、そんなある日
その彼女がついに僕に別れを切り出し
僕は訳も分からず家を飛び出した
最初僕はそれが理解できず
子犬だった頃と同じ様に
何日も大切な人が帰ってくるのを待った
雨が降った日も
風が強かった日も
僕はそれを悲しいとも思わず
彼女はいつか帰ってくるものだと思っていた
でも何カ月か過ぎた頃
僕もようやくそれを感じ取り
同時に僕はまた悲しみが湧いて来て
その悲しみを打ち消すように
また性懲りもなく
彼女の帰りを強く信じるようにした
でも信じれば信じるほど
それを打ち消す心も大きくなり
ある雨の日、僕は
その雨の音に自分の悲しみを紛れ込ませた
そうしていつしか
魔法の効果も切れ
僕は人間から
ただの子犬に戻った
僕はもう
誰も信じないと心に決めた
もう悲しい思いはしたくなかった
だからもう2度と
誰の優しさにも触れないと決めた
僕はもう
一人で生きて
一人で死ぬことにしようと決めた
そうすれば
誰にも捨てられることはないんだと思った
誰にも裏切られないと思った
誰かに裏切らせるのも、もう嫌だった
そうして何日もの間
飢えと寒さと
孤独と闇と共に生きた
いつ死んでも後悔はなかった
ただその時、どうしてか
僕を支えていたものは
過去のご主人様や彼女がくれた
優しさや楽しい思い出だった
僕はそれが逆に悔しくて悲しくて
思い出す度に奥歯を噛みしめて泣いた
でも、そうやって何度も何度も思い出す度に
やがて、僕は自分の心に
ふたをするようになった
そういった楽しい思い出や美しい過去も
消し去って
同時に僕の感情も消えていった
もう何を聞いても
何を見ても
楽しいとも嬉しいとも思わなかった
悲しいとも悔しいとも思わなくなった
そうして僕はまるで
死んだ子犬の様に歩き続けた
そしてそんな僕を慰めるように
そらから大粒の雨が降ってきて
僕の涙をかき消してくれた
と、その時
僕の上に傘が差され
ふと上を見上げると
そこに
昔と同じ笑顔の彼女が立っていた
彼女はただ
いつも通り捨てられた子犬達に接するように
優しく近づき
そして子犬の僕に傘を差して
優しく語りかけた
「道に迷ったの?
帰る所ある?」
その彼女の優しい笑顔を見て
僕はとても嬉しい気持ちと同時に
激しい怒りがこみ上げてくるのを感じた
自分を捨てたやつが目の前にいる
僕はその怒りだけで
奥歯をならせて彼女に牙を向けた
〝今更、何の用だ〟
僕の激しい怒りを見ても
彼女は動じる様子もなく
牙をむく僕に優しく手を伸ばしてきた
そもそも彼女に分かるはずがなかった
何もしらない彼女が
人間だった頃の僕と
今の僕の見分けがつくはずもなかった
ただ、僕が他の捨てられた犬達と同じだったから
声をかけた
ただ、それだけなんだ
だから僕は激しい怒りのまま
彼女の向かって何度も吠えた
彼女は、それでも
怯える様子もなく
僕の濡れた頭を優しく撫でた
そして彼女は僕の頭を撫でながら
僕に語りかけた
「君も捨てられたんだね
ごめんね
君が見せる怒りの強さだけ
君は誰かを強く信じたんだよね
ごめんね」
彼女は自分が捨てたわけでもない
子犬に対して
何度も「ごめんね」という言葉をかけた
そして彼女はとても悲しそうな笑顔で
「君を捨てた人が
もう少し強ければ
君を悲しませずにすんだのにね」と言った
そうして何度も何度も
「ごめんね」と続けて
彼女もその雨音にしみ込ませるように
彼女の涙を落した
僕はそれでも
吠えるのを止めなかった
何度も何度も彼女に向かって
吠え続けながら叫んだ
「どうして捨てたんだよ
どうして信じてくれなかったんだよ
捨てるならどうして、優しくしたんだよ
どうして捨てた後に優しくするんだよ
どうしてだよ
どうしてだよ
どうして、いつも
自分一人で全部背負いこもうとするんだよ
どうして、いつも
自分一人悪者になろうとするんだよ
どうして、いつも
謝るんだよ
いつだって悪いのは僕の方だったじゃないか
どうしてだよ
どうして、いつも
そんな悲しそうな笑顔で泣くんだよ」
僕は吠えながら泣き続けた
その僕に向かって
彼女も泣きながら何度も何度も
「ごめんね」と言った
僕は何度も何度も吠え
彼女も何度も何度も「ごめんね」と言った
そして、その彼女の優しい涙と
僕の悔しい涙は
それぞれ温かい雨に包まれて
1つとなった
RADWIMPS 愛し
昔々、山のふもとの人里で
2人の鬼が住んでいました
彼らはそれぞれ
赤鬼と青鬼と呼ばれ
幼い頃から皆に煙たがられ
そして虐められてきました
里に住む皆が鬼はいずれ
災いをもたらすと
誰しもが考えていたからです
大人から子供まで
皆が冷たい目で彼らを見ていました
それでも2人の鬼は
他に行く場所もなく
幼い頃から2人で
理不尽な暴言や暴力に耐えて
暮らしてきました
しかし赤鬼はある時から
それに耐えきれなくなり
青鬼に、2人で強くなろうと持ちかけました
そして、その日から
2人は互いに競い合うように
修業を重ね
木刀や竹刀を使っては
互いに闘い
自分達の身を守る術を磨いて来ました
そうして大きくなった2人でしたが
互いの修業は次第に
厳しさを増していき
お互いを傷つけあうまでになってきました
本来、自分達を守るために
強くなろうと始めた修行で
お互いを傷つけ合うなど間違っている
青鬼はそう思い
修業を止めることを決意しました
しかし、一方で赤鬼は
更なる強さを求めて
修業を止めることを許しませんでした
その頃になると
2人の強さも里の皆に知られており
災いをもたらすどころか
里の守り神として
崇められるになっていました
もう誰も彼らを煙たがったり
白い目で見ることはなかったのです
それにも関わらず
赤鬼は強さを求めることを止めませんでした
どんなに自分が傷ついても
どんなに相手を傷つけても
強くなることを止めようとせず
修業を続けました
そんな赤鬼に青鬼は
次第に疑問を抱き始めました
ある日、青鬼が赤鬼にそれを問うと
赤鬼は神妙な面持ちで青鬼に言いました
「俺達は強くなければならない
なぜならば
俺達を守り神と崇めている人々は
いずれまた、必ず俺達を
災いをもたらす者として
見る日が来るかもしれないからだ
俺達が鬼である以上
里に災いが起こった時
それらの原因は全て俺達のせいになる
俺達は生まれた時から
そういう運命なのさ」
赤鬼のその気持ちは
青鬼にとっても同じものでした
しかし、そうであっても
お互いを傷つけあうほど
闘う必要があるのだろうかという
疑問はぬぐえませんでした
ある時、里の人々は青鬼に言いました
「赤鬼は変わってしまった
今の彼は強さだけを求めている
なぜならば、里の皆が彼にした行為に対して
彼は復讐しようと思っているからに違いない」
そう言って、里の人々も
次第に赤鬼に対して
疑いの目を持つようになりました
それでも青鬼だけは
赤鬼の事を信じていました
そんな青鬼に対して
里の人々は言いました
「それならば彼に
木刀ではなく
真剣を使っての勝負を
持ちかけてみてはどうだろうか
彼が本当に
自分達の強さだけを考えているなら
そんな危険な修業は受け入れないはずだ
もし、彼がそれを引き受け
妙な態度を見せれば
その時はその真剣を使って
彼を切るしかない
そうしなければ
彼はいずれ修行という名の下
君を殺すだろう
なぜだか分かるかい
それはこの里で自分の他に強い者は
青鬼の君しかいないからだ
青鬼の君を倒してしまえば
この里はどうにでもなる
そう考えているのではないだろうか」
その人々の言葉を聞き
青鬼は疑いの気持ちを募らせ
そして、2人の修業の厳しさと
人々の疑問は
同じ様に
増幅していき
青鬼自身も、やがて
赤鬼に対する疑いの芽を
摘むことが出来なくなりつつありました
そして、青鬼はそれを打ち消すように
赤鬼に真剣での勝負を持ちかけました
しかし、当然の如く
そんな危険な勝負を
断るであろうと思っていた赤鬼は
青鬼の願いとは裏腹に
あっさりとそれを受け入れました
「どうして、そうまでして
強くなりたい」
疑いの気持ちを募らせた青鬼が赤鬼に問うと
赤鬼は顔色一つ変えず青鬼に言いました
「強ければ悲しい思いをしなくてもいい
誰にも悲しい思いをさせなくていい
だからだ
俺は里の人間達が嫌いだ
あいつらは必ず俺達を裏切る
簡単に手のひらを返す日が来るだろう
その時に圧倒的な強ささえあれば
俺達は自分の身を守ることが出来る」
それを聞いた青鬼は
やはり赤鬼が里の人々に
憎しみの心を抱いていることを知り
赤鬼に対する疑問を
確信へと変えていきました
そうして2人は
里の人々が見守る中
互いに真剣を持って
闘いを始めました
その闘いは非常に長く
そして険しく
三日三晩、続いた後
ようやく、青鬼の剣が
赤鬼の心臓を貫きました
里の人々はそれを見て
ほっと胸を撫で下ろし
青鬼は倒れた赤鬼を見て
嘆き悲しみました
〝どうして赤鬼は変わってしまったんだ
俺達はお互いに
同じ痛みを分かち合ってきたのに
どうして赤鬼は
それを憎しみに変えてしまったんだ〟
青鬼が悲しみにくれながら
倒れた赤鬼の方を見ました
そして、青鬼が赤鬼の剣を拾い上げた
その時
青鬼は赤鬼の本当の心を知り
驚愕しました
赤鬼が使っていたその剣は
真剣などではなく
真剣の様に作られた
刃のない偽物でした
それでは誰も切ることはできません
青鬼は今にも
息絶えようとする赤鬼に問いました
「これはどういうことだ!」
青鬼の驚く表情とは裏腹に
赤鬼は非常に穏やかな表情で
血を吐きながら
最後の力を振り絞って答えました
「自分が辛いことよりも
同じ痛みを持つ者を
助けられないことの方が悲しい
それが自分の大切な人なら尚更だ」
幼い頃から忌み嫌われてきた2人は
互いにその悲しみを分かち合ってきました
しかし、赤鬼は同時に
自分と同じ苦しみを持つ青鬼を助けれない
自分の弱さに対しても悔しさを抱いていました
家族の様に一緒に育ってきたその
青鬼の涙を
いつもいつも見ていた赤鬼は
ある時気付いたのです
自分が泣くことよりも
大切な人が泣くことの方が
辛いんだということを
そしてそれに対して
何も出来ないことの方が
もっと辛いんだということを
だから赤鬼は強さを求めました
そして自分達を忌み嫌ってきた里の人々に対しても
憎しみを抱きながら
それでも尚、皆が
共存できる方法を探していたのです
もしも、自分達が強くなれば
里の人々も手を出せず
いずれ彼らが手のひらを
返すことがあったとしても
自分達を攻撃してくることはなくなるだろうと
考えていました
白い目で見られることや
避けられることはあっても
それ以上の事はしてこないだろうと考えたのです
それはつまり
青鬼を守ると同時に
里の人々に
過った道を歩ませないようにする為の
赤鬼なりの考えでした
しかし、最後まで
それを知ってもらえることはなく
苦しみや悲しみを分かち合ってきた
青鬼にすら信じてもらうことはできませんでした
赤鬼が言っていた
『強ければ悲しい思いをしなくてもいい
誰にも悲しい思いをさせなくていい』
それが青鬼に向けれた気持ちだったことを
青鬼は今になって気付きました
青鬼は安らかに目を閉じる赤鬼の
本当の心と
自分や里の人達に向けられた気持ちを知り
里中に響く程の
大きな声で泣きました
赤鬼が求めた強さの
本当の意味を知らず
赤鬼が変わってしまったという疑いを消せず
里の人々の言うように乗せられて
苦しみを分かち合ってきた赤鬼を
最後まで信じれなかったのです
〝変わってしまったのは赤鬼ではなく
自分の方だった
赤鬼は最後まで強さを求めることで
自分達を守りたかったのだ
にもかかわらず、自分は
赤鬼を守るつもりで
彼を疑っていたんだ
共に苦しみを分かち合ってきた者を
信じられなかったんだ〟
赤鬼が息絶え
その時初めて
赤鬼の気持ちを知った青鬼は
それから三日三晩、泣き続け
そうして、その後
里がよく見渡せる丘の上に
赤鬼の墓作りました
どんなに忌み嫌われても
どんなに疑われても
赤鬼が見守ってくれることで
赤鬼の気持ちに背を向けないように
そして赤鬼がいつでも
青鬼の強さを見渡せるように
uverworld 哀しみはきっと
2人の鬼が住んでいました
彼らはそれぞれ
赤鬼と青鬼と呼ばれ
幼い頃から皆に煙たがられ
そして虐められてきました
里に住む皆が鬼はいずれ
災いをもたらすと
誰しもが考えていたからです
大人から子供まで
皆が冷たい目で彼らを見ていました
それでも2人の鬼は
他に行く場所もなく
幼い頃から2人で
理不尽な暴言や暴力に耐えて
暮らしてきました
しかし赤鬼はある時から
それに耐えきれなくなり
青鬼に、2人で強くなろうと持ちかけました
そして、その日から
2人は互いに競い合うように
修業を重ね
木刀や竹刀を使っては
互いに闘い
自分達の身を守る術を磨いて来ました
そうして大きくなった2人でしたが
互いの修業は次第に
厳しさを増していき
お互いを傷つけあうまでになってきました
本来、自分達を守るために
強くなろうと始めた修行で
お互いを傷つけ合うなど間違っている
青鬼はそう思い
修業を止めることを決意しました
しかし、一方で赤鬼は
更なる強さを求めて
修業を止めることを許しませんでした
その頃になると
2人の強さも里の皆に知られており
災いをもたらすどころか
里の守り神として
崇められるになっていました
もう誰も彼らを煙たがったり
白い目で見ることはなかったのです
それにも関わらず
赤鬼は強さを求めることを止めませんでした
どんなに自分が傷ついても
どんなに相手を傷つけても
強くなることを止めようとせず
修業を続けました
そんな赤鬼に青鬼は
次第に疑問を抱き始めました
ある日、青鬼が赤鬼にそれを問うと
赤鬼は神妙な面持ちで青鬼に言いました
「俺達は強くなければならない
なぜならば
俺達を守り神と崇めている人々は
いずれまた、必ず俺達を
災いをもたらす者として
見る日が来るかもしれないからだ
俺達が鬼である以上
里に災いが起こった時
それらの原因は全て俺達のせいになる
俺達は生まれた時から
そういう運命なのさ」
赤鬼のその気持ちは
青鬼にとっても同じものでした
しかし、そうであっても
お互いを傷つけあうほど
闘う必要があるのだろうかという
疑問はぬぐえませんでした
ある時、里の人々は青鬼に言いました
「赤鬼は変わってしまった
今の彼は強さだけを求めている
なぜならば、里の皆が彼にした行為に対して
彼は復讐しようと思っているからに違いない」
そう言って、里の人々も
次第に赤鬼に対して
疑いの目を持つようになりました
それでも青鬼だけは
赤鬼の事を信じていました
そんな青鬼に対して
里の人々は言いました
「それならば彼に
木刀ではなく
真剣を使っての勝負を
持ちかけてみてはどうだろうか
彼が本当に
自分達の強さだけを考えているなら
そんな危険な修業は受け入れないはずだ
もし、彼がそれを引き受け
妙な態度を見せれば
その時はその真剣を使って
彼を切るしかない
そうしなければ
彼はいずれ修行という名の下
君を殺すだろう
なぜだか分かるかい
それはこの里で自分の他に強い者は
青鬼の君しかいないからだ
青鬼の君を倒してしまえば
この里はどうにでもなる
そう考えているのではないだろうか」
その人々の言葉を聞き
青鬼は疑いの気持ちを募らせ
そして、2人の修業の厳しさと
人々の疑問は
同じ様に
増幅していき
青鬼自身も、やがて
赤鬼に対する疑いの芽を
摘むことが出来なくなりつつありました
そして、青鬼はそれを打ち消すように
赤鬼に真剣での勝負を持ちかけました
しかし、当然の如く
そんな危険な勝負を
断るであろうと思っていた赤鬼は
青鬼の願いとは裏腹に
あっさりとそれを受け入れました
「どうして、そうまでして
強くなりたい」
疑いの気持ちを募らせた青鬼が赤鬼に問うと
赤鬼は顔色一つ変えず青鬼に言いました
「強ければ悲しい思いをしなくてもいい
誰にも悲しい思いをさせなくていい
だからだ
俺は里の人間達が嫌いだ
あいつらは必ず俺達を裏切る
簡単に手のひらを返す日が来るだろう
その時に圧倒的な強ささえあれば
俺達は自分の身を守ることが出来る」
それを聞いた青鬼は
やはり赤鬼が里の人々に
憎しみの心を抱いていることを知り
赤鬼に対する疑問を
確信へと変えていきました
そうして2人は
里の人々が見守る中
互いに真剣を持って
闘いを始めました
その闘いは非常に長く
そして険しく
三日三晩、続いた後
ようやく、青鬼の剣が
赤鬼の心臓を貫きました
里の人々はそれを見て
ほっと胸を撫で下ろし
青鬼は倒れた赤鬼を見て
嘆き悲しみました
〝どうして赤鬼は変わってしまったんだ
俺達はお互いに
同じ痛みを分かち合ってきたのに
どうして赤鬼は
それを憎しみに変えてしまったんだ〟
青鬼が悲しみにくれながら
倒れた赤鬼の方を見ました
そして、青鬼が赤鬼の剣を拾い上げた
その時
青鬼は赤鬼の本当の心を知り
驚愕しました
赤鬼が使っていたその剣は
真剣などではなく
真剣の様に作られた
刃のない偽物でした
それでは誰も切ることはできません
青鬼は今にも
息絶えようとする赤鬼に問いました
「これはどういうことだ!」
青鬼の驚く表情とは裏腹に
赤鬼は非常に穏やかな表情で
血を吐きながら
最後の力を振り絞って答えました
「自分が辛いことよりも
同じ痛みを持つ者を
助けられないことの方が悲しい
それが自分の大切な人なら尚更だ」
幼い頃から忌み嫌われてきた2人は
互いにその悲しみを分かち合ってきました
しかし、赤鬼は同時に
自分と同じ苦しみを持つ青鬼を助けれない
自分の弱さに対しても悔しさを抱いていました
家族の様に一緒に育ってきたその
青鬼の涙を
いつもいつも見ていた赤鬼は
ある時気付いたのです
自分が泣くことよりも
大切な人が泣くことの方が
辛いんだということを
そしてそれに対して
何も出来ないことの方が
もっと辛いんだということを
だから赤鬼は強さを求めました
そして自分達を忌み嫌ってきた里の人々に対しても
憎しみを抱きながら
それでも尚、皆が
共存できる方法を探していたのです
もしも、自分達が強くなれば
里の人々も手を出せず
いずれ彼らが手のひらを
返すことがあったとしても
自分達を攻撃してくることはなくなるだろうと
考えていました
白い目で見られることや
避けられることはあっても
それ以上の事はしてこないだろうと考えたのです
それはつまり
青鬼を守ると同時に
里の人々に
過った道を歩ませないようにする為の
赤鬼なりの考えでした
しかし、最後まで
それを知ってもらえることはなく
苦しみや悲しみを分かち合ってきた
青鬼にすら信じてもらうことはできませんでした
赤鬼が言っていた
『強ければ悲しい思いをしなくてもいい
誰にも悲しい思いをさせなくていい』
それが青鬼に向けれた気持ちだったことを
青鬼は今になって気付きました
青鬼は安らかに目を閉じる赤鬼の
本当の心と
自分や里の人達に向けられた気持ちを知り
里中に響く程の
大きな声で泣きました
赤鬼が求めた強さの
本当の意味を知らず
赤鬼が変わってしまったという疑いを消せず
里の人々の言うように乗せられて
苦しみを分かち合ってきた赤鬼を
最後まで信じれなかったのです
〝変わってしまったのは赤鬼ではなく
自分の方だった
赤鬼は最後まで強さを求めることで
自分達を守りたかったのだ
にもかかわらず、自分は
赤鬼を守るつもりで
彼を疑っていたんだ
共に苦しみを分かち合ってきた者を
信じられなかったんだ〟
赤鬼が息絶え
その時初めて
赤鬼の気持ちを知った青鬼は
それから三日三晩、泣き続け
そうして、その後
里がよく見渡せる丘の上に
赤鬼の墓作りました
どんなに忌み嫌われても
どんなに疑われても
赤鬼が見守ってくれることで
赤鬼の気持ちに背を向けないように
そして赤鬼がいつでも
青鬼の強さを見渡せるように
uverworld 哀しみはきっと
昔々、ある山奥に
それはそれは大きな体をしたクマがいました
そのクマは闇の様に真っ黒な毛と
鋭い爪と牙を持ち
誰もが恐れるその姿から
「鬼熊」と呼ばれていました
そして、その鬼熊は
毎日、山奥を歩き回っては
暴れまわり
誰ふり構わず森の動物達捕まえて
無理やり力勝負をさせては
ありったけの力を持って
彼らをねじ伏せていました
まるでこの森で一番強いのは
自分であると言わんばかりに
その行為に皆が恐れ
困り果てた皆は
森の長老に相談しました
長老はその話を聞いて
大きなため息をつくと
皆を落ち着かせ
一人、鬼熊の下を訪れました
「どうしてお前は暴れるのだ」
長老が鬼熊に尋ねると
鬼熊は笑って「面白いからだ」と答えました
その様子を見て
長老はまた、大きなため息をつき
神妙な面持ちで鬼熊に語りかけました
「お前が誰かをねじ伏せて
自分の強さを知る時
お前は同時に知らなければならないことがある
なぜお前は強いのだと思う
それはな、弱いものがいるからじゃよ
弱いものがいてお前は初めて強いと言える
カマキリがアリに勝つ
しかしそのカマキリが猫に負けた時点で
猫の方が強いと言える
しかしその猫が狼に負けたとするならば
その猫もまた弱かったと言える
同じ事じゃよ
お前が強いと感じる時
そこには弱いものが必ずいる
その者の気持ちを知らずして
ただ暴れまわっているだけのお前は
ただの迷惑な暴れん坊に過ぎない
その迷惑な暴れん坊を
誰が強いと認める
本当に強いと皆に認めて欲しければ
弱いものにこそ敬意を払いなさい
今のお前は
そういう弱い者の犠牲の上に
成り立っているのだから」
鬼熊は黙って長老の話を聞いていましたが
話が終わると笑って
森の奥へと消えて行きました
そして、それからも
鬼熊は態度を改めることなく
森で暴れまわり
そしてついに
我慢しきれなくなった森の動物達は
皆で決心をして
鬼熊を退治することにしました
誰もがその鬼熊の力を恐れていましたが
皆で力を合わせれば何とかなる
そう言い聞かせて
作戦を練ることにしました
ところが、その作戦が
実行されようとした頃
鬼熊は森に狩りに来た人間達によって
退治され
森にもようやく平和が訪れるようになりました
森の動物達も喜び
長老も「・・・これで、めでたしめでたし、じゃな」
と言いました
ところが、それを聞いていたフクロウが
木の上から降りてきて
長老に言いました
「めでたしめでたし、だと
あんたは何も分かっていない
あんたの様なやつを頭でっかちというんだ」
長老が落ち着いた様子でフクロウに
その理由を尋ねました
するとフクロウは怒りを
あらわにして答えました
「最近、人間達がこの森で狩りを始めたのは
あんたも知っての通りだ
クマはその人間達から俺達を
守るために闘ったのさ
仲間を狩られた森の動物達を放っておけば
いずれ人間達にその怒りを向けるようになる
しかしどんなに束になってかかっても
弱い動物達が集まったところで
勝負は見えている
かえって悲しみを増やすだけだ
それならばその怒りの矛先をどこかに変えて
彼らを守る必要がある
例えその矛先が自分になったとしてもだ
そして同時に人間達も放ってはおけない
だから人間達が
恐ろしい熊が森にいるということを知れば
狩りも止めるようになる
つまり人間達を懲らしめ
恐怖を与えなくてはいけないということだ
動物達の怒りの矛先を自分に向けさせ
人間達と闘う
それがどういうことかあんたに分かるか
そして、それだけでは終わらない
なぜならば人間達はまたいつか
その恐怖を忘れた頃に狩りを始めるからだ
森の動物達が
自分の身を自分で守れる強さを持ち合わせることで
初めて平和が訪れる
だから誰かが
その嫌われ役の
全てを背負わなくてはならない
それをあいつが背負ったんだ
全部一人で
それを知らずして
あんたは偉そうに自分の正論を述べたんだ
あんたはクマに言ったよな
お前が強いということを自分で理解する時
それは弱いという対象があるからであって
その痛みを知らずして
ただ暴れまわっているだけのお前は
ただの迷惑な暴れん坊に過ぎない、と
俺はその話を木の上から聞いていたんだ
だから、俺にも一言
言わせてくれないか
何もしらないあんたが
偉そうなことを口にする時
あんたは自分の偉そうな正論で
相手の心を傷つけているのさ
あんたが正しいと思っていた理論で
あんたは相手を傷つけていたんだ」
長老はフクロウのその話を聞いて
大きなため息をつくと
ただ一言
「・・・そうか、それはすまん事をしたの」
と言いました
その様子を見ていたフクロウは
怒りがおさまらず
しかし、怒りをどこにぶつけていいか分からず
長老に向かって
「頭でっかちのあんたには失望したよ」と言って
飛び立っていきました
そのフクロウの後ろ姿を見ながら
長老は小さく
「これで本当に、めでたしめでたし、かの・・・」と言って
数週間前の事を思い出していました
その数週間前・・・
丁度、人間達がこの森で狩りを始めた頃
鬼熊は長老の下を訪れ
話を始めました
「じいさん実は頼みたいことがある
じいさんも知っての通り
最近、里の人間が森で動物達を狩り始めたんだ
そしてやつらに狩りを止める様子はない
むしろ楽しんでいるように見える
だから、このままでは
森の動物達が人間に対して激しい憎悪を抱き
人間達は人間達で狩りを続けるだろう
それはつまり、皆にとって
非常にまずいことを意味する
そこでそれを何とかする為に
作戦を考えた
まずは俺が森で暴れ
動物達に悪さを仕掛ける
そうすることでしばらくの間
彼らの注意を俺に引きつけることが出来る
そしてその間
俺は同時に人間達を襲い
あいつらを懲らしめる
そうすれば人間はそこで
動物達の怒りを知るだろう
そして狩りを控えるようになる
しかし、それで止めないのが人間だ
つまり必ず仕返しにくるんだ
俺を退治しに来るだろう
俺は当然、彼らに一人で立ち向かう
そして、勝てはしないだろう
それが意味するところは
じいさんも知っての通りだ
しかし、それで
森の動物達に散々悪さをしていた
俺が人間達によって退治されれば
おそらく森の動物達の
人間に対する怒りを抑えることが出来る
そして人間達も俺を退治したことで
納得して帰って行くだろう
そうすることですべてが
めでたしめでたしだ
だから、じいさん
悪いんだが
頼みたいことがある
森の動物達は恐らく
長老であるじいさんに
相談を持ちかけるだろう
森のクマが暴れていて困ります
ということを言いに来るだろう
じいさんはその話を聞いて
俺に忠告をしに来るが
俺はその忠告を聞かずに
なおも暴れ続ける
そうすることで
さらに森の動物達の注意を
人間から俺に引きつけることが出来る
つまり彼らの憎悪を
人間から俺に移すんだ
その上で、森の動物達に
俺を退治するための作戦をねることを
けしかけてくれないか
彼らは長老のじいさんの言うことを聞かない俺に対して
実力行為にでることを反対しないはずだ
そうすることでおそらく皆がまとまり
森を守る力となる
俺はその間
人間達を抑えよう
どうだい
いい作戦だと思わないか」
鬼熊が話し終えると
長老は鬼熊を見て言いました
「その作戦
理解はできるが納得はできんの
どうしてお前が
そんな役を引き受ける必要がある
別に他のものでもよかろう
それにそんなことをしなくても
この世界は弱肉強食
弱いものはいずれ滅びる運命なのだよ
我々が人間よりも弱いならば
それは滅びる運命なのだよ」
それを聞いて鬼熊は
笑って答えました
「それが弱い者の上に成り立つ強さだと知っていれば
まだ、ましかもしれない
しかし人間達はそれを知りはしないさ
自分達の強さの裏側にある
誰かの弱さを知らないのさ
それに俺は死神じゃないので
どの道、自分達が
滅びる運命だと分かっているなら
他の誰かも道ずれにするよりも
出来る限り、この世界の
悲しみや憎悪を自分一人で引き受けて
滅びていきたいのさ」
長老はそれを聞いて
大きなため息をつきながら
「ただの格好つけじゃな」と言いました
そして鬼熊もそれを聞いて
笑いながら答えました
「そうさ、ただの格好つけだよ
だからこの話を誰にも知られることなく
めでたしめでたしで
終われるよう
格好付けが格好つけのまま終われるよう
俺の頼みをきいてくれないか」
長老の困った顔とは裏腹に
鬼熊の顔は笑っていました
そしてその数週間後
鬼熊は彼の思い描いた通り
人間達によって退治され
人間達は森の怒りを知り狩りを止め
動物達は平和を取り戻しました
そしてこの話は
めでたしめでたし、で終わりました
その後
森の奥深く
誰も知らないところに
鬼熊の墓がたてられ
そこに墓標も立てられました
そして、そこには
長老の文字で
「格好つけの英雄の墓」
と書かれていました
FLOW - Sign
それはそれは大きな体をしたクマがいました
そのクマは闇の様に真っ黒な毛と
鋭い爪と牙を持ち
誰もが恐れるその姿から
「鬼熊」と呼ばれていました
そして、その鬼熊は
毎日、山奥を歩き回っては
暴れまわり
誰ふり構わず森の動物達捕まえて
無理やり力勝負をさせては
ありったけの力を持って
彼らをねじ伏せていました
まるでこの森で一番強いのは
自分であると言わんばかりに
その行為に皆が恐れ
困り果てた皆は
森の長老に相談しました
長老はその話を聞いて
大きなため息をつくと
皆を落ち着かせ
一人、鬼熊の下を訪れました
「どうしてお前は暴れるのだ」
長老が鬼熊に尋ねると
鬼熊は笑って「面白いからだ」と答えました
その様子を見て
長老はまた、大きなため息をつき
神妙な面持ちで鬼熊に語りかけました
「お前が誰かをねじ伏せて
自分の強さを知る時
お前は同時に知らなければならないことがある
なぜお前は強いのだと思う
それはな、弱いものがいるからじゃよ
弱いものがいてお前は初めて強いと言える
カマキリがアリに勝つ
しかしそのカマキリが猫に負けた時点で
猫の方が強いと言える
しかしその猫が狼に負けたとするならば
その猫もまた弱かったと言える
同じ事じゃよ
お前が強いと感じる時
そこには弱いものが必ずいる
その者の気持ちを知らずして
ただ暴れまわっているだけのお前は
ただの迷惑な暴れん坊に過ぎない
その迷惑な暴れん坊を
誰が強いと認める
本当に強いと皆に認めて欲しければ
弱いものにこそ敬意を払いなさい
今のお前は
そういう弱い者の犠牲の上に
成り立っているのだから」
鬼熊は黙って長老の話を聞いていましたが
話が終わると笑って
森の奥へと消えて行きました
そして、それからも
鬼熊は態度を改めることなく
森で暴れまわり
そしてついに
我慢しきれなくなった森の動物達は
皆で決心をして
鬼熊を退治することにしました
誰もがその鬼熊の力を恐れていましたが
皆で力を合わせれば何とかなる
そう言い聞かせて
作戦を練ることにしました
ところが、その作戦が
実行されようとした頃
鬼熊は森に狩りに来た人間達によって
退治され
森にもようやく平和が訪れるようになりました
森の動物達も喜び
長老も「・・・これで、めでたしめでたし、じゃな」
と言いました
ところが、それを聞いていたフクロウが
木の上から降りてきて
長老に言いました
「めでたしめでたし、だと
あんたは何も分かっていない
あんたの様なやつを頭でっかちというんだ」
長老が落ち着いた様子でフクロウに
その理由を尋ねました
するとフクロウは怒りを
あらわにして答えました
「最近、人間達がこの森で狩りを始めたのは
あんたも知っての通りだ
クマはその人間達から俺達を
守るために闘ったのさ
仲間を狩られた森の動物達を放っておけば
いずれ人間達にその怒りを向けるようになる
しかしどんなに束になってかかっても
弱い動物達が集まったところで
勝負は見えている
かえって悲しみを増やすだけだ
それならばその怒りの矛先をどこかに変えて
彼らを守る必要がある
例えその矛先が自分になったとしてもだ
そして同時に人間達も放ってはおけない
だから人間達が
恐ろしい熊が森にいるということを知れば
狩りも止めるようになる
つまり人間達を懲らしめ
恐怖を与えなくてはいけないということだ
動物達の怒りの矛先を自分に向けさせ
人間達と闘う
それがどういうことかあんたに分かるか
そして、それだけでは終わらない
なぜならば人間達はまたいつか
その恐怖を忘れた頃に狩りを始めるからだ
森の動物達が
自分の身を自分で守れる強さを持ち合わせることで
初めて平和が訪れる
だから誰かが
その嫌われ役の
全てを背負わなくてはならない
それをあいつが背負ったんだ
全部一人で
それを知らずして
あんたは偉そうに自分の正論を述べたんだ
あんたはクマに言ったよな
お前が強いということを自分で理解する時
それは弱いという対象があるからであって
その痛みを知らずして
ただ暴れまわっているだけのお前は
ただの迷惑な暴れん坊に過ぎない、と
俺はその話を木の上から聞いていたんだ
だから、俺にも一言
言わせてくれないか
何もしらないあんたが
偉そうなことを口にする時
あんたは自分の偉そうな正論で
相手の心を傷つけているのさ
あんたが正しいと思っていた理論で
あんたは相手を傷つけていたんだ」
長老はフクロウのその話を聞いて
大きなため息をつくと
ただ一言
「・・・そうか、それはすまん事をしたの」
と言いました
その様子を見ていたフクロウは
怒りがおさまらず
しかし、怒りをどこにぶつけていいか分からず
長老に向かって
「頭でっかちのあんたには失望したよ」と言って
飛び立っていきました
そのフクロウの後ろ姿を見ながら
長老は小さく
「これで本当に、めでたしめでたし、かの・・・」と言って
数週間前の事を思い出していました
その数週間前・・・
丁度、人間達がこの森で狩りを始めた頃
鬼熊は長老の下を訪れ
話を始めました
「じいさん実は頼みたいことがある
じいさんも知っての通り
最近、里の人間が森で動物達を狩り始めたんだ
そしてやつらに狩りを止める様子はない
むしろ楽しんでいるように見える
だから、このままでは
森の動物達が人間に対して激しい憎悪を抱き
人間達は人間達で狩りを続けるだろう
それはつまり、皆にとって
非常にまずいことを意味する
そこでそれを何とかする為に
作戦を考えた
まずは俺が森で暴れ
動物達に悪さを仕掛ける
そうすることでしばらくの間
彼らの注意を俺に引きつけることが出来る
そしてその間
俺は同時に人間達を襲い
あいつらを懲らしめる
そうすれば人間はそこで
動物達の怒りを知るだろう
そして狩りを控えるようになる
しかし、それで止めないのが人間だ
つまり必ず仕返しにくるんだ
俺を退治しに来るだろう
俺は当然、彼らに一人で立ち向かう
そして、勝てはしないだろう
それが意味するところは
じいさんも知っての通りだ
しかし、それで
森の動物達に散々悪さをしていた
俺が人間達によって退治されれば
おそらく森の動物達の
人間に対する怒りを抑えることが出来る
そして人間達も俺を退治したことで
納得して帰って行くだろう
そうすることですべてが
めでたしめでたしだ
だから、じいさん
悪いんだが
頼みたいことがある
森の動物達は恐らく
長老であるじいさんに
相談を持ちかけるだろう
森のクマが暴れていて困ります
ということを言いに来るだろう
じいさんはその話を聞いて
俺に忠告をしに来るが
俺はその忠告を聞かずに
なおも暴れ続ける
そうすることで
さらに森の動物達の注意を
人間から俺に引きつけることが出来る
つまり彼らの憎悪を
人間から俺に移すんだ
その上で、森の動物達に
俺を退治するための作戦をねることを
けしかけてくれないか
彼らは長老のじいさんの言うことを聞かない俺に対して
実力行為にでることを反対しないはずだ
そうすることでおそらく皆がまとまり
森を守る力となる
俺はその間
人間達を抑えよう
どうだい
いい作戦だと思わないか」
鬼熊が話し終えると
長老は鬼熊を見て言いました
「その作戦
理解はできるが納得はできんの
どうしてお前が
そんな役を引き受ける必要がある
別に他のものでもよかろう
それにそんなことをしなくても
この世界は弱肉強食
弱いものはいずれ滅びる運命なのだよ
我々が人間よりも弱いならば
それは滅びる運命なのだよ」
それを聞いて鬼熊は
笑って答えました
「それが弱い者の上に成り立つ強さだと知っていれば
まだ、ましかもしれない
しかし人間達はそれを知りはしないさ
自分達の強さの裏側にある
誰かの弱さを知らないのさ
それに俺は死神じゃないので
どの道、自分達が
滅びる運命だと分かっているなら
他の誰かも道ずれにするよりも
出来る限り、この世界の
悲しみや憎悪を自分一人で引き受けて
滅びていきたいのさ」
長老はそれを聞いて
大きなため息をつきながら
「ただの格好つけじゃな」と言いました
そして鬼熊もそれを聞いて
笑いながら答えました
「そうさ、ただの格好つけだよ
だからこの話を誰にも知られることなく
めでたしめでたしで
終われるよう
格好付けが格好つけのまま終われるよう
俺の頼みをきいてくれないか」
長老の困った顔とは裏腹に
鬼熊の顔は笑っていました
そしてその数週間後
鬼熊は彼の思い描いた通り
人間達によって退治され
人間達は森の怒りを知り狩りを止め
動物達は平和を取り戻しました
そしてこの話は
めでたしめでたし、で終わりました
その後
森の奥深く
誰も知らないところに
鬼熊の墓がたてられ
そこに墓標も立てられました
そして、そこには
長老の文字で
「格好つけの英雄の墓」
と書かれていました
FLOW - Sign