赤鬼と青鬼 | 僕が心臓のネジを巻く時

僕が心臓のネジを巻く時

出来れば僕が動かなくなった後でも、この世界が平和であって欲しい。大切な人達が幸せであってほしい。

昔々、山のふもとの人里で

2人の鬼が住んでいました

彼らはそれぞれ

赤鬼と青鬼と呼ばれ

幼い頃から皆に煙たがられ

そして虐められてきました





里に住む皆が鬼はいずれ

災いをもたらすと

誰しもが考えていたからです

大人から子供まで

皆が冷たい目で彼らを見ていました






それでも2人の鬼は

他に行く場所もなく

幼い頃から2人で

理不尽な暴言や暴力に耐えて

暮らしてきました







しかし赤鬼はある時から

それに耐えきれなくなり

青鬼に、2人で強くなろうと持ちかけました




そして、その日から

2人は互いに競い合うように

修業を重ね

木刀や竹刀を使っては

互いに闘い

自分達の身を守る術を磨いて来ました






そうして大きくなった2人でしたが

互いの修業は次第に

厳しさを増していき

お互いを傷つけあうまでになってきました

本来、自分達を守るために

強くなろうと始めた修行で

お互いを傷つけ合うなど間違っている

青鬼はそう思い

修業を止めることを決意しました






しかし、一方で赤鬼は

更なる強さを求めて

修業を止めることを許しませんでした






その頃になると

2人の強さも里の皆に知られており

災いをもたらすどころか

里の守り神として

崇められるになっていました

もう誰も彼らを煙たがったり

白い目で見ることはなかったのです

それにも関わらず

赤鬼は強さを求めることを止めませんでした






どんなに自分が傷ついても

どんなに相手を傷つけても

強くなることを止めようとせず

修業を続けました





そんな赤鬼に青鬼は

次第に疑問を抱き始めました





ある日、青鬼が赤鬼にそれを問うと

赤鬼は神妙な面持ちで青鬼に言いました

「俺達は強くなければならない

 なぜならば

 俺達を守り神と崇めている人々は

 いずれまた、必ず俺達を

 災いをもたらす者として

 見る日が来るかもしれないからだ







 俺達が鬼である以上

 里に災いが起こった時

 それらの原因は全て俺達のせいになる
  
 俺達は生まれた時から

 そういう運命なのさ」




赤鬼のその気持ちは

青鬼にとっても同じものでした

しかし、そうであっても

お互いを傷つけあうほど

闘う必要があるのだろうかという

疑問はぬぐえませんでした









ある時、里の人々は青鬼に言いました

「赤鬼は変わってしまった

 今の彼は強さだけを求めている

 なぜならば、里の皆が彼にした行為に対して

 彼は復讐しようと思っているからに違いない」




そう言って、里の人々も

次第に赤鬼に対して

疑いの目を持つようになりました

それでも青鬼だけは

赤鬼の事を信じていました





そんな青鬼に対して

里の人々は言いました

「それならば彼に

 木刀ではなく

 真剣を使っての勝負を

 持ちかけてみてはどうだろうか

 



 
 彼が本当に

 自分達の強さだけを考えているなら

 そんな危険な修業は受け入れないはずだ




 もし、彼がそれを引き受け

 妙な態度を見せれば

 その時はその真剣を使って

 彼を切るしかない


 


 そうしなければ

 彼はいずれ修行という名の下

 君を殺すだろう

 なぜだか分かるかい

 それはこの里で自分の他に強い者は

 青鬼の君しかいないからだ





 青鬼の君を倒してしまえば

 この里はどうにでもなる

 そう考えているのではないだろうか」






その人々の言葉を聞き

青鬼は疑いの気持ちを募らせ

そして、2人の修業の厳しさと

人々の疑問は

同じ様に

増幅していき

青鬼自身も、やがて

赤鬼に対する疑いの芽を

摘むことが出来なくなりつつありました








そして、青鬼はそれを打ち消すように

赤鬼に真剣での勝負を持ちかけました

しかし、当然の如く

そんな危険な勝負を

断るであろうと思っていた赤鬼は

青鬼の願いとは裏腹に

あっさりとそれを受け入れました








「どうして、そうまでして

 強くなりたい」

疑いの気持ちを募らせた青鬼が赤鬼に問うと

赤鬼は顔色一つ変えず青鬼に言いました

「強ければ悲しい思いをしなくてもいい

 誰にも悲しい思いをさせなくていい

 だからだ





 俺は里の人間達が嫌いだ

 あいつらは必ず俺達を裏切る

 簡単に手のひらを返す日が来るだろう

 その時に圧倒的な強ささえあれば

 俺達は自分の身を守ることが出来る」







それを聞いた青鬼は

やはり赤鬼が里の人々に

憎しみの心を抱いていることを知り

赤鬼に対する疑問を

確信へと変えていきました






そうして2人は

里の人々が見守る中

互いに真剣を持って

闘いを始めました







その闘いは非常に長く

そして険しく

三日三晩、続いた後

ようやく、青鬼の剣が

赤鬼の心臓を貫きました







里の人々はそれを見て

ほっと胸を撫で下ろし

青鬼は倒れた赤鬼を見て

嘆き悲しみました






〝どうして赤鬼は変わってしまったんだ

 俺達はお互いに

 同じ痛みを分かち合ってきたのに

 どうして赤鬼は

 それを憎しみに変えてしまったんだ〟








青鬼が悲しみにくれながら

倒れた赤鬼の方を見ました

そして、青鬼が赤鬼の剣を拾い上げた

その時

青鬼は赤鬼の本当の心を知り

驚愕しました








赤鬼が使っていたその剣は

真剣などではなく

真剣の様に作られた

刃のない偽物でした

それでは誰も切ることはできません







青鬼は今にも

息絶えようとする赤鬼に問いました

「これはどういうことだ!」






青鬼の驚く表情とは裏腹に

赤鬼は非常に穏やかな表情で

血を吐きながら

最後の力を振り絞って答えました

「自分が辛いことよりも

 同じ痛みを持つ者を

 助けられないことの方が悲しい

 それが自分の大切な人なら尚更だ」









幼い頃から忌み嫌われてきた2人は

互いにその悲しみを分かち合ってきました

しかし、赤鬼は同時に

自分と同じ苦しみを持つ青鬼を助けれない

自分の弱さに対しても悔しさを抱いていました

家族の様に一緒に育ってきたその

青鬼の涙を

いつもいつも見ていた赤鬼は

ある時気付いたのです







自分が泣くことよりも

大切な人が泣くことの方が

辛いんだということを





そしてそれに対して

何も出来ないことの方が

もっと辛いんだということを







だから赤鬼は強さを求めました

そして自分達を忌み嫌ってきた里の人々に対しても

憎しみを抱きながら

それでも尚、皆が

共存できる方法を探していたのです









もしも、自分達が強くなれば

里の人々も手を出せず

いずれ彼らが手のひらを

返すことがあったとしても

自分達を攻撃してくることはなくなるだろうと

考えていました

白い目で見られることや

避けられることはあっても

それ以上の事はしてこないだろうと考えたのです









それはつまり

青鬼を守ると同時に

里の人々に

過った道を歩ませないようにする為の

赤鬼なりの考えでした







しかし、最後まで

それを知ってもらえることはなく

苦しみや悲しみを分かち合ってきた

青鬼にすら信じてもらうことはできませんでした








赤鬼が言っていた

『強ければ悲しい思いをしなくてもいい

 誰にも悲しい思いをさせなくていい』

それが青鬼に向けれた気持ちだったことを

青鬼は今になって気付きました








青鬼は安らかに目を閉じる赤鬼の

本当の心と

自分や里の人達に向けられた気持ちを知り

里中に響く程の

大きな声で泣きました









赤鬼が求めた強さの

本当の意味を知らず

赤鬼が変わってしまったという疑いを消せず

里の人々の言うように乗せられて

苦しみを分かち合ってきた赤鬼を

最後まで信じれなかったのです










〝変わってしまったのは赤鬼ではなく

 自分の方だった

 赤鬼は最後まで強さを求めることで

 自分達を守りたかったのだ

 にもかかわらず、自分は

 赤鬼を守るつもりで

 彼を疑っていたんだ

 共に苦しみを分かち合ってきた者を
 
 信じられなかったんだ〟








赤鬼が息絶え

その時初めて

赤鬼の気持ちを知った青鬼は

それから三日三晩、泣き続け

そうして、その後

里がよく見渡せる丘の上に

赤鬼の墓作りました








どんなに忌み嫌われても

どんなに疑われても

赤鬼が見守ってくれることで

赤鬼の気持ちに背を向けないように

そして赤鬼がいつでも

青鬼の強さを見渡せるように



uverworld 哀しみはきっと