ゆ火曜日の午後、私が1人でいる時に、川畑梅千代さんが薬局にやってきた。今日は、処方箋を持ってきたわけではない様子だ。

「野ばらさん、ちょっと教えて欲しいんだけど」

と、少し怒っているような口調だ。いつもは、はっきりと話すけれど、穏やかなおばあちゃんだ。

「はい。どうしたんですか?」

と聞くと、

「この薬、凄く強い薬なの?」

と心配そうに見せたのは、保湿のためのローションだった。

「えっ!そんな事はないですよ。赤ちゃんでも使えるお薬です。カサカサしたりするのを防いだりしますよ」

と言った。

すると、ちょっと安心したのか、ゆっくりと、でも少し怒った感じで話し始めた。

以前、近くの病院の皮膚科で頬の荒れを診てもらった時に、その医師から

「これは、ここでは治らない。形成外科に行きなさい」

と言われたらしい。ところが、梅千代さんは、形成外科がどこにあるのかわからないので、別の皮膚科に行ったらしい。そこで、このローションを処方されたという事だった。そして、それで改善し、続けていたが、今回、市立病院に入院することになり、通っている皮膚科に行く時間がないので、この近くの病院の皮膚科でまた診察を受けた。そこで、以前診てもらった医師に入院しなくてはならない事と、この薬で良くなったからと説明して、このローションをもらえませんかとお願いしたというのだ。ところが、この医師は、

「そこの先生は一体、どんな病名を付けてそんな薬を出してるんだ!形成外科に行かないと治らないんだ!そんな脱法行為は許されない!」

と激怒したというのだ。それで、この薬はそんなに強く悪い薬なのかと心配になったらしい。

「でもね。せっかく良くなってるのに、続けて塗りたいのよ。どうしたものかしら」と梅千代さん。

「入院しなくちゃいけないんだものねぇ。別の先生に、事情を話して相談してみたら?」

と私は話した。

そうねと言って梅千代さんは、薬局を出て行った。しばらくして、薬局の電話が鳴った。

「はい、野ばら薬局の野ばらです」

と言うと電話の向こうから、強い調子で

「梅千代さんに悪知恵をなんで言うのか?脱法行為の手助けをなんでするのか?どういうつもりなんだ!…etc」

と近くの病院の皮膚科の先生の怒った声が聞こえてきた。

私は、驚いたものの「すみません」と謝った。

しばらくして、梅千代さんが処方箋を持ってやって来た。

「野ばらさん、ごめんね。ごめんね。本当にごめんなさい。私の前で電話をかけてやる!と言って、やめてくださいって何度もお願いしたのに」

「梅千代さん、良いですよ。気にしなくても良いですよ。大丈夫ですよ。でも、お薬、もらえたんですね?」

と言うと、梅千代さんは少し嫌な顔をした。処方箋を見ると、同じ製品ではあるがローションではなく、軟膏であった。

まあ、なんて意地悪な!

梅千代さんは、がっかりした様子で帰って行った。数日後、その皮膚科と同じ病院の整形外科にかかった梅千代さんが処方箋を持って来た。そして、勝ち誇ったように言った。

「腹が立っておさまらなかったからね、整形の先生に言ったのよ!そしたら、整形の先生がね。皮膚科の先生には悪いけど、僕が出してあげようって」