今では毎週のようにチャリンコで丹沢に通い、山歩きを楽しむアウトドア人間になっているが12年前は完全にインドア派で暇さえあれば本を読んでいた。
主に時代小説や推理小説を好んだ。
欲求に懐がついて行けず、もっぱらBookOFFで調達した。その中に平さんの”グッドラックららばい”もあった。
平さんを知っていた訳ではなく、白色基調に鮮やかな黄緑色を使った本の装丁が気に入ったので読もうと思ったのだ。
ページは多いし、1ページの文字も多い。それでもすんなり読めた。
面白くて、どうしてこの作家は知られていないんだろう?と当時は思ったものである。
あれから12年、ブログに本の紹介を載せるなら、平さんの”グッドラックららばい”は入れないわけにはいかない。
ただ、これ一冊で良いのだろうか?作者については全く知らないまま現在に至っている。
もしかしたら大人気作家になっているかもしれない。
本を紹介する前に、作家”平安寿子”について調べてみることにしたのです。
今回は2部構成です。
第1部:小説家、平安寿子(たいら あすこ)の調査報告
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■プロフィール
1953(昭和28)年3月9日、広島県広島市生まれ。日本の作家。本名は武藤多恵子。
広島女学院高等学校卒業。広告代理店、映画館をへてフリーライターに。
アン・タイラーに触発されて小説を書き始める。筆名は "アン・タイラーのような"(as Anne Tyler)から。
1999年『素晴らしい一日』でオール讀物新人賞を受賞。
この中に収められている短編「アドリブ・ナイト」が2008年、韓国で映画化された(素晴らしい一日)。日本公開は2011年4月。
■著書(Wiki参照)
作者年齢
↓ 主人公の年齢(想定読者年齢層)
↓ ↓ 主役性別
↓ ↓ ↓ ↓出版日
48 30 女 2001 素晴らしい一日 (文藝春秋)
48 2001 パートタイム・パートナー (光文社)
49 35 家 2002.07 グッドラックららばい (講談社)
49 2002.11 明日、月の上で (徳間書店)
51 40 女 2004.11 なんにもうまくいかないわ (徳間書店) (40代シングルの本音と毒舌)
51 2005.01 もっと、わたしを (幻冬舎)
52 2005.02 愛の保存法 (光文社)
52 30 女 2005.05 くうねるところすむところ (文藝春秋) (工務店に飛び込んだ30女のお話)
52 2005.10 Bランクの恋人 (実業之日本社)
53 2006.01 センチメンタル・サバイバル (マガジンハウス)
53 2006.03 恋はさじ加減 (新潮社)
53 2006.07 あなたにもできる悪いこと (講談社)
54 2007.02 あなたがパラダイス (朝日新聞社
54 2007.12 風に顔をあげて (角川書店)
55 2008.01 セ・シ・ボン (筑摩書房)
55 2008.03 こっちへお入り (祥伝社)
55 26-35女 2008.10 恋愛嫌い (集英社) (恋愛が苦手な3人の女性(26,29,35)の本音と毒舌)
56 2009.01 幸せになっちゃ、おしまい (マガジンハウス) (エッセイ)『Hanako』2007年3月~2008年5月連載を加筆、修正。
56 4? 女 2009.03 さよならの扉 (中央公論新社) (40代後半の主婦。夫にガン告知、突然現れた愛人との奇妙な関係)
56 2009.10 ぬるい男と浮いてる女 (文藝春秋)
57 57 両 2010.04 おじさんとおばさん (朝日新聞出版) (同窓会絡み男女6人)
57 54 両 2010.10 人生の使い方 (NHK出版) (定年後の備え)
58 43 主 2011.05 しょうがない人 (中央公論新社) (自分だけはしょうがなくないと思ってる、しょうがない人たち)
58 2011.10 コーヒーもう一杯 (新潮社)
60 2013.02 心配しないで、モンスター (幻冬舎)
60 女 2013.07 こんなわたしで、ごめんなさい(実業之日本社)(婚活話)
61 2014.03 オバさんになっても抱きしめたい(祥伝社)
61 2014.12 レッツゴー・ばーさん! (筑摩書房)
62 30 女 2015.02 幸せ嫌い (集英社)
62 49 男 2015.12 言い訳だらけの人生 (光文社)
■インタビュー
(WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第38回:平安寿子さん)より一部引用する。
●(アン・タイラーの)どこがそれほどまでに面白かったんでしょう?
平:アメリカのユーモアものの特質って、面白いことは面白いんだけれど、辛らつで、時にそれが上から物を言っているようでむかつくことがあるんです。
でもアン・タイラーの小説は、ユーモアはあるのに辛らつなところがない。
すっとぼけていて、落語的なんです。ごく普通の人々の、人間関係のズレを描いてコメディになっている。
...ああ、私も書くなら、こういうものを書きたい、と強く思ったんです。
●ペンネームも彼女からとっているんですよね。
平:アン・タイラーが最終目標ですから。初心を忘れないように、という決意表明と、お守りのようなつもりです。
●人間関係の妙味を描くのに、これまでの様々な経験も役立っているのでは。
平: 自分はなぜ、ひとところに落ち着かずいろんな仕事をしてきたのだろう、と今考えてみると、ああ、私はいろんな人のことが知りたかったんだ、と思うんです。
...ごく普通の人たちの面白さを書きたい、という気持ちは強いですね。
■分析
デビューしたのは遅い(40代後半)が、その後はコンスタントに作品を発表しており、一年に3冊は書いている。
デビューから7年(50歳半ば)までは、自身よりちょっと若い世代の上昇志向(恋愛とか、自己顕示とか)を題材に小説を書いている。
50代半ば以降は、中年から同年代の男女の話が多くなり、老いを扱ったものも書くようになっている。
作品の主人公は作者年齢(発表当時)から8~10歳若いくらいの設定が多い。
作者と同世代の同性が遭遇するであろうと思われる問題を扱った小説がよく読まれている。
単純なハッピィエンドで終わる恋愛話や、ただ落ち込んで立ち上がれない悲劇は書かない作家である。
対象となる人物には必ずユーモアを含んで救いのある終わり方の話を書く。
著作は多いのだが、映像化されたものは、韓国で映画化された一作のみというのが不思議な気がします。
あまりTV受けは良くない理由は何なんでしょうね?。
映像化すると生々し(現実的)すぎて面白味がないからでしょうか、それともキャラの濃い変わった主人公が多いので、手を上げる俳優がいないのか。
(池上彰風=かで終わる、言いっ放し)
私が思うには、登場人物にはいろんな面があると言いたいために、説明的なエピソードがちょっと多いと感じる。
細かい説明の理解に労力を強いられてしまって、読み手が想像する余白があまりない。
もっとシンプルな方が想像する余地があって面白いと思うのだが。
筆力があるあまり、書き過ぎて損している気がします。映像化しようとすると面倒くさいです。
■改名
これまで”たいら・あずこ”だと思っていたけど、今回調べていると、漢字は同じなのに”たいら・あすこ”
になっている。
(えっ!何で?)( ̄□ ̄;)
”グッドラックららばい”の装丁画像を見比べる。(-_-;)
私が持っている2002年の第1刷では”TAIRA AZUKO”、裏表紙のプロフィールも”たいらあずこ”です。


ところが、現在発売されている文庫版(講談社文庫)の表紙画像を見ると”TAIRA ASUKO”(たいらあすこ)に見える。
いつから”あずこ”が”あすこ”になったんでしょうね?
”Z”と”S”、”ず”と”す”って目が悪い人には見分けがつきませんぞ。
(まっいいかぁ)(⌒O⌒)
ちなみ、パソコンで入力する時は”あんじゅこ”と打って変換する。
平安寿(へいあんことぶき)とも読めるのでおめでたい名前である。
決して”へいあん・としこ”ではありません。
第2部:本の感想
お勧めの名作vol.6 『グッドラックららばい』 平安寿子
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平作品は3つ取り上げます、今回は1つ目で、次回残りの2つ。
●本の情報
タイトル:グッドラックららばい
著者:平安寿子(たいらあずこ)
単行本:408ページ、出版社: 講談社 (2002/7/25)
文庫 :576ページ、出版社: 講談社文庫 (2005/6/15)
●表表紙
↓単行本(第1刷)・・・あずこ

↓文庫版(第1刷)・・・あずこ

●目次
第一章 新しい日々 1983年
第二章 結果オーライ 1985年
第三章 ファイターのスピリット 1993年
第四章 イン・マイ・ライフ 1983~1993年
第五章 プライドのサバイバル 1998年
第六章 どうぞ勝手に、グッドラック 2003年
●内容紹介
姉積子(つみこ)の高校卒業式の日に、母が家出した。
残された家族の個性的な20年と、無事に?帰ってきた母との再会をユーモラスに描いた新感覚の家族物語。
「この作品が私の代表作になる予感がします」と作者(平安寿子)が語った力作です。
けちなモラルや常識なんて笑い飛ばす。
良く見ればどこにでもいる父・母・姉・妹の家族物語。
プチ家出から何年も戻れない母、
いいじゃないか、と言う“文鎮”と呼ばれる父、
ダメ男に貢いで飄々と生きる姉、
上昇志向を実現しようと邁進する妹。
4人が見つけた「新しい人生!」
他人に迷惑は掛けていない、ただ「自分の気持ち」に素直に生きるタフな4人がここにいる。
あなたは誰に似ていますか?
●主要キャスト(片岡家)
鷹子・・・母。家出して20年放浪してしまう。
信也・・・父。貯金が趣味。
積子(つみこ)・・・姉。1965年生まれ。
立子(りつこ)・・・妹。1968年生まれ。中心的な語り部。
佐代子・・・伯母。二男三女5人兄弟の4番目、三歳下の末っ子が父信也。
綺羅・・・立子の娘。
寺田佳江・・・中高年の結婚相談業から新規事業を目論む女性企業家。(信也に絡む)
笹森美樹・・・人材派遣会社経営者。(立子に絡む)
●感想
「この本は面白かったから残してあったんだけど、どんな本だったか忘れちゃった」
という事で再読してみた。
「この一家は何なんだ、メンツのキャラが濃すぎる、全員勝手すぎてこれで家族と言えるのかぁ」
と、読み始めでは思った。
しかし、読んでいくうちに、じわりじわりとくる。
「なんか違うな」
と思い直して、考えた。
人間の個性というものは様々な欲の集まりで出来たベクトル(方向性を持つ力)ではないか?
金欲、性欲、自己顕示欲、支配欲、食欲など、いろんな欲の合成じゃないのかと。
それぞれの欲強度が違うため、同じものはない。家族と言えどもバラバラが基本。
片岡家の面々は「自分の気持ち」に素直に生きるあまり他よりちょっとだけ欲の強さが目立つだけである。
父親の節約欲、積子の性欲、立子の目立ちたい欲...あれっ?
一番破天荒な人に見えた母の欲が分からないぞ。
”欲”が自らの中から湧き上がるものだとすると、自分を取り巻く外側で決まるものに合わせてしまうこともある。
”かん=感、観”とよばれるもので、正義感、責任感、劣等感、道徳観、恋愛観、人生観などがある。
”欲”と”かん”の合成を”個性”と考えよう。
どちらも生まれた時にはなくて、その後の育った環境で違いが生まれる。
母には欲より強い”使命感”が当てはまるのだろうか。
成行き任せに見えるけれど、自分を必要としてくれる何かの為に生きてみるのも良いんじゃない?
子供はもう自分で何とかやって行けるまでに育ってしまったんだし。
放浪に疲れたら帰ります「家はそのためにあるのだから」。
そう考えれば母の行動も理解できる。
母はのんびり屋のように見えて、案外しっかり者に設定されている。
旅芸人一座でのエピソードでは、母の男女間の行為の話が出てくるが、淡々と書かれている。
なんと30代で文鎮に内緒で既に不倫していたことになっていた。
(やることはちゃんとやってるじゃん)
(旅芸人だからね、色恋話がないと嘘くさいもんね)
堅物と思われた父も、サクラ役で随分と良い思いをしている。
定年後には欝になっており、貯金だけが趣味のつまらない男ではないと強調されている。
片岡家は、自分のことは自分で何とかしてしまうのが決まりのようだ。
メソメソする奴も甘ったれるガキもいない、落ち込んでも直ぐにV字復活する大人の集まりである。
大人の集まりならバラバラに見えた方が正しい家族のような気がします。
平凡でも人生色々ありますよ、健康であれば何とかなる。
病気が一番つらい。
片岡家に病気で苦しむ者は出てこない、それだけでも十分幸せと思える。
この本は登場人物や語り部に感情移入して楽しむ本ではない。
変わった一家の20年を理解しようと思っても無理だろう。
動物園の動物を見る様に眺めて楽しむものと思う。
たくましい一家を見ていると、こちらも元気になってくる。
共感が得られる保証はないけれど、家族についてお悩みの方にお勧めする。
自分らしく一番やり易い方法が良いのですが、”家族”という何だか良く分からないイメージにこだわったり、家族の誰かを当てに(依存)してると、当てが外れた時不安ですよ。
昔の想い出の再現を夢見ても同じことを家族も思うかどうかは別だ。
うれしくても悲しくても陽は暮れるし、新しい朝は来る。
子供は日々成長し違う人格に変わるのだ。自分が変わったように。
「ふざけるな、現実はこんな甘いもんじゃない」
とおしかりを受けるかもしれませんけどね。
■別れの子守歌/美輪明宏
当てずっぽうですが、”グッドラック”って別れる時に使いますよね。
とすると、”グッドラックららばい”=”別れの子守歌”かなって考えた。
平さんの本のタイトルって、歌のタイトルに関係してる気がしたので探したら、ありましたよ。
歌詞って勝手に使っちゃいけないんで一部だけ載せると、こんな歌詞だった。
”子供のような 君の我がまま
別れたいなら別れてあげよう
もしも君が傷ついた時
帰ってくるんなら 帰っておいで
また子守唄 唄ってあげよう”
1975年リリースです。平さん知らない訳ないね。
ではでは(⌒_⌒)v
