「歩三兵(ふさんびょう)」の駒落ちについて掲載されている棋書は

2冊しか知らない。

1)大山康晴十五世名人著「定本大山の駒落ち」1979年

2)花田長太郎八段著「將棋の急所(駒落篇)」1937年

である。

 

 

花田長太郎八段の棋書に取り上げられているということは

昭和12年以前に存在していたようだ。

「おまいなんて歩3枚でひねってやる」と

村で無敵レベルの田舎初段のヘボ天狗がマウントを取り、

優越感に浸る為に考案した特殊ルールの駒落ちと推測される。

江戸時代にも「歩三兵」という言葉は存在していた模様だが

「歩三兵」の特殊ルールの駒落ちの事では無かった模様で

いつ考案されたのかは分からない。

 

 

「君なんか歩三歩で良いや」というような会話が

なされていたようだ。

不思議な駒落ちである。

 

 

裸玉の玉のみで下手を負かせる自信があるなら

「おまいみたいなヘボは19枚落ちで十分だ!」

と凄めば良いのだ。

羽生さんも19枚落ちで松村邦洋さんを負かしたみたいですし。

ところが玉1枚では自信が無いので

 

 

歩を持ち駒に3枚必要という特殊ルールなのである。

更にそれだけで勝つのは無理ゲーらしく、

「上手は二歩も三歩も有り」と「禁じ手」を認めよというのである。

駒の動かし方を知ってるだけの初心者に

将棋を優しく教える為の駒落ちでは無い。

いびって楽しむだけの余興である。

 

 

駒を落とした側がもちろん先手で、初手は△86歩らしい。

 

 

林葉直子さんも「歩三歩」を内村さんと指している。

しかし、将棋のルールがあやふやな内村さんが

禁じ手の「二歩」をご存じのはずもあるまいから

「歩三歩」の特殊ルール、上手のみは

「二歩」、「三歩」ありというのを説明せず、

上手は持ち駒に3歩のみ、ということで

プレイしたものと思われる。

内村さんの指し手はどこまでが受け狙いなのかが

読めないのが残念だ。

だが、初心者らしい指し手であるようには思う。

 

 

「大道将棋」も流行っていた他に娯楽の少なかった頃であろう。

男子は皆、ルール通りに駒は動かせる棋力はあったものと

思われる。

▲同歩と取ると△87歩と打たれて部分的には歩と角の交換と

なり下手が駒損になる。

角や飛車を取られたらこの世の終わりみたいに

思っている棋力の人間なら下手失敗図と読みを打ち切って

もらえるに違いない。

動画の内村さんもここまでは読めたようだ。

 

 

ということで居玉原始棒銀しか指せない縁台ヘボ将棋レベル

なら初手△86歩に▲同歩と指さずに▲78金と上がる。

 

 

 

以下△87歩成▲同金△86歩と進む。

▲76金とかわすと△87歩成と角の頭に「と金」を

作られてしまうので

 

▲同金の1手に△85歩。

ここでも▲76金とかわしても

▲85同歩と取っても

△87歩と打たれて角と歩の交換になってしまう。

 

 

そこで▲87金と引くのだが、ここで二歩有りの

特殊ルールが生きて、△86歩と打たれて金と歩の

交換の下手駒損が決定する仕掛けである。

で、こうなっては下手は『いつまでも

「歩三歩」の手合いを卒業出来ない』と解説されている。

 

 

ということで、大山さんの本の解説に移る。

▲78金と上がって負かされた下手は

 

 

今度は▲78銀と上がる。

 

 

△87歩成▲同銀△86歩

 

 

▲78銀△87歩の時に

 

 

今度は▲79角と引けるのだ。

だがここまで上手は見越して「三歩」OKの特殊ルールに

しているのだ。

ここまで読める程度の棋力の人間が「歩三歩」の

趣味の悪いルールを考案したということになる。

上手は△88歩と打って来る。

 

下手は▲56歩と突いて

 

△89歩成と桂馬を取られるが

 

 

▲24角と王手の先手で角を逃げて

 

 

△52玉と逃げる手に対して▲89銀と「と金」を除去する。

上手は△57桂と金の両取りを打ちたいが▲同角と

タダで取られてしまうので

 

△75桂と攻めの継続を図って来る。

 

 

▲78金と66地点を受ける手に

 

 

上手は△88歩成と成り捨て

 

 

▲同銀に△87歩成と攻めを継続して来る。

 

 

以下、▲同銀△同桂成▲同金で上手は歩切れにもなり

上手切れ筋で「歩三歩」の手合いは卒業ですと。

 

 

 

 

花田長太郎八段は違う勝ち方を解説されている。

 

 

▲78金△87歩成▲同金△86歩▲同金△85歩に

 

 

▲同金と取ってしまって

△87歩と打たせて

 

▲75金と寄って

 

 

△88歩成に▲同飛で下手良しですと。

上手は歩切れですし、角1枚もらっても指しようが無いです。

この局面が下手良しと理解出来、ここからしっかりと

上手玉を寄せ切れたら「歩三歩」の手合いは卒業でしょう。

 

 

花田八段の対策その2。

初手△86歩に▲同歩と取ってしまって

△87歩と打たせて

 

 

 

▲78金と上がって角を取ってくるよう催促して

 

 

△88歩成▲同銀に

 

 

△98歩と香車の頭を叩いてきて

 

 

▲同香に△65角と打ってくるのですと。

 

 

以下、▲87銀△47角成▲48銀と馬を追って

 

 

△46馬に▲38金で上手切れ筋で下手良しですと。

 

 

戻ってこの局面から△88歩成には

 

 

△98歩~△65角の狙いを消して▲同金の方が分かり易いです。

 

 

 

初手から△86歩に▲76歩と角を逃がす勝ち方もあるようです。

 

 

ただ△87歩成、▲33角成△52玉と進んで

「と金」は作られるので面倒な気がします。

 

 

こういうお父さんタイプが「歩三歩」の駒落ちは

考案された気がしてなりません。