
一昨年の暮に、千葉の館山に向かう道中で、偶然見つけたレトロ駅である。
本当に宝物を見つけた気分だった。
そのときは、時間がなく、足早にそこをあとにしたが、今回は1時間、そこでゆっくりと時を過ごした。
「関東の駅百選」に選ばれているだけあって、その様相は素晴しいものがある。
数年前に修繕されたというが、当時の面影をしっかりと残した優れものの建物だ。

ホームに置かれた「ビタ明治牛乳」のベンチに座り、景色を眺める。
初夏を感じさせるさわやかな風を浴びながら、遠くまで広がる緑に覆われた田園風景は、至福のときを僕に与えてくれた。
“紅葉の季節も素晴しいんだろうな”と、同乗してきたベーシストの佐野君に告げる。
彼もまたこういった郷愁ものが大好きな人間だから、僕の言葉に大きくうなずいた。
僕はホームから線路に降り、反対側に今も建つ、すっかり朽ちてしまった発電所跡の建物のそばまで行ってみた。近くには当時を物語る記念碑があって、そこには大正14年に発電所と共にこの駅が設置されたことが書かれていた。
ホームのトイレは、いかにも便所といった感じで、これがまた実に良い。
大きい方は汲み取り式なのである。昔はそれがあたりまえだったのだ。
とにかく、いいようのない郷愁感という感慨に浸りっぱなしのひとときだった。