『10万年の世界経済史』
カルフォルニア大学、デービス校の経済学教授グレゴリー・クラーク著、2009年初版。
これも全部を再録するわけにはいかないので、最初の印象から大きく評価が変わったことだけを書きてみたい。この本もToddの『新ヨーロッパ大全』にすごく似ている。それは最初に猛烈な反発を感じたから。しかしその読者の思いを予感するように冒頭彼は以下のように書く。
『ある考え方が誤っていたとしても、その考えが何らかの裏付けがある限り、ほとんど無害である。何故なら、その間違いを証明するにあたって、誰もが有益な喜びを得るからだ。そして、この証明が成し遂げられれば、謝りへの道が一つ塞がれると同時に、しばしば真実への道が開ける』 まさにその通りだ。
さらに10万年という驚くほど長い、人類の経済の営みを十分な史料で分析するのは、大変な根気が必要。例えば1つ古代イタリアの奴隷の平均寿命を推定する方法を紹介する。ここで史料が残っているであろう「上流階級」ではなく、「奴隷」という点に注目したい。
古代イタリア(AD223年)の市会議員は25歳以上でなり、かつ終身制だったようだ。そこから平均余命を33年とする。ここまでは普通だ。さらにその遺言書に書かれている解放奴隷にどれだけの終身年金を渡すかによる数字から(遺産からその年金が支払われる期間の目安が書かれているという)奴隷の平均余命は28年だとする。
注目するのは、これらの数字の正確さではない。こうした仮説が地道な史料の解析から得られたものだということと、それを使い別の研究者が彼の結論を否定することも可能な道を示したということ。
また、著者は正直に経済学が自然科学に比べ劣っていることを白状する点も率直でいい。
そして今。私は彼の本を最初の反発にもかかわらず、明日で消え去る昔のblogから特に「再録」に選んだというわけ。