<意外な内容の本>
土曜日の昼下がり慌てて地元の図書館に行き、本の再度借り出し手続きを行う。慌てたのはこのところのコロナ時間で閉館が五時だから。土日祭日も五時までというのはちょっと困ると感じている。もとより現在、図書館では貸し出し業務しかやっていない。本を机で読むことも、部屋やロビーを貸し出すこともコロナ故に中止されている。その唯一行われている本の貸し出し業務も五時までというのは公共財の有効利用という意味で多少疑問を感じる。普通の勤め人にとり今、図書館の利用は難しい。
それはともかく、読み残した2冊の本、『脱・私有財産の世紀』と『肉食の社会史』。前者はようやく2/3位を読み終わった段階で、これを読むのはかなり頭を使うので読み終わるのは後、1ヶ月くらいかかるのではないかと予想する。後者はその間、気分転換に読める本として選択した本だが、比較的簡単に読めそうな本で、読み終わったあとの予備としてその手の本を数冊、入手しておきたいと考え本棚の間を探し廻った。
このところ、NHK BSのドキュメンタリー番組をよく観る。その中でも特に気に入っているのが、40年前に放送された『シルクロード』の再放送。80年代にもリアルタイムで観たと思うが今見ても興味深い。内容もさることながらその間の中国の変遷も感じられるところが特にいい。
そんなこともあり、たまたま手にしたのが『新シルクロード5』と題名の本。これは2005年のNHKの『新シルクロード』の一連の書籍化だが、たまたま手に取った本が「5」の「カシュガル編」だった。「5」は編者自身がシリーズの中できわめてユニークな内容をもつとしている。そしてその内容とは「被征服者として900年を生き抜いた民族の本質に迫ろうとしたもの。
多分、TV番組には出てこなかっただろう取材の「舞台裏」が語られている。何故、取材ができなかったのか、常に外事部を同伴しての取材ではあるが、そうだとしても自ずから浮かび上がる真実の欠片。いやはや、驚いた。表面的な体裁とは異なり意外な内容を含む本。それは立ち読みで数ページ目を通しただけで分かるような内容だった。
斜面の草刈りが行われたのは、大雨シーズンが終わったからだろう。普段は背丈ほどの雑草でわからないが丸坊主になるとかなり急な斜面であることがわかる。
特に最後の部分がほぼ垂直な崖の部分は危険。そんな崖の直下に老人ホームがあるが、大丈夫か?
『脱・私有財産の世紀』15
第三章では移民について語る。国同士の格差は1820年代には7%だったが1980年代には70%になり、その後、中国とインドの経済成長により50%まで縮小した。p204 だから19世紀に移住しても大半の人にとってはよいことは余りなかった。現在では国間の格差があることから世界の大半の貧民国に住む人にとっては幸福と繁栄を実現する主要なルートである。p205 例えばネパールやハイチの平均年収は1,000ドル以下だが、米国で働けば1万5千ドル(下では1万4千ドルとする)で非常に大きな恩恵をうける。p227
冒頭にハイチ人のデルフィーンのフランスへの移住の物語が綴られる。これには意味がある。ハイチとフランスには言葉の壁がない=旧植民地、それ故、デルフィーンは年収が何万ドルも上昇する。これはメキシコ人のアメリカへの移住が4,000ドルから1万4,000ドルになったものより10倍の上昇幅だとか。p212 現在のアメリカとヨーロッパの場合の移民が齎す経済効果の違いが語られる。
アメリカは所得に対する累進課税性が限られているので高技能=高所得の移民から得られる経済効果は限られる。しかも得られる利益は主に大企業=Googleなど。一方、大多数の低技能の移民は税金をほとんど払わず、さらに稼ぎの多くを母国に送金する。また彼らは余り公共サービスを受けることができない。
一方、英国を除くヨーロッパでは累進性が高く移民の成功は国民全体に行き渡る。p215~216 但し、高技能の移民は米国を選択する。低技能の移民の流入は比較的最近の出来事だと著者は述べる。p216 ヨーロッパでは公共サービスが行き届、低技能移民は公共財政に大きな負担となっている。p217 それが、移民に対する反感を引き起こす理由の1つにもなっている。
そこで著者らは新たな仕組み、個人間ビザ制度=VIPを提唱する。これは企業=雇用主ではなく、一般人が移民の身元引き受けをできる制度で現行のH-1Bビザに代わるもの。但し、受け入れは一人に限る。p223 有効期限も現行の3年ではなく、最大無期限とする。それで3年ごとに別の移民を受け入れることも可能だし、一人を無期限に受け入れることもできる。さらに提案として受け入れの権利を同時に共同体も持つことにするというオプションも考えている。これはコミュニティーにより移民を嫌う場合があるからだとする。一般に都市部ならば許容性が高いだろうが同質性を尊重する共同体も存在することから。p231 なおこれらはオークションにかけられ平均的ビザの入札価格は一人年間6,000ドルとして試算している。これは不法移民ですら米国では年間1万1千ドルなのでこの額は妥当だとする。p221
ここで私自身も留学時に利用したJ-1ビザについて新たな知識を得た。もともと文化交流を目的にしたものだが、現在では低賃金のベビーシッターを雇うためにも使われているらしい。p229
80年代にはどうだったか分からないがポストドクにはJ-1ビザが必要で、低賃金で大学から雇われていたのは事実。1年目は1万4千ドルで半分は月500ドルのシェアードハウスの家賃で消えていたのが現実。2年目以降に2万2千ドル?だったかに上がり。隔週の支払いが1月ごとになったかと思ったほどだ。これは私の仕事を認めてくれた指導教授のご好意(個人グラントから加えてくれた)によるもの。
話を元に戻すと、著者らは様々な対策を提案してビザのオークション制の利点を挙げるが、かなりハードルが高いように個人的には感じる。問題は特に個人がこの制度を運用することだ。H-1BビザやJ-1ビザは企業や大学(留学など)が事務を行うが、これは個人が行う。しかも1対1の関係は極めて個人的なものでうまくいく場合もあるが、逆にうまく行かない場合も当然ありうる。後者は極めて厄介だ。但し、ヨーロッパや米国ではこれだけ移民問題(不法移民も含め)が深刻化しているので比較の問題かもしれない。日本は同列に考えられないだろう。
<データーベースとして>
自国民vs移民
米国;9:1
UAE;1:9
バーレーン、オマーン;1:1
サウジ、オーストラリア、ニュージーランド;2:1
シンガポール;3:2