昨年から始まったコロナ不況で、多くの中小企業が苦境に立たされています。
売上や粗利が伸びない中、人件費や家賃などの固定費はそれに関係なく支出を余儀なくされます。
そうした中で、コロナ不況を理由とした人員削減を考えている中小企業も少なくないでしょう。
そこで、コロナを理由とした従業員の人員整理が許されるかどうかについて、検討してみたいと思います。
長引くコロナ不況のため、売上が低迷する中小企業が増えています。
しかし、売上や粗利が減少しても、人件費や家賃といった固定費は原則として減りません。
このことを、このブログでも何度か登場しているお金のブロックパズルで見てみたいと思います。
お金のブロックパズルとは、もともと西順一郎氏の『戦略会計StruckⅡ』(ソーテック社)の中のStruck表をもとに、ビジョナリーパートナーの和仁達也氏がお金の流れの全体を分かりやすく図にしたものです。
たとえば、コロナ不況のために、売上が半減してしまったと仮定します。
それをこのお金のブロックパズルで表現すると、次のようになろうかと思います。
コロナ前のブロックパズル
それが、コロナ不況によって売上が100から半分の50になったとすると、次のようになります。
売上の減少に伴い、仕入代金などの変動費も半分に減りますが、人件費などの固定費は減らず、その結果会社の利益はなくなり、赤字に転落することになります。
内部留保などがあって、赤字分を補填できれば良いですが、コロナ不況が長引くと、会社の内部留保も底をつき、このまま行けば倒産という可能性も出てきます。
そこで、固定費、特に人件費を減らしたい、売上の減少に伴って人手も過剰になっているので、人員整理を行いたい、そのように考える中小企業の経営者もおられることと思います。
そして、人員整理というと、それまでいた従業員を解雇するということが考えられます。
ところが、労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しています。
これは、いわゆる解雇権濫用法理と言われるものです。
すなわち、解雇というのは、法律的に言いますと、使用者(会社)は従業員との間で労働契約(雇用契約)を結んでいますので、従業員からの承諾がないにもかかわらず、会社が従業員を解雇する行為は、労働契約を一方的に解約する行為ということになります。
そして、上記の解雇権濫用法理により、正当事由がない解雇は、使用者が解雇権を濫用したものとされ、その解雇は無効となります。
ここでいう正当事由とは、解雇を行う客観的合理性と、社会的相当性があることを意味します。
したがって、いくら固定費を削減するためとはいえ、正当事由がなく従業員を解雇する行為は、この解雇権濫用法理によって無効と判断されることになります。
それでは、今回のコロナ不況を理由とする人員削減(解雇)は、果たしてここでいう解雇の正当事由に当たるのでしょうか?
正当事由に当たるということになれば、コロナを理由とする解雇も法律上許されるということになります。
この点、このような使用者側の経営事情等により生じた従業員数削減の必要性に基づく解雇は、いわゆる整理解雇と言われています。
そして、整理解雇については、裁判例上、整理解雇の4要件といわれる判例法理が確立しています。
判例法理というのは、簡単に言いますと、成文の法律ではないものの、裁判例上確立した解釈基準となっており、整理解雇が裁判上で争われたとすれば、この判例法理(つまり、整理解雇の4要件)にしたがって判断されることになります。
そして、整理解雇の4要件は、裁判例上確立された法理ですので、裁判以外の実務においても重要な判断基準となっています。
具体的にこの整理解雇の4要件は何かと言いますと、①会社の人員削減の必要性、②会社が解雇を回避するための努力をしたか、③解雇の対象となる従業員の人選に合理性があるか、④会社が従業員に対してていねいな説明や協議を尽くしたか、ということが内容となります。
これについては、次回からこの4要件について詳しくお話したいと思います。
(つづく)
下記の関連動画もご覧下さい。
コロナを理由に従業員を解雇できるか? 整理解雇の要件など