日曜日。
天気のいい昼下がりは、必ず、ベランダに出る。
そうすると時々、ひとつ下の階に住む彼女の、鼻歌が聴こえるからだ。
煙草に火をつけて数分。
彼女は現れた。少し遅くなっての洗濯物を干すようだ。
今日はDo As Infinityの『陽のあたる場所』を歌っている。
彼女は俺のことを、多分、知らない。
実は俺も、彼女の顔を、まだ知らない。
いつからだろう。
たまに下から聴こえてくる鼻歌を、進んで聴きにいこうとし始めたのは。
昼間でも、日が翳ると身震いしてしまう季節。
そろそろ本格的に冬が始まる。
冷たい風のなかでも、彼女の鼻歌を聴くことはできるだろうか。
洗濯物を干し終えた彼女は、部屋の中に戻っていった。
俺は煙草を手持ちの灰皿に押し付ける。
彼女とのひと時は、これでおしまい。
次の週末も、晴れだといいなあ・・・。
久しぶりに彼の家に行くと、案の定部屋の中はグッチャグチャだった。
「やーっぱりねぇ・・・」
ため息とともに、あたしは苦笑いをする。
特にひどいのが、リビングの中央を占めるテーブルの上。
「何、これ!」
と、思わず叫んじゃうくらい、プリント類やら雑誌やらで埋め尽くされている。
いくら仕事で忙しいとはいえ、普通ここまで放置できる?
絶対掃除してないだろうなって思って意気込んで来たけど、これじゃ片付ける気も失せるって。
『男の部屋は汚い』
昔からそう言うけれど、彼の場合、半端じゃない。
初めて彼の部屋に行ったときに、この悪癖に気づかなかったあたしがいけないのか。
「仕方ない。やるか!」
何とか自分を奮い立たせて、片付けに取りかかる。
シンクに溜まった食器も。
洗濯機に入ったままの衣類も。
埃をかぶった本棚やオーディオ機器も。
今にもあふれ出しそうなゴミ箱も。
そして、完璧に物置状態のテーブルも。
全部、ぜーんぶ。
「ただいまー」
彼が、帰ってきた。
「お前来てると思って、酒とつまみ買ってきたんだけど・・・おお!」
半分開けたドアの向こうで、彼が目を丸くして立ち尽くす。
そう。この顔を見たくて、がんばったんだから。
あたしは密かに、にんまりする。
「キレイになってんじゃん」
「でしょ。さあ、乾杯しよ」
やっと本来の機能を果たせるようになった食卓で。
二人っきりの晩餐を、ようやく楽しめるわね。
「やーっぱりねぇ・・・」
ため息とともに、あたしは苦笑いをする。
特にひどいのが、リビングの中央を占めるテーブルの上。
「何、これ!」
と、思わず叫んじゃうくらい、プリント類やら雑誌やらで埋め尽くされている。
いくら仕事で忙しいとはいえ、普通ここまで放置できる?
絶対掃除してないだろうなって思って意気込んで来たけど、これじゃ片付ける気も失せるって。
『男の部屋は汚い』
昔からそう言うけれど、彼の場合、半端じゃない。
初めて彼の部屋に行ったときに、この悪癖に気づかなかったあたしがいけないのか。
「仕方ない。やるか!」
何とか自分を奮い立たせて、片付けに取りかかる。
シンクに溜まった食器も。
洗濯機に入ったままの衣類も。
埃をかぶった本棚やオーディオ機器も。
今にもあふれ出しそうなゴミ箱も。
そして、完璧に物置状態のテーブルも。
全部、ぜーんぶ。
「ただいまー」
彼が、帰ってきた。
「お前来てると思って、酒とつまみ買ってきたんだけど・・・おお!」
半分開けたドアの向こうで、彼が目を丸くして立ち尽くす。
そう。この顔を見たくて、がんばったんだから。
あたしは密かに、にんまりする。
「キレイになってんじゃん」
「でしょ。さあ、乾杯しよ」
やっと本来の機能を果たせるようになった食卓で。
二人っきりの晩餐を、ようやく楽しめるわね。
先日の学祭。
大学サークルの後輩が、
「あなたにとって『愛』とは?展」を個人で開きました。
写真と文字と音楽で構成する映像作品を作っていたので、
わたしも一言参加させてもらうことに。
なんでも、
150人分の「愛」を集めたそうで、
出来上がった作品はとても素敵なものでした。
下は高校生から、
上は80代のおばあちゃんまで。
老若男女問わず、様々なかたちの「愛」。
150人いれば、
150通りの「愛」が生まれます。
人それぞれの「愛」を、大切にしてほしいと思いました。
あなたにとって「愛」とは何ですか?
ちなみにわたしの「愛」は・・・、
「寛容と叱責」
です。
大学サークルの後輩が、
「あなたにとって『愛』とは?展」を個人で開きました。
写真と文字と音楽で構成する映像作品を作っていたので、
わたしも一言参加させてもらうことに。
なんでも、
150人分の「愛」を集めたそうで、
出来上がった作品はとても素敵なものでした。
下は高校生から、
上は80代のおばあちゃんまで。
老若男女問わず、様々なかたちの「愛」。
150人いれば、
150通りの「愛」が生まれます。
人それぞれの「愛」を、大切にしてほしいと思いました。
あなたにとって「愛」とは何ですか?
ちなみにわたしの「愛」は・・・、
「寛容と叱責」
です。
何度も読み返したメール
コンビニで買った一口チョコの包み紙
使わない灰皿
色の出なくなったペン
何も生み出してはくれないのね・・・
コンビニで買った一口チョコの包み紙
使わない灰皿
色の出なくなったペン
何も生み出してはくれないのね・・・
失望させられるのが怖いから
何も求めないでいる
見返りなんかいらないよって
つぶやく心の裏で
ひっそりとどこか期待している
与えたものよりも
返ってくるものが小さいと
知らないうちに寂しくなるんだ
それがどんなに自分勝手か
誰も気づきはしないんだけども
まだ半開きの目を擦りながら、あたしはベッドから抜け出す。
目覚まし時計の針は、普段セットする時刻の5分前を指している。
隣で静かに寝息を立てている彼を起こさないよう、あたしはそっと扉を開け閉めした。
カーテンの端から、眩しい光が漏れ出している。
今日はきっと、いいお天気。彼が起きたらお布団を干そう。
だけどせっかくの休日だから、ゆっくり寝かせてあげたほうがいいかもしれない。
窓から外の世界を眺める。
まだ薄い色をした空。全面に光が反射して目が眩みそう。
規則正しく並んで空を駆ける鳥たちの群れ。
少し冷たいけれど、新鮮な空気。
どこか遠い場所から響くノイズのような、車のエンジン音。
リセットされた全てが、もう一度ここから始まる。
ペアのマグカップにカフェオレを淹れて、あたしは彼の眠る部屋へ向かう。
「・・・おはよう」
もう目を覚ましていた彼。少し眠そうな顔で、扉の前に立つあたしに笑いかける。
「おはよう。はい、コーヒー」
カップを片方、差し出すと、彼は少し戸惑いながら受け取った。
「昨日、ケンカしたよな」
「そうだっけ?」
「覚えてねーの?」
「もう忘れちゃった」
昨日の暗い気分なんて、朝の光と彼の笑顔が吹き消してくれる。
「じゃあ仲直り」
カフェオレの入ったマグカップで、ごめんねの乾杯。
注ぎ込む朝日のなかで、あたしと彼は口づけをした。
目覚まし時計の針は、普段セットする時刻の5分前を指している。
隣で静かに寝息を立てている彼を起こさないよう、あたしはそっと扉を開け閉めした。
カーテンの端から、眩しい光が漏れ出している。
今日はきっと、いいお天気。彼が起きたらお布団を干そう。
だけどせっかくの休日だから、ゆっくり寝かせてあげたほうがいいかもしれない。
窓から外の世界を眺める。
まだ薄い色をした空。全面に光が反射して目が眩みそう。
規則正しく並んで空を駆ける鳥たちの群れ。
少し冷たいけれど、新鮮な空気。
どこか遠い場所から響くノイズのような、車のエンジン音。
リセットされた全てが、もう一度ここから始まる。
ペアのマグカップにカフェオレを淹れて、あたしは彼の眠る部屋へ向かう。
「・・・おはよう」
もう目を覚ましていた彼。少し眠そうな顔で、扉の前に立つあたしに笑いかける。
「おはよう。はい、コーヒー」
カップを片方、差し出すと、彼は少し戸惑いながら受け取った。
「昨日、ケンカしたよな」
「そうだっけ?」
「覚えてねーの?」
「もう忘れちゃった」
昨日の暗い気分なんて、朝の光と彼の笑顔が吹き消してくれる。
「じゃあ仲直り」
カフェオレの入ったマグカップで、ごめんねの乾杯。
注ぎ込む朝日のなかで、あたしと彼は口づけをした。
よく読んでた本って、なんですか?
わたしは・・・、
星新一がけっこう好きで、文庫本をよく読んでました。
ショート・ショートなので1冊の本のなかにたくさん話があったから、
あまり詳しい内容は説明しきれないけど・・・。
最初に読んだ星作品は、たしか国語の教科書に載ってたものでした。
宇宙人が古代の地球にやって来て、
銀色のでっかい卵みたいなカプセルの中に、
ありとあらゆる文明の利器みたいなものを入れてプレゼントしてくれるんだけど、
時代が進むうちに愚かな人間たちは、
贈り物に気づくことなく核実験でカプセルをふっ飛ばしちゃった・・・
って話。
この皮肉さに、たまらないユーモアのセンスを感じます。
最近読んでないなー。
読書の秋。また一冊、本屋さんで手にとってみようかな。
わたしは・・・、
星新一がけっこう好きで、文庫本をよく読んでました。
ショート・ショートなので1冊の本のなかにたくさん話があったから、
あまり詳しい内容は説明しきれないけど・・・。
最初に読んだ星作品は、たしか国語の教科書に載ってたものでした。
宇宙人が古代の地球にやって来て、
銀色のでっかい卵みたいなカプセルの中に、
ありとあらゆる文明の利器みたいなものを入れてプレゼントしてくれるんだけど、
時代が進むうちに愚かな人間たちは、
贈り物に気づくことなく核実験でカプセルをふっ飛ばしちゃった・・・
って話。
この皮肉さに、たまらないユーモアのセンスを感じます。
最近読んでないなー。
読書の秋。また一冊、本屋さんで手にとってみようかな。
傷つきやすくて 壊れやすいものだから
頑丈に鍵をかけすぎて
もう 何も入れられなくなっちゃったんだ
今さら開けるのが怖くて
全てを拒もうとしている
そうしないと
生きていけないようになってしまった
頑丈に鍵をかけすぎて
もう 何も入れられなくなっちゃったんだ
今さら開けるのが怖くて
全てを拒もうとしている
そうしないと
生きていけないようになってしまった
開け放たれた窓から半分身を乗り出して、夜空を見上げる。
体を寄せ合ってひとつの毛布に包まった、俺と彼女。
「星、きれいだね」
彼女は小さく鼻をすすった後、俺の耳元でそっと囁く。
「寒い?」
「ううん。平気」
俺は彼女の細い肩を、少し冷たくなった手で抱き寄せる。
澄んだ空気は、冬に近づきつつある証拠。
星の瞬きが、こんなにもはっきりと見える。
白い、冷たい光が、見る者の心を捕えて放さない。
「あの星座、何だか知ってる?」
彼女が指差した方向には7つの星が、理科の教科書でよく見た柄杓の形に並んでいた。
「知ってる。北斗七星だろ」
天体には疎い俺でも、さすがにそれくらいは覚えている。
「星座ってね、少しずつ変化しているんだって」
「え? ずっとおんなじ形をしてんじゃねーの?」
驚いて俺が尋ねると、彼女は軽く、首を振った。
「長い時間をかけて、わずかに、変わっていくんだって」
そう呟く彼女の言葉が、ひどく、寂しそうに聞こえた。
「『万物は流転する』、か・・・」
「何、それ?」
「ヘラクレイトスの言葉」
「ヘラクレス?」
「それは、ギリシャ神話の登場人物。ヘラクレイトスは古代ギリシャで哲学やってた人」
「へえ。物知りね」
全てのものは、変化していく。
その真理は時に、残酷なほど人の心に深く、突き刺さる。
「ねえ」
彼女は北斗七星を見上げたまま、俺に声をかけた。
「流転しないものも、世の中にはあると思う?」
全てのものは、変化していく。
だけどなかには、変わってほしくないものもある。
「あるかもしれないな。・・・あるよ、きっと」
俺は腕の中にいる彼女を、力いっぱい抱きしめた。
体を寄せ合ってひとつの毛布に包まった、俺と彼女。
「星、きれいだね」
彼女は小さく鼻をすすった後、俺の耳元でそっと囁く。
「寒い?」
「ううん。平気」
俺は彼女の細い肩を、少し冷たくなった手で抱き寄せる。
澄んだ空気は、冬に近づきつつある証拠。
星の瞬きが、こんなにもはっきりと見える。
白い、冷たい光が、見る者の心を捕えて放さない。
「あの星座、何だか知ってる?」
彼女が指差した方向には7つの星が、理科の教科書でよく見た柄杓の形に並んでいた。
「知ってる。北斗七星だろ」
天体には疎い俺でも、さすがにそれくらいは覚えている。
「星座ってね、少しずつ変化しているんだって」
「え? ずっとおんなじ形をしてんじゃねーの?」
驚いて俺が尋ねると、彼女は軽く、首を振った。
「長い時間をかけて、わずかに、変わっていくんだって」
そう呟く彼女の言葉が、ひどく、寂しそうに聞こえた。
「『万物は流転する』、か・・・」
「何、それ?」
「ヘラクレイトスの言葉」
「ヘラクレス?」
「それは、ギリシャ神話の登場人物。ヘラクレイトスは古代ギリシャで哲学やってた人」
「へえ。物知りね」
全てのものは、変化していく。
その真理は時に、残酷なほど人の心に深く、突き刺さる。
「ねえ」
彼女は北斗七星を見上げたまま、俺に声をかけた。
「流転しないものも、世の中にはあると思う?」
全てのものは、変化していく。
だけどなかには、変わってほしくないものもある。
「あるかもしれないな。・・・あるよ、きっと」
俺は腕の中にいる彼女を、力いっぱい抱きしめた。
あたしの彼は、フォークの使い方がすごく下手。
「ねえ。パスタなんだから、お箸で食べるのやめてよ」
「いいじゃん別に。家ん中だし」
ミートソースのスパゲッティーを、まるでヤキソバみたいに啜る彼。
ソースが周りに飛び散りそう・・・。
あたしは思いっきり、しかめ面をする。
そういえばファミレスで鉄板ステーキ食べたときも、お箸使ってた。
「なんでフォーク使わないの?」
「だって、日本人はやっぱ箸、だろ」
当然のことのように、かれはそう答える。
そりゃごもっともだけど・・・。
「何? 何か変?」
彼は眉根にしわを寄せたあたしの顔を見て、ミートソースだらけの真っ赤な口周りをひとなめした。
「べーつにぃ」
わざと答えてやらなかったのに、彼は真に受けたのか、この不機嫌さを全く気にすることのない様子。
そんな鈍感な彼に、あたしは更に不満を溜めつつある。
「あーあ。そんなんじゃ一緒に高級レストラン行っても、恥かくだけだなー」
「高級レストランなんか、行かねーじゃん」
「そうだけどぉ・・・」
身分不相応だってわかっているけど、あたしだって一度くらいドレスアップして、ホテルで豪華ディナーをとってみたい。
そんな乙女心、彼には一生わかりっこないんだろうな。
「あー、うまかった。ごちそうさま」
彼は全く悪気なく、膨らんだおなかをポンポンと軽く叩いた。
「やっぱお前の料理、サイコーだな」
唇を手の甲で擦りながら、彼はにかっと笑う。
何だか怒る気が失せちゃった。
当分はお箸にパスタでも、まあいっか。
「ねえ。パスタなんだから、お箸で食べるのやめてよ」
「いいじゃん別に。家ん中だし」
ミートソースのスパゲッティーを、まるでヤキソバみたいに啜る彼。
ソースが周りに飛び散りそう・・・。
あたしは思いっきり、しかめ面をする。
そういえばファミレスで鉄板ステーキ食べたときも、お箸使ってた。
「なんでフォーク使わないの?」
「だって、日本人はやっぱ箸、だろ」
当然のことのように、かれはそう答える。
そりゃごもっともだけど・・・。
「何? 何か変?」
彼は眉根にしわを寄せたあたしの顔を見て、ミートソースだらけの真っ赤な口周りをひとなめした。
「べーつにぃ」
わざと答えてやらなかったのに、彼は真に受けたのか、この不機嫌さを全く気にすることのない様子。
そんな鈍感な彼に、あたしは更に不満を溜めつつある。
「あーあ。そんなんじゃ一緒に高級レストラン行っても、恥かくだけだなー」
「高級レストランなんか、行かねーじゃん」
「そうだけどぉ・・・」
身分不相応だってわかっているけど、あたしだって一度くらいドレスアップして、ホテルで豪華ディナーをとってみたい。
そんな乙女心、彼には一生わかりっこないんだろうな。
「あー、うまかった。ごちそうさま」
彼は全く悪気なく、膨らんだおなかをポンポンと軽く叩いた。
「やっぱお前の料理、サイコーだな」
唇を手の甲で擦りながら、彼はにかっと笑う。
何だか怒る気が失せちゃった。
当分はお箸にパスタでも、まあいっか。