短篇集 & SF「 爆発物処理班の遭遇したスピン 」、「 白亜紀往事 」 | berobe 映画雑感

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「 映画 」と「 本 」の感想

 

 

今月 読んだのは…

 

 

SF & サスペンスの 短篇集

 「 爆発物処理班の遭遇したスピン 」  佐藤究

 

 

特殊設定・本格ミステリー

 「 エレファントヘッド 」  白井智之

 

 

「 恐竜 & 蟻 」の 歴史SF

 「 白亜紀往事 」  劉慈欣

 

 

特殊設定・ミステリー

 「 ミノタウロス現象 」  潮谷験

 

 

と 今回も 頑張って4冊…

 

…読んだけど 読みたい本が 増えるばかり…

 

 

 

まずは「 SF( 他含む )」2冊から。

 

 

 

「 爆発物処理班の遭遇したスピン 」
佐藤究

 

 

全8篇の 短篇集。

 

『 Ank : a mirroring ape 』も 前から気になっているものの、長篇って 手が伸びにくいんですよね…。

 

という事で コチラを チョイス。

 

「 SF系 」が 多いのかと思ったら「 サスペンス系 」の方が

多かったです。

 

しかも その傾向も…

 

 

 

表題作「 爆発物処理班の遭遇したスピン 」

 

 

ホテルの「 酸素カプセル 」に仕掛けられた 爆弾。

 

中には人が入っているが「 起爆装置 」が カプセル内の

「 1.3気圧 」の変化を感知するため 容易に カバーを開ける事ができない。

 

さらに 沖縄の米軍基地にも 同じ爆弾が仕掛けられていて……。

 

 

何となく「 スピン 」の単語に「 量子力学 」を想起したんですが ドンピシャでした。

 

「 爆弾モノ 」なんですが「 量子もつれ 」や「 重ね合わせ 」

( 観測するまで どちらか わからない )など、

 

「 量子力学 」が関わってくる内容なんですよね。

 

なので 中盤までは「 サスペンス 」なんですが

その後は「 量子SF 」(?)の様相を見せます。

 

 

個人的には「 量子 」関係も 好きなので( 理解は 出来ていないが… ) 面白く読めました。

 

その設定が すごくイイんですが「 設定バレ 」( ほぼ 全バレ )になるんで「 白字 」で書いときます。

 

 

(「 設定バレ 」以下「 白字 」。

 

「 起爆装置 」の破壊対策をされた ふたつのカプセルには

「 もつれさせた 」電子粒子を それぞれ入れており、

 

カバーを開けると「 粒子のスピンの方向( 上向き、下向き )」が「 観測により 決定 」され、それにより どちらかが 爆発する 仕掛け。

 

もちろん「 量子もつれ 」状態なので 両者の距離なんかも 関係なし。 ・・・超カンタンに 書くと こんな感じ )

 

 

ちなみに「 酸素カプセル内 」が 1.3気圧なのは 普通の気圧

だと「 高濃度酸素が 体内に取り込まれないため 」みたいです。

 

 

 

「 ジェリーウォーカー 」

 

人気の クリーチャー・デザイナー。

彼の「 怪物創造 」には ある秘密が……。

 

これは 初出である『 NOVA( 19年 春号 )』で 読んでます。

 

強く 記憶に残っている作品でしたが、今回も楽しく読めました。

 

内容としては「 SF設定 」や「 秘密 」も イイんですが、

 

後半、いきなり緊迫感が MAXになる「 怪物モノ 」らしい

展開が、程よい リアルさもあって 盛り上がりましたね。

 

 

 

「 シヴィル・ライツ 」

 

お次は なんと「 暴力団モノ 」。

 

しかも 若頭による「 微狂い( びちがい )な 落とし前 」、

それに対して…という、

 

チョット平山夢明チックな “生ぬるい空気” を感じる内容で

イヤな汗を かきましたよ。

 

理不尽な「 暴力団の掟( ルール )」、「 暴対法 」により 何にもできない 組員たち

 

という「 狂い咲き 暴力団ロード 」な話でしたね。

 

 

余談ですが「 ワニガメ 」と「 カミツキガメ 」を 混同していたのに気づきましたよ。

 

ワニガメの「 咬筋力 」って 300kgくらいあるそうですね。

 

 

 

「 猿人マグラ 」

 

福岡。

子供の頃にあった ちょっとした 怪談「 猿人マグラ 」の話。

 

中学の時の「 マグラにされるぞ 」との ジイさんの言葉に 疑問を覚えた は その4年後、ひょんなことから「 猿人マグラ 」の元を知る……。

 

みたいな話。

 

夢野久作って 福岡で 生まれたんですね。

 

あえて ジャンルは 書きませんが、タイトルからも 察せられる

通り 夢Q『 ドグラ・マグラ 』が出てきます。

 

後半まで「 福岡生まれ 」の著者の「 自伝的な趣 」もあって

不穏感は “ほどほど” なんですが、

 

終盤で 明かされる「 真相 」で 一気に ドン底に 落とされましたよ。

 

( さらに 最後の一行での “追い打ち” もあったり )

 

個人的には「 かなり好きな部類 」のヤツで 面白かったですね。

 

 

ちなみに ネットで 他の人の感想を 少し読んだんですが、

 

『 ドグラ・マグラ 』を読んでないと “アレ” に至る流れが

わからないっぽいです。

 

もう「 チャカポコ チャカポコ 」が通じない時代になったのかも…。

 

 

 

「 スマイルヘッズ 」

 

通称・“ドルフィンマン” と呼ばれている シリアル・キラーの

「 アート 」( 絵画 )を集めている 画商

 

その画商ドルフィンマン 唯一の「 立体作品 」を売りたいとの話がきて……。

 

 

著者は 一人称人物( 主人公 )の心情描写が 上手く「 話 」に

入り込み易いんですよね。

 

そのため 本作でも 画商の「 収集欲 」に 説得力があって そっち側に 引き込まれましたよ。

 

( あと、単純に シリアル・キラーの話も 好きだし )

 

なので「 話 」自体は 予想範囲内では あるんですが、

画商売り手、両方 合わせて )妙な多幸感を覚え、

 

内容に反して ちょっと 晴れやかな 読後感でした。

 

「 手紙のやり取り 」なんかも チョット感動したしね。

 

 

 

「 ボイルド・オクトパス 」

 

「 引退した刑事の その後を追った 」ノンフィクションの連載。

 

その「 最終回 」を 飾る予定だった 唯一の アメリカ取材の

「 LA編 」。

 

それが「 未掲載 」になった理由とは……。

 

 

みたいな内容。

 

「 ボイルド 」は タコのほか、“あっち” にも 掛かっていて

ダブル・ミーニングっぽい。

 

さらに “こちら” にも掛かっているとすると トリプルかも…?

 

 

 

「 九三式 」

 

終戦後。

 

乱歩が 好きなが 古書店で見つけた「 江戸川乱歩 全集 」の

第九巻と 第十巻。

 

高額だが どうしても手に入れたい は 今まで避けてきた 進駐軍の仕事を受けるが……。

 

 

現実に起こった「 戦争の記憶 」が「 別の形 」で甦るという、チョット悲しい話だった。

 

後半の “あの描写” は えげつなかったけど、「 真相 」自体は

何とか「 胴体着陸 」はしていて※ 少しホッとしましたね。

 

 

〔 ※「 ネタバレ 」に触れるので「 白字 」。

 

最初の方、男に 少々アレの傾向( 人と 犬の 混同 )が見受けられたので アレでいいかと

 

 

 

「 くぎ 」

 

少年鑑別所を出た 腕っぷしの強い少年 は 飲んだくれの義母から離れるため 独身寮のある 塗装店に就職する…。

 

ある日、ある家で 作業を終えた少年は 家を出る時 上がり框に

落ちた「 くぎ 」と 家人の反応に 違和感を覚え……。

 

 

他の作品よりも インパクトは 弱かったかな。

 

なので アレよりも「 環境を変え、普通の暮らしをする 少年 」の話として 良かったです。

 

 

 

という事で、どれも良かったけど 個人的には

 

『 爆発物処理班のスピン 』『 ジェリーウォーカー 』

『 猿人マグラ 』が 面白かったですね。

 

特に『 猿人マグラ 』は いろいろ好みで かなり好きです。

 

 

 

「 白亜紀往事 」  劉慈欣

 

『 三体 』よりも前に書かれた 初長篇作品。

 

「 知性を持った 恐竜と 蟻 」の設定が 面白そうだったので 読んでみました。

 

長篇ですが「 210ページ 」くらいしかないです。

 

 

 

白亜紀の末期。

 

知性を得て「 初歩的な言語 」と「 想像力 」を持つが 身体が

大きく不器用な 恐竜

 

同じく、知性を得て「 “匂い” による言語 」を持ち

「 細かい作業ができる 」が 想像性がない

 

その欠点のため 高度な文明へと 発展できなかった 恐竜だったが、

 

ある日、恐竜の歯に挟まった肉片を が エサのため掃除した事から 両者に 協力関係が生まれる。

 

互いに欠点を補い合う事で 文明も発達するが……。

 

 

という、知性を持った 恐竜の「 共依存( 強依存 )」と

それにより生まれた「 高度な文明 」、その顛末を描いた 内容。

 

設定が すごくユニークで 納得感も 結構あるんですが、

 

それと共に『 三体 』の著者らしい 突飛なところもあります。

 

個人的に「 リアル寄り 」を期待していたんですが、

 

恐竜が 擬人化されている様な感じもあってか「 寓話的 」な雰囲気も強めで、

 

途中から 昔の( 筒井康隆とかの )「 ナンセンスSF 」な趣を感じたので 主に それとして読んでました。

 

なので 少々 残念ではあったんですけど、

 

巻末の「 訳者あとがき 」で 本作が 児童向けの出版社から 刊行された事を知り ある程度 納得はできましたね。

 

 

そっちより残念だったのが「 蒸気機関 」「 電気 」「 原子力 」と 人類と同じ 技術発展する点。

 

オチ( 事の顛末 )が アレとはいえ、人類とは違う種族らしい 発展が 読みたかったな。

 

その他、中身としては

 

の言語は「 匂いによる言語 」とか『 燃える昆虫軍団 』

(75年)みたいな の隊列による「 蟻文字 」、

 

による「 恐竜の体内 大冒険 」や「 恐竜の体内に入って行う手術 」など、関係が 面白かったです。

 

『 黒い絨毯 』(54年)『 フェイズⅣ 』(74年)を思わせる攻防、

 

『 博士の異常な愛情 』(64年)な 最後の展開も スリルたっぷりで「 エンタメSF 」として 楽しく読めましたね。