今月 読んだのは
ミステリー短篇集
「 入れ子細工の夜 」 阿津川辰海
SF・短篇アンソロジー
「 SFショートストーリー 傑作セレクション 破滅篇 」
著:矢野徹、 福島正美、 筒井康隆、平井和正
横田順彌、 川又千秋、星新一
SFサスペンス。
「 未来からの脱出 」 小林泰三
本格ミステリー
「 情無連盟の殺人 」 浅ノ宮遼、 眞庵
の4冊。
最初に「 本格ミステリー 」2冊から。
「 入れ子細工の夜 」 阿津川辰海
ミステリー短篇集で 全4編。
前の短篇集『 透明人間は密室に潜む 』が とても 面白かったので 期待していましたが、
前回と比べると 全体的に 少々 パンチ不足 に思えましたね。
「 危険な賭け ~私立探偵・若槻晴海~ 」
「 若槻晴海( わかつき・はるみ )さん、か。
女みたいな名前だね 」
一昨日の夜に 殺された 牧村が 持っていた、ある「 本 」。
その牧村が 当日にいた「 古書店街 」で ある人物を探す 探偵
だったが……。
「 本格 」としては 弱めかな。
ですが「 ミステリー小説 好き 」の“探偵” による、
ハードボイルド風の「 捜査 」や「 古書店主との やり取り 」
から 滲む「 人間ドラマ 」は その雰囲気も含めて 面白かったです。
「 あとがき 」によると、
「 ギミックとして ハードボイルド に 挑戦した作品 」とありましたが、それも 十分に 感じれましたね。
あと、著者の「 ミステリー小説 愛 」も 強く感じられ、
読んでいて 心地よくもありました。
でも『 透明人間は~ 』の 各短篇と比べると やっぱり物足りないな。
「 二〇二一年度入試という題の推理小説 」
K大学○○学部 小論文「 犯人当て 」
「 出題範囲 」
鮎川哲也『 薔薇荘殺人事件 』『 達也が嗤う 』
高木彬光『 妖婦の宿 』
エラリー・クイーン『 オランダ靴の秘密 』……
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『 オランダ靴 』が面白かった。
面白すぎて勉強するのを忘れてた。
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問
以下に掲げる小説「 煙の殺人 」の内容を読み、犯人および
犯人の使ったトリック、および そう考えられる根拠を 自由に
述べなさい。 ( 制限時間 120分 )
「 本格ミステリー 」が 大学入試試験に採用された事による、
受験生たちや 塾講師の「 混乱 」( と「 怒り 」)を描いた、
コメディ・ミステリー。
「 他者の文章のみ( 今風らしく SNS もあり )」で
構成された作品(「 ブリコラージュ 」というらしい )でもあります。
その「 狂騒 」が メインと思いきや、
ちゃんと「 試験 」(「 煙の殺人 」)もあるなど、「 本格 」としても しっかり 楽しめる内容でした。
個人的に ツボ だったのは
S塾講師による「 模範解答 」での「 虎の巻 」第二条、
「 読むときは ツネに 叙述を 疑っちゃえ 」。
コレに限らずですが、読んでるうち ついつい 忘れちゃうんで、
ニヤニヤすると共に 身につまされる思いも 感じましたよ。
それと「 謝罪文 」も「 本格好き 」としては たまらない内容でしたね。
あと、全く違う方向性の? “オチ”も 結構 好きです。
「 入れ子細工の夜 」
書斎の金庫の前に立つ男。
そこに 小説家が 帰ってくる。
小説家は「 編集者 」と名乗る その男に「 プロットの検証 」を
提案、「 ミステリー小説のプロット 」として それぞれの役を 2人が “演じる” 事になるが……
というような、サスペンス・ミステリー。
作中にも「 タイトル 」が出てきますが、
映画『 探偵〈 スルース 〉』(72年)を 想起させる
「 2人の 腹の探り合い 」みたいな 内容で、
「 本格 」よりは「 サスペンス 」の方が 強い 感じでしたね。
好きな オチでしたが「 めまい感 」?が 乏しく思えたので、
個人的には もう ひと展開 欲しかったかも。
「 六人の激昂するマスクマン 」
公民館の一室、「 覆面 & マスク 」の ダブル・マスクで 行われる、六つの大学による「 全日本 学生プロレス連合 」の総会。
S大学代表・シェンロンマスク四十九世 と、
「 リングアナウンサー 」の 坂田の 2名が 来ないなか 始まった 「 総会 」だったが、突如 マスクを被った 坂田 が現れ、
引き裂かれた「 シェンロンマスク 」を取り出すのだった……。
これも 面白かったです。
ですが『 六人の熱狂する日本人 』と比べると インパクトや
笑いが少なく 物足りなさも 感じました。
「 本格 」として「 伏線・手掛かり 」も バッチリだったので
チョット惜しいと 思いましたね。
中盤くらいから 気になっていた “ある描写” が オチに繋がる流れは 楽しかったな。
という事で 個人的に 一番 面白かったのは
『 二〇二一年度入試という題の推理小説 』ですね。
「 情無連盟の殺人 」 浅ノ宮遼、 眞庵
特殊設定・本格ミステリー。
共著作品です。
徐々に 感情が失われていき、やがて無くなってしまう
「 後天性 情動喪失 症候群 」、通称 “アエルズ”。
俗称 “情無”( じょうなし ) とも言われる “アエルズ” の患者は その性質から「 合理性 」や「 効率 」、「 自身の生存 」を重視する「 行動原理 」を持つようになっていた。
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“アエルズ” を発症し「 物事に 興味を失くしつつある 」
伝城英二( でんじょう・えいじ )は アエルズ患者たちが
共同生活を送る「 情無連盟 」から 加入の誘いを受ける。
伝城は 泊まり込みの見学として アエルズ患者が 共同生活する 屋敷を 訪れるが、そんな中「 連盟員が 殺害される 」事件が
起こってしまう。
しかも「 密室状態 」と「 階段に ぶちまけられた ペンキ 」が
問題となる、不可解な状況であった。
「 情無連盟 」創設者の 国木田から「 犯人捜し 」を頼まれた
伝城は ある仮説を立てるのだが……。
という「 特異な病症 」( 空想の病 )を使った「 特殊設定 」の 本格ミステリー。
感情を失くした アエルズ患者たちの「 ストイックな生活 」や
「 感情を排した 合理性 」から 導き出される「 思考 」、
さらに「 猜疑心 」や「 恐怖心 」が ない事からくる弊害も
説明されていたりと 結構 リアルな設定でした。
「 感情の喪失 」という事で「 サイコパス 」が 頭に浮かんだんですが、その要素も しっかりありましたね。
内容としては 合理性が 優先される「 感情喪失者 」の「 動機 」が カギになるんだと 思い、そこに 興味を覚えていたんですが、展開としては 少々 違っていました。
それでも、“この展開” も サスペンス性があって 楽しめたし、
最後の「 設定 」を活かした「 決意 」の流れ(「 締め 」)に至っては “かなり好み” だったので、個人的には 満足感は 高めでしたよ。
「 本格 」としては「 犯人当て 」“推し” らしいのですが、
思っていた 以上に「 アエルズ患者 」の「 行動原理 」が
トレース出来ず、全然ダメでした。
「 手掛かり・伏線 」は ちゃんとありましたが、
「 犯人を当てる 」となると 少々キビシイかも しれません。
それでも 個人的に「 本格度 」は まあまあ 高いとは 思いましたね。