松竹創業130周年記念映画『東京タクシー』
この映画を観て、
これが山田洋次監督の集大成なのだという思いになりました。
それは映画人としての総括というより、
「時間をどう生き、何を次に手渡すのか」…という問いへの、
一つの到達点のように感じられたからです。
若き日の監督の作品。1970年の『家族』。
あの作品では、列車や船に揺られながら、
新天地で生きる道を選び取っていく一家の姿が描かれました。
そこにあったのは、未来へ向かうエネルギーでした。
それから半世紀余り。
『東京タクシー』で描かれる移動手段は、タクシー一台。
時間は一日。主人公は、一人の女性。
しかし、その一日は、彼女の人生すべてを内包しています。
ここに、私は経営と重なるものを見ました。
経営もまた、日々は些細な判断の連続であり、
一日はあっという間に過ぎていきます。
けれど振り返れば、その積み重ねが、会社の「一生」を形づくっている。
『東京タクシー』に描かれた昭和の風景は、
懐かしさのために存在しているのではありません。
それは、時間が確かに流れてきた証であり、
その時間を生きた人々の選択の痕跡です。
山田監督は、未来を声高には語りません。
代わりに、「ここまで、どう生きてきたのか」
「何を抱えて、次へ渡すのか」を、静かに問いかけてきます。
『男はつらいよ』が人生の未完成さと再挑戦を描いた「陽」だとすれば、
『家族』と『東京タクシー』は、
完成に向かう時間を見つめた作品なのだと感じました。
それは、承継の物語でもあります。
人は、会社も、志も、ある時点で「自分だけのもの」ではなくなります。
語らずとも、振る舞いや選択を通じて、次の世代へと何かを渡していく。
タクシーの後部座席で語られる言葉の一つひとつが、
遺言のようであり、同時に希望のようにも聞こえました。
経営者として年を重ねるとは、新しいことを始める力だけでなく、
何を残し、何を託すかを考える時間を生きることなのかもしれません。
映画を観終えたあと、私は「良い映画だった」という感想よりも先に、
自分は、何を次に手渡せるだろうか…そんな問いが、心に残りました。
それこそが、この映画が経営者にそっと差し出してくれる、
一番の贈り物なのだろうと思います。
仕事はじめの前に、静かに考える時間をいただきました。
いつもお読みいただきありがとうございます。









