
一生ものの雑文集。この本は、料理の本というより、
「人間は、どう生きれば自分を失わずに済むのか」について、
考察しているの本だと感じました。
表紙にある、「なにもしない」料理が、地球と私とあなたを救う…
という突き刺さる一文。このメッセージが、実は本全体を貫きます。
出版社自身も、本書を「料理」を入口に、人間、自由、幸福、
経済至上主義、環境危機まで考える本と位置づけています。
◆ 1.「味つけはせんでええ」は、料理の本ではない
普通、料理は、「どう味をつけるか」「どう美味しくするか」
「どう見栄えよくするか」と考えます。
ところが著者は、そこから一歩引きます。
「素材には、もともと味があるでしょう」というのです。
野菜には野菜の味がある。米には米の味がある。魚には魚の味がある。
だから、人間があれこれ手を加えて「完成させよう」としなくてもいい。
これは、かなり深い思想だと感じます。
人間が自然を支配して完成させるのではなく、
自然の中に既にあるものを感じ取り、それを生かすのです。
ですから「何もしない」は、怠けることではありません。
むしろ、余計なことをしないためには、よく見る必要がある…
そこに、著者の料理の哲学があるのです。
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◆ 2.「レシピから自由になっていい」
本書のまえがきには、とても重要な考え方があります。
「レシピとは、人の物語から生まれたお料理のメモ」P.2であって、
他人のレシピをそのまま再現することが、
自分の料理になるわけではない、という定義です。
これは現代人に向けた、かなり大きなメッセージだと思います。
私たちは、「正解は何か」「正しいやり方は何か」
「専門家は何と言っているか」「みんなはどうしているか」を探しすぎる。
でも、あなたの人生には、あなたの料理がある。
下手でもいい。不格好でもいい。レシピどおりでなくてもいい。
一生懸命、自分で料理をする。そうすると、そこに「自分」が現れる。
まえがきの言葉にも、「一生懸命お料理すればそこにあなたがいる」
「お料理するあなたが、あなたを守ってくれる」P.2 という思想が
はっきり出ています。
ここに、著者がいかに温かい視座で、人を見ているか…
それが滲み出ていると感じました。
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◆ 3.「料理すること」が、人間を取り戻す
さらに面白いのが、本の章立てです。
「料理という人間らしさ」「料理がひとを守ってくれる」
「地球と料理」「味つけはせんでええんです」「料理する動物」
「パンドラの箱を開けるな」と続きます。
つまり著者は、料理=食べ物を作る技術とは考えていない。
料理するということは、 自分で考える、 手を動かす、 素材を見る、
季節を感じる、 火を扱う、 食べる人を思う、 結果を受け入れる…
という、ものすごく人間的な営みなのだということです。
AIが発達し、便利になり、
何でも「最適解」を教えてくれる時代だからこそ、
自分の手でやってみること、そのものに人間を守る力が湧く…
こうした視座です。だから本書の核心は「人間論」だといえます。
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◆ 4.山下事務所の思想にも重なる
山下事務所には、
「会計は、会社と社会をつなぐ機能」という思想があります。
この考え方と、著者思想に、共通点を感じます。
たとえば経営者に、「もっと利益を出しましょう」
「節税しましょう」「こういう会社にしましょう」と、
外から「味付け」してしまうことはできます。
しかし、本当に大切なのは、
その会社には、その会社にしかない素材がある…という大前提です。
社員がいる、お客様がいる、地域がある、技術がある、歴史がある、
社長の人生がある…30年、40年積み重ねてきたものがある…
すべてが、その会社にしかない、特定の素材です。
そこに会計という「事実」を置いてみる…
すると、「あなたの会社は、実はこういう会社ですよ」と、
会社自身が語り始めるのです。
これは、著者の、「素材を生かす」に非常によく似ています。
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◆5.「味付けをしない」と「何もしない」は違う
ここは誤解してはいけないところです。
「味つけはせんでええ」は、「何もしなくていい」ではありません。
むしろ逆です。余計なことをしないためには、
素材をよく観察しなければなりません。
野菜を見て、手に取って、質感を感じ、季節を感じる。
火加減を見て、食べる人を思って、必要なところだけ手を入れる。
つまり、「自分の都合で変える」のではなく、
「相手の本質を見て、必要なことだけする」。
この態度は、ナレッジ・マネージメントそのものです。
つまり経営にも、人を育てることにも、
「経営者の伴走者としての生きざま」にも通じます。
質問されたから答えるのではなく、相手をよく見て、
「今、この人に必要なものは何か」を感じ取る。
やり過ぎない。放っておきもしない。この間に本当の伴走があります。
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◆ 6.表紙の絵も、また味わい深い
表紙の真ん中に描かれたスケッチ。一見、地球ですが、
目をぼかすと、おにぎりに見えてきます。
著者の思想は、漫画にもできるのです。
言葉にすれば「一粒、一粒も、また地球」となります。
「ここが、急所でおまっせ」と押し付けない。
そんな風に感じてくれたら「それでええんです」と言っているよう。
そして題字の、『味つけはせんでええんです』という三段の配置。
「ええんです」と言われると、こちらの肩の力まで抜けてくる。
この本は、「もう頑張らなくていい」という脱力の思想でなく、
「本来あるものを、もっと信じていい」というお勧めでしょう。
たとえば、「米は米にあらず。すなわち米は命なり」であることを、
静かに語っています。
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この本を「経営者」の必読書に…
というのも、経営者は、つい会社に「味付け」をしたくなるからです。
売上を上げなければ!人を増やさなければ!新商品を作らなければ!
DX化しなければ!広告を出さなければ!…
でも、その前に、「この会社には、もともと何があるのか?」を見る。
そこが圧倒的に重要です。そのはじまりが、会計をきれいにすること。
そして、数字を毎月見る。社員の声を聞く。お客様を見る。
創業から今までをを振り返る。
すると、会社の中にすでにある「味」が見えてきます。
自社を観察することで、この本が経営指南書であることがわかります。
すると「足す経営」から「生かす経営」へと、物語が書き換わります。
山下事務所の使命の一つ。
それは「経営者の思考訓練の伴走者」という役割です。
この役割は、本書を読み込むことで、深まります。
経営者に、答えを味付けして渡すのではなく、
その会社自身の味を、経営者が発見する過程をお手伝いするのです。
「料理が、ひとを守ってくれる」という思想。
そして「会計が、経営者を守ってくれる」という思想。
この二つ、深いところで繋がっていると感じました。
つまり、土井氏にお会いする日が近づいているということでしょう。
すべては中小企業の「存続と成長と発展」のため!
いつもお読みいただきありがとうございます。