【ベオーネ谷】
音の正体もわからないまま、夜中までの残業もなくなり、
すっかりその事自体忘れかけた頃。
職場の女性事務員のFさんに「帰るので駐車場まで車を一緒に取りに
行ってほしい」と…
何で?
と思ったが、確かに何か異様な感じがしたので一緒に行くことに…
8月のこの日…時計の針は午後7時を差していた…
まだ日没ではないにしても、外は薄暗い…
微かに靡く風は生温く、Yシャツが肌にまとわりつく…
職場の駐車場は、会社より奥に100mほど進んだ所にあり、
奥は行き止まりで数件の住宅と外灯もあるだけ。
あまり気持ちの良い場所ではない
二人でFさんの車を取りに駐車場へ向かって50mほど砂利道を奥へ進む
ん、何か青白い物体が左前方に見えた。
わたしも、一瞬立ちすくむ。
と同時に隣のFさんがわたしの腕を急に掴む…
そこは砂利道をはさみ左側にマンションと古い車庫、
右側には住宅と花畑がある場所。
「それ」は古い車庫の前で光っていると言うか透けている感じで浮いていた
わたし「何だあれ?何かいますよね…」
Fさん「何あれ気持ち悪い…」
良く見ると髪がボサボサのお遍路姿をした老婆だ!
後ろの車庫まで透けて見えるが、ハッキリと格好などがわかり、
杖を持っている。
Fさんは下を向いて、わたしの腕をがっちり掴んだまま…
どうしよう…
が、不思議と恐ろしい感じはしない。
通路は一本道、車に乗ってもまたここを通らなければならず
どうしようと思ったが、Fさんの車を持ってこなければとの思いが強く、
花畑側の砂利道を小走りで進みだす。
その時、うつむいたままの「それ」がス~ッと近付いてきて
わたしの前で顔を擡げたのだ…
その場を逃げ出し、何とか車に到着し辺りを見渡すが何もいない。
Fさんは震えながらエンジンを掛け、わたしは助手席に乗り込み、
いま来た道をゆっくりと進む…
老婆のいた車庫前に車が近付く…
もう何もいない…と普通に車が進みだすと同時に、わたしは花畑の方に
顔を傾けると・・・
「ケッケッケ」と肩を揺すり笑いながらこちらを見つめるお遍路姿の老婆が…
何とか会社前に到着し、Fさんは僕を会社の前に降ろし猛ダッシュで
帰宅してしまった。
社内にはもう誰もいないので慌てて鍵を閉めるが、わたしの車も奥…
もう恐ろしくて一人では行けず、その日はすぐさま歩いて帰宅することに。
翌日、会社のみんなには信じてもらえませんでしたが、夕方になると
全員が奥の駐車場から車を会社前に移動してました。
また数日後の事ですが、会社奥のマンションに住んでいるカップルが
霊の話をしながら歩いているのを会社前で同僚が聞いた事により、
やっと信じてもらえたのでした。