ラーメン店、その数は全国に約4万軒
スープも麺も多種多様・・・旅の楽しみ「ご当地ラーメン」
うどんやそばとは異なる変革の食文化
この夏、開館直後以来18年ぶりに新横浜の「ラーメン博物館」を訪れました。
館内で営業しているラーメン店は変わっていましたが、昭和33年を再現したという下町の雰囲気はそのままで、私はノスタルジックな気分に浸り、娘や孫たちはレトロであることが逆に新鮮だったようです。
上の写真のラーメンは、館内で営業している「支那そばや」の塩ラーメンと、博物館の外観です。
下の写真は館内風景です。
古典落語ではありませんが、新作というにはずいぶん時代がかった「ラーメン屋」という人情噺があります。作は有崎勉(柳家金語楼)で5代目・古今亭今輔が演じていました。
登場人物はラーメン屋の老夫婦と客の男だけの噺です。
老夫婦が営む屋台のラーメン屋で、もう店仕舞いをしようとしているところに、1人の若い男がやってきてラーメンを注文します。
あっという間に平らげてお替りを頼み、よほど空腹なのか2杯目もすぐに食べ終え、3杯目も・・・。年の頃なら20代前半のその男。老夫婦は食いっぷりのよさを好ましく思っていましたが、女房のほうが「あなたの若い頃に似ている」と呟きます。2人に子供はなく、もしいたとしたならこんな若者になっていたのだろうかと想像したのかもしれません。
無口な男でしたが、3杯目を食べ終わった後、老夫婦に声をかけます。
「年寄り夫婦が夜中に商売をしているところ、面倒なことを言って本当に申し訳ないんだが、払う銭がねえんだ。すまねぇ、交番まで連れて行ってくれ。借りた銭は出所の折りに持ってくるから」
老夫婦が訳を訊くと、男は子供の頃から身寄りが無く、勤めも続かないので金もなく、頼れる人もいないので自暴自棄になってやったのだと言います。
老夫婦はとりあえず「すまねえが、家まで屋台を運ぶのを手伝ってくれ」と頼み、ついでに男を家に上げて一杯飲ませます。そして亭主のほうが男に話します。
「俺たちゃ、父ちゃん、母ちゃんと呼ばれたことがない。いっぺん呼んでみてはくれねぇか・・・」
男はその願いを聞き入れて、最初はぎこちなく呼んでいたものが、最後は心通じて「おとっつぁん、おっかさん」と呼びながら抱き合って泣く・・・。
今日的には「クサイ」とか「ダサイ」といって片付けられそうな話ですが、半世紀以上遡れば、こんな話はざらにあったような気がします。そば屋でもうどん屋でもなく、舞台がラーメン屋であるというところに作者の意図がみられ、古典落語にはないスープの香りを漂わせることで、近世の食文化を時代背景としてうまく表しています。
街灯がまだ裸電球だった私が子供の頃、夜が更けてもう寝ようとしている時分、ラーメン屋台が通り過ぎる時のチャルメラの音が、やけに寂しく聴こえたものでした。もちろん子供でしたからそのラーメンを食べたことはありません。
バブル期以前で私が成人したばかりの頃、お酒を飲んだ帰り、郷里の駅前に並ぶ屋台の一軒に立ち寄って、いつもビールとラーメンを注文していました。最後にウズラの卵を割り入れるおばさんの手際のよさと、くたびれたエプロンでその手をふいていたことを思い出します。
いずれも古いアルバムのセピア色の写真を見るような懐かしさと同時に、昭和という時代がうんと遠く過ぎ去ってしまったというせつなさを感じます。
テレビドラマ「北の国から」で、伊佐山ひろ子演じる店員が店を早く閉めたいために、純と蛍がまだ食べ終わっていないのにラーメンの器をさげようとしたとき、五郎が「まだ子供が食ってる途中でしょうが!」と大声で怒鳴るシーン・・・これもせつなかったですね。
ちなみにご当地の富良野では、昨年「『子供がまだ食ってる途中でしょうが』ラーメン」という袋物のラーメンが発売されたということです。
映画「男はつらいよ」では、寅さんが旅先の食堂でラーメンを食べているときに「おばちゃん、ラーメンには、なると(鳴門巻)入れないでよ。目が回っちゃうんだから」という台詞に笑ってしまいました。
ラーメンというと、私の中ではかくもせつない日陰の花のようなイメージがあります。
さて、前置きが長くなりましたが、ラーメンの定義とは何でしょう。
<Wikipedia>には次のような記載があります。
ラーメンは、茹でた中華麺と汁(スープ)と具からなる日本の料理。
漢字表記は拉麺または老麺・柳麺。別名は中華そばおよび支那そば・南京そばなど。
中国の麺料理を原形に大正時代ごろから日本各地に広まり、その後日本流のアレンジが加えられ独自の進化をした麺料理である。
現在の日本ではカレーライスと並んで国民食と呼ばれるほど人気のある食べ物であり、アジアや欧米など国外でもよく知られている。
中国・台湾では日式拉麺または日本拉麺と呼ばれている。
分類をなす大きなポイントは麺や具ではなく、スープにあります。
ダシは豚骨系、鶏がら・野菜系、それに魚介系が加えられます。調味料は醤油、味噌、塩が基本です。
地方や店舗によってこれらの組み合わせが異なるわけで、具の種類にこだわればそのバリエーションは無限大で、うどんやそばに比べて多種多様であることこの上ない所以でもあります。
特色のあるご当地ラーメンがあるのも楽しいことで・・・青森には「味噌カレー牛乳ラーメン」があるかと思えば、鹿児島県の遠洋漁業基地である串木野市ではスープにも具にもマグロを使った「まぐろラーメン」が、枕崎市ではカツオを使った「かつおラーメン」があります。
全国的には有名ではありませんが、さいたま市岩槻区の「豆腐ラーメン」なども隠れたご当地ラーメンといえるかもしれません。
旭川、藤枝(静岡)、和歌山、尾道(広島)などではスープに魚介系を多く使っているところがあり、独特の香りとクセがあるのですが、慣れるとこれがたまらなく恋しくなるといわれます。
最近は関東でも煮干しや鰹節など、魚介系を加えた濃厚スープが売りの店が増えていて、つけ麺にその傾向が強いようです。
変動的なので詳しい数字はわかりませんが、全国でおよそ4万軒といわれるラーメン店。
人口10万人あたりの店舗数では、山形県が最も多く、「そば」のイメージが強いので意外でした。
新しく生まれるところもあれば、消えていく店も・・・今まさにラーメン戦国時代といわれますが、国民食ともいえるラーメンの食文化は、今後どうなっていくのでしょう。
こってりした豚骨ラーメンは九州、東京はあっさりした醤油ラーメンというイメージがありますが、そういうくくり方は誤っていて、先入観によるところが多いと思います。
今や東京で行列ができるラーメン店の多くは極めてこってり系ですし、北海道の有名ラーメン店のほうが博多や久留米の豚骨ラーメンよりもはるかにこってりしています。
北九州は小倉の「恋善」、鹿児島の「のり一」などは、あっさりが売りの九州ラーメンです。
過日、タクシーの運転手さんに薦められて、千駄ヶ谷にある老舗といわれるラーメンを食べてきましたが、豚骨スープに背脂がどっさり浮いていて正直なところ「これが東京で名だたるラーメン?」と思いました。若い頃、少なくとも40代前半くらいまでだったら「旨い!」と言っていたかもしれませんが、孫がいる歳となっては胃に重たく感じられ、リピーターになる気はありません。
世代的に好みが違うのは当然ですが、若者嗜好に合わせてこってり系やつけ麺の人気が高いのが近年の傾向で、しかも味にパンチがないといけないという考えからでしょうか、塩分も幾分高くなっているような気がします。
ただし厳しい競争の中で食材に対する自然志向、高級化志向があることも事実で、生き残りをかけた業界のリーダーたちが切磋琢磨して、新たなラーメン文化の創造に努めてくれるものと信じています。