東京・四日目の今日は、ちょっと冒険の旅へ…。
以前から行きたかった東京の‘ある街’に、ついに足を踏み入れてきた。
その‘街’とは、日比谷線南千住駅から浅草方面にちょっと歩いた辺り…通称「山谷(さんや)」と呼ばれる所。
ここは、大阪で言えば「新今宮」みたいな街。
…剥き出しの人間像が垣間見られる、下町中の下町だ。
南千住駅南口を出て、すぐにまず「首切り地蔵・延命寺」という、恐ろしい名前の寺がある。
寺と言っても、入って目につくのは、ひたすら巨大な地蔵さんだけだ。
…なぜ‘首切り地蔵’なのか。
境内に、「首切り地蔵の所以」が書かれた由緒書があった。
曰く…
「此の地付近は徳川幕府初期頃より重罪者の刑場に宛てた所で、昔は‘浅草はりつけ場’と称せられていた。刑場として開始されてから二百二十余年の間埋葬された屍体は実に二十余万と称せられるが、大部分は重罪者の屍体であった。
(中略)幕法よりすれば憂国の志士も盗賊放火の罪人も等しく幕府の大罪人であって、これらの大罪人が仕置となる時は、その遺体は非人頭に下げられこの境内に取捨となった。故に埋葬とは名のみであって土中に浅く穴を掘り、その上にうすく土をかけておくだけであったから、雨水に洗われて手肢の土中より露れ出ること等決して珍しくなく、特に暑中の頃は臭気紛々として鼻をつき、野犬やいたちなどが死体を喰い残月に啼く様は、この世ながらの修羅場であった」
この、お寺の由緒書にあるまじき文面に、まずカウンターパンチを食らう。
歴史的にも壮絶な場所に、念願の「山谷」は位置していた。
大きな歩道橋を渡り浅草方面に足を向けると、すぐに左右に低価格の宿が見えてくる。
「ビジネスホテル」や「旅館」の肩書きのついた、まだ高級な方の宿は、一泊だいたい2200円~2500円。
宿屋としては根本的とも言える宣伝文句…‘冷暖房完備・カラーテレビ付・個室’という文字が、さも誇らしげに書かれていた。
一番安い木賃宿が、一泊千円。
…さすがに中へは入れなかったが、そのうちの一つ「白髭(しらひげ)ハウス」は、冷房も完備されてないせいか窓も全て開けっぱなしで、外観から察するに‘純日本的なカプセルホテル’といった風情だった。
街には日雇い労働者の方達が溢れ、ワンカップのお酒を売る酒場は、昼間だというのに大繁盛していた。
オヤジ達は哀しげで…同時にまた楽しげで、そこには得も言われぬ‘生命のエネルギー’が満ち溢れていた。
石井裕也に言わせれば、ここは「キンタマみたいな街」である。
そしてこの‘人間味’こそが、映画にも小説にも歌にも落語にも、必要不可欠なものだと思うのだ。