第四夜「悪魔がくる!」
どこから入り込んだのか、家の中に悪魔がいる。
私は悪魔に見つかるまいと、二階の押し入れの中でじっと息を潜めている。
するとまるで私が隠れているのを知っているかのように、悪魔は階下から、ゆったりとした足取りで階段を上ってくる。
悪魔が階段を踏み締める‘ギシギシギシ…’という足音が、押し入れの私の耳にまで届く。
そしてその音は、悪魔の到来を告げるべく、だんだんとこの部屋へと近付いてきていた。
恐怖に耐えられなくなった私は、思い切って押し入れから飛び出し、窓から屋根の上への逃亡を試みる。
振り向きざまに私は、部屋の戸のすぐ外に立つ悪魔の姿を、磨りガラス越しにちらりと認めた。
それは磨りガラス越しにでも、一度見たら忘れられぬような異様な姿をしていた。
パニックに陥りながらも私は、窓を開け樋を伝って、屋根の上へ逃れようともがいた。
同時に‘ぎいぃ’という音とともに部屋の戸が開き、悪魔はついに部屋の中へまで足を踏み入れてきた。
悪魔は私に迫りつつあったが、磨りガラス越しにでも恐ろしかったその姿を、私はとても直視する気にはなれなかった。
私は焦った。
…が、恐怖のあまり、身体が言う事をきかなかった。
樋に手を掛けたまま、私の身体は窓の外に宙ぶらりんとなった。
全身の体毛が逆立ち、私は悪魔がすぐ側まで迫ってきている気配に、意識を失いそうな恐怖を感じた。
しかしここで意識を失ってしまっては、悪魔に捕まってしまう。
捕まったが最期…悪魔は私に、世にも悍ましいやり方で、地獄の苦しみを味わわせるに違いないのだ。
すんでのところで私は気を取り直し、樋を掴んだ腕に今一度渾身の力を込め、屋根に這い上がろうと必死にあがいた。
懸垂の要領で樋の上へと上体を持ち上げ、ついに恐ろしい悪魔からの脱出に、成功したかに思えた…ちょうどその時だった。
悪魔の強靭な掌が、私の足首をがっしと掴まえた。
これまでに経験した事のないような恐怖に、私の身体は抵抗する事も出来ずに、ただ凍り付くだけだった。
そして次の瞬間、悪魔が発したその言葉に、私は自分の耳を疑った。
「…もう三ヶ月も溜まってるんですけど、いい加減払ってもらえませんか? 家賃」
私は観念した。