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 2019年6月16日(日)
 今年もまたBloomsday(ブルームの日)がやって来た。


 だからと言って何がどうということもないのだが、昨年の夏にようやくこの20世紀文学の最高傑作のひとつと言われる作品を(日本語訳でではあるものの)読み終えたことから(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502042042.html)、今回は例年とは違った気分でこの日を迎えることになった。


 実は昨夏に一度ざっと読み終えはしたものの、私の日本語読解能力(念のために書いておくが、英語ではない)の不足によって理解できなかった部分を再読するつもりでいたのだが、結局今日に至るまでその試みは実現していない。すべては上のブログにも書いたように日本古典文学の文体を模倣した丸谷才一による翻訳が余りに(あくまで私にとって)晦渋だからなのだが、どうせなら別の人(たち)による翻訳で改めて「ユリシーズ」を読み通してみたいという気持ちの方が強く、なかなか既読の文庫本を手に取る気になれないでいる。
 とは言うものの、現在手に入りやすい「ユリシーズ」の完訳本はこの丸谷才一他計3名(丸谷才一、永川玲二、高松雄一)によるもの(集英社文庫、全4巻)だけであり、今のところ私の望みは叶えようがないのである。


 一方、やはり20世紀文学の傑作のひとつと言われるマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」には、現在進行中の2種類(吉川一義、高遠弘美)の他に、個人訳が2種類(井上究一郎、鈴木道彦)に、今では入手が簡単ではないだろうものの共同訳(淀野隆三、井上究一郎、伊吹武彦、生島遼一、市原豊太、中村真一郎)が1種類も出ているのだが、それに比べて「ユリシーズ」の翻訳状況は余りにお寂しい状況である。
 上のブログにも書いた通り、昨年「ユリシーズ」を通読するに際して大いに役立った(と言うだけでは不十分で、この本なくしては到底通読できなかったに違いない)「『ユリシーズ』の謎を歩く」(集英社)を著した結城英雄氏による新訳を期待しているのだが、同氏も既に70歳を超えられており、果たして私の希望が叶うかどうか全く分からない。
 おそらく日本の英文学者にも「ユリシーズ」やジョイスを専門とされている方は決して少なくないだろうと思われるので(「フィネガンズ・ウェイク」の抄訳を出されている宮田恭子氏が有名だが、宮田氏は「フィネガンズ・ウェイク」の方が専門らしい上、間もなく85歳になられる方でもあるため、上の結城氏以上に希望薄である)、新訳ばやりの昨今の流れに乗って、是非「ユリシーズ」の新訳が近いうちに出てくれることを願うしかない。

 「ユリシーズ」に関しては、このブログで以下のような食べ物に関する記事を書いたこともあるので、一応アドレスを書いておく(https://ameblo.jp/behaveyourself/entry-12502040363.html)。



 ついでで何ではあるが(おまけに愛犬の介護もあってかなり時間が経ってしまったが)、映画関連の訃報を2つ。

 最初は映画監督の降旗康男氏(5月20日、満84歳で逝去)。
 とは言え、正直この監督の作品には余り感心したことがないのだが、高倉健とコンビを組んだ「駅 STATION」(1981年)、山口瞳原作の「居酒屋兆治」(1983年)、向田邦子原作の「あ・うん」(1989年)、「ホタル」(2001年)、「単騎、千里を走る。」(2006年。張芸謀と共同監督)、高倉健最後の主演作である「あなたへ」(2012年)などの作品は一応見てきた(ただし、「冬の華」(1978年)、「夜叉」(1985年)、「鉄道員」(1999年)は未だに見ていない)。
 正直、この中で今もたまに見返したくなるのは(韓国のケーブルテレビで無料で配信しているということもあるが)、倉本聰が脚本を担当した「駅 STATION」くらいだろうか(上の写真)。ちなみに「新網走番外地」など、高倉健が出演する作品以外にはこの監督の作品を見たことは一度もない。緑魔子主演の「非行少女ヨーコ」(1966年)だけはDVDを持っているのだが、あいにく日本に置いてきてしまって見ることも出来ない(実は3年程前に既に見ていて、このブログでも評価を記していたのだが、すっかり失念してしまっていた)。
 という訳で、このブログで採り上げるべきかどうか迷いもしたのだが、上記の通り、本数からすればそこそこ見てきた監督でもあり、此処に哀悼の意を記しておきたい。

 2つ目もまた必ずしも良い観客ではないのだが、イタリアの映画監督であり、オペラなどの演出家でもあるフランコ・ゼフィレッリ氏が6月15日に満96歳で逝去したそうである。
 こちらは映画ではオリヴィア・ハッセー主演の「ロミオとジュリエット」(1968年)しか見たことがなく(しかもほとんど内容は覚えていない)降旗康男氏以上に縁がなかった監督なのだが、むしろNY滞在時にメトロポリタン劇場で、ゼフィレッリの名を冠したプロダクションで何作かオペラを見たことの方が思い出深い。
 世評の高い「ブラザー・サン シスター・ムーン」(1972年)のDVDは持っているので、そのうち見てみたいと思っている。
 年齢からすれば大往生であるが、冥福を祈りたい。
 

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 この間に読んだ本は、

・松本清張「十万分の一の偶然」(文春文庫Kindle版)
 発端となる交通事件の概要が明らかになり、登場人物の一人がその事件を追って行き、ひとつの復讐劇が完結してから(私の)予想しなかった展開が新たに始まるのだが、果たしてその部分が必要だったのかどうかには疑問が残る(なぜその人物まで殺さなければならないのか、その動機にかなり無理があると言わざるをえない。また大麻などに関する詳細な説明が煩雑に感じられもした)。
 高速道路の構造やその周辺との位置関係、カメラに関する蘊蓄、事件の鍵を握る赤い火の玉に関する詳細な記述、そして上記の大麻についての長々とした説明など、松本清張らしい執拗でプロフェッショナルな描写に一応は感心するものの、それが必ずしも作品の面白みに結びついていないのが惜しまれる。「十万分の一の偶然」という題名から簡単に犯人の予想がついてしまい、いわゆる「倒叙モノ」のように犯人探しの面白みは皆無なのだが、肝心の謎解き部分ももっぱら技術的な話が中心になってしまい、その意味でも単調な作品になってしまっている。

・山田貴敏「Dr.コトー診療所」1-5巻(Kindle無料お試し版)
 有名なテレビドラマも見たことがないのだが、医師がいささか万能過ぎという印象はあるものの、この原作はなかなか面白く読めた(かと言って、お金を出してまで続きを読もうという気にはならないのだが)。

 映画やドラマは数が多いので感想を省いて以下に列挙すると、

・「飛べ!フェニックス(1965年)」(ロバート・アルドリッチ監督) 3.5点(IMDb 7.6) 日本版DVDで視聴

・「白い家の少女(1976年)原題:The Little Girl Who Lives Down The Lane」(ニコラス・ジェスネル監督) 3.5点(IMDb 7.1) 日本版DVDで再見

・「パプリカ(2006年)」(今敏監督) 2.5点(IMDb 7.7) インターネットで視聴

・「人魚の眠る家(2018年)」(堤幸彦監督) 3.5点(IMDb 6.9) インターネットで視聴
 東野圭吾原作(未読)。東野作品としては異色の社会派作品。

・「幻の殺意(1971年)」(沢島忠監督) 2.5点(IMDb なし) インターネットで視聴

・「彼女がその名を知らない鳥たち(2017年)」(白石和彌監督) 2.5点(IMDb 6.5) インターネットで視聴

・「ビブリア古書堂の事件手帖(2018年)」(三島有紀子監督) 2.0点(IMDb 5.7) インターネットで視聴

・「あの頃ペニー・レインと(2000年)」(キャメロン・クロウ監督) 3.0点(IMDb 7.9) 日本版DVDで視聴

・「ハッピーエンド(2017年)」(ミヒャエル・ハネケ監督) 3.0点(IMDb 6.7) 日本版DVDで視聴
・「白いリボン(2009年)」(ミヒャエル・ハネケ監督) 3.5点(IMDb 7.8) 日本版DVDで視聴

・「きみの鳥はうたえる(2018年)」(三宅唱監督) 3.5点(IMDb 6.8) インターネットで視聴
 佐藤泰志の原作(未読)で、題名はザ・ビートルズの「And Your Bird Can Sing」より。

・「荒野のストレンジャー(1972年)」(クリント・イーストウッド監督) 3.0点(IMDb 7.6) 日本版DVDで視聴

・「クレアモントホテル(2005年)Mrs Palfrey at The Claremont」(ダン・アイアランド監督) 3.0点(IMDb 7.6) 日本版DVDで視聴
 この作品は、遠からず訪れるだろうと思われた愛犬の死を重ね合わせて見ずにはいられなかった(視聴時にはまだ愛犬は生きていた)。

・「日日是好日(2018年)」(大森立嗣監督) 2.5点(IMDb 7.1) インターネットで視聴

・「ゼイリブ(1988年)」(ジョン・カーペンター監督) 2.0点(IMDb 7.3) Amazon Prime Videoで視聴

・「いぬ(1963年) 原題:Le Doulos」(ジャン・ピエール・メルヴィル監督) 2.5点(IMDb 7.8) テレビ放送を録画したもので視聴

・ドラマ「麗猫伝説(1983年)」(大林宣彦監督) 2.0点(IMDb なし。CinemaScape★2.9) インターネットで視聴
・ドラマ「可愛い悪魔(1982年)」(大林宣彦監督) 2.5点(IMDb なし) インターネットで視聴

・ドラマ「浮世の画家」(NHK) 2.5点 インターネットで視聴
 カズオ・イシグロ原作(既読)。映像作品にしづらい内容をそれなりの作品に仕上げてはいるが、ドラマ作品としての面白みには欠ける。

・ドラマ「東芝日曜劇場 あにいもうと」(1972年) 2.5点 日本版DVDで再見。
 室生犀星原作(未読)。