想像と創造の毎日 -15ページ目

想像と創造の毎日

写真は注釈がない限り、
自分で撮影しております。


  コミミズクが越冬にやってきていた。
  ヒラヒラと葉っぱのように飛び回る。



  オオワシたちも、群れになって羽根を休める。



  一際大きな角を持つ一頭のエゾシカのオスが、メスたちを守るようにして、私をじっと見ている。

  メスは私になど意に介さず、草を食み続けている。


  エゾシカのオスがハーレムを作るのは、10月から11月の繁殖期、秋の間だけのはずだ。


  他の場所は、メスと子どもだけの群れ、他はオスだけの群れ(厳密には、オスは群れない。たまたまオス同士が餌場に集まっただけらしいが。)なのに、ここには立派な一頭のオスと十頭弱のメスがいた。





  エゾシカは、ハーレムのボスたるオスだけが、大勢のメスを独り占めすることができる。

  あぶれた弱いオスは、そのハーレムの後ろを着いていって隙を狙うか、諦めて単独で過ごす。


  このオスは、繁殖期を過ぎても、メスたちの傍を離れない。

  草を食べ続けるメスたちをよそに、常にメスたちの周囲を警戒し、ウロウロしていた。


  エゾシカに対して、怖いという感情が芽生えたこたはなかったが、今日、初めて、鹿が怖いなと感じた。



  エゾシカのオスの中でも、そこまで年寄りでもなく、若過ぎない。 

  角はバランス良く、大き過ぎず立派だ。


  私が近付いても、たじろぎもせず、堂々としている。


  なのに威嚇するわけでもなく、ただじっと私を見据えていた。


  メスは本来、とても臆病で、人間に見られているだけで、距離を取ろうと逃げるのだが、このハーレムのメスは、私の存在すらまったく無視するように草を食べ続ける。


  このオスが傍にいることで、安心しているのか。

  しかし、確かにこのオスを見ていれば、惚れるものわかる気がする。


  何もしていないのに、こちらは威圧感を与えられる。



  そういえば、正月に娘と彼氏が来たのだが、ぴー様は、彼氏に会うのがものすごく久しぶりにも関わらず、姿を見ただけで、ぴー!と嬉しそうに鳴き声を上げ、ゲージから出した途端に彼の肩に飛び乗った。


  家族以外の人が来ると、身体を細くしてゲージの隅に隠れるように身を潜めるのに、なんなら彼は私や娘よりも懐かれていた。

  


  前に初めて来た時もそうだった。

  ぴー様は彼氏にすぐに撫でさせもした。


  彼氏は特に動物は好きでも嫌いでもない、と言った。

  

  人の好き嫌いの激しい(というより、ほぼ人に興味がない。特にコントロール欲求の強い人物は野生の勘で見極めて、視界に入れなくするという特技がある)娘が、この彼にだけは、とても心を開いている。

  人に合わせず(というか合わせられない)、マイペースな娘が、この彼にだけは手懐けられている。

  この子達の関係は、人間のカップルというよりも、飼い主と ִペットのようだ。



  彼氏は娘を放牧するように飼い慣らしているように見えた。

 お世話はするし、自由にさせているけれど、本当の主導権は握らせない。


  終始ニコニコとしているし、物腰も柔らかいし、一緒にいて安心感はあるのに、なんとなく威圧感がある。

  まるで、あのエゾシカのオスのようなのだ。



  ぴー様は、野生の本能で察したというのか。

  この彼のリーダーとしての気質を。


  娘の弟である我が息子が、彼をいきなり呼び捨てにしたり、容姿を芸能人に例えてからかうような言動をして、私をハラハラさせても、ムッともせず、ニコニコと受け入れている。


  でも、ヘラヘラ下手に出る訳でもない。  

  そうかそうか。というように、ひたすらにニコニコしている。



  初めて彼に会った時、彼は娘の大好きな焼き鳥屋さんに連れて行ったという。


  娘はそういう場では緊張して食べられないらしいのだが、なぜか彼の前ではバクバクと10本以上も貪り食べたという。


  その様子を彼は、よく食べるねえ。たくさん食べなさい。とニコニコ見ていたらしい。


  今回も家での焼肉で、彼は娘の大好きな豚軟骨をせっせと焼き続け、それに気付かないでひたすら食べ続ける娘に「ほら、なにしてんの。食べなさい。」と言われても、笑いながら娘の好きなものを焼き続けていた。



  娘は気に入ったのであろう祖母の作った煮物の味付けを尋ねて、彼氏に覚えるように促す。


  それを彼氏は真剣に聞いている。



  野生動物のオスは、本来、選ばれる立場だ。

  自分の遺伝子を遺してくれるメスに気に入られようと甲斐甲斐しい努力をする。


  メスは少しでも強いオスを選ぶ。

  



  その強さは、威嚇でも、暴力でもない。

  凛とした佇まいなようなものかもしれない。




  彼は、ものすごいイケメンではないが、目がとても美しい。


  エゾシカのオスみたいに大きな目で、びっしりと濃い睫毛に縁取られている。


  そしてどこか、自身と他人の境界線が曖昧なようにも思える。

  それは自分と他人の区別が薄くて距離感が近いというものではなく、例えば、山の動物たちの距離感に似ているかもしれない。


  エゴが薄いというか、犬も鳥も人間も同じように扱うという感じとでもいえばいいだろうか。


  ぴー様に至っては、木に止まるように彼の肩に止まる。

  でも、物に止まってるという感じでもなくて、彼の顔を覗き込むようにして、目を合わせたりもする。

 

  競走馬の牧場の馬と猫みたいな距離感にも近い。



  娘は、彼氏はクジ運がすごくいいんだよ。

  家の家電製品は、ほとんど当たったものだしね。

と言った。


  でも、宝クジとか賭け事には興味がなく、やったことはないという。


  当てたものも、お祭りとか仕事とかのイベントで仕方なくやったもので、自分で欲しいと思って当てたものではないと言った。


  引き寄せの法則とかいう文言を巷ではよく見かけるが、それを知らずに実践しているのが、彼なんじゃないか?と思えてくる。


  本当に望んだものを引き寄せるのは、欲望を明確にして願うのではなく、無意識に委ねる感覚とでも言えばいいのか。


  仕事も着実にレベルアップしているようだ。

  

  ギラギラとしていない。

  でもなんでもどうでもいいと投げやりなわけじゃない。

  世の中は無常だと、悟ってるふうでもない。


  ただ静かにそこに鎮座しているだけで、周囲を安心させる。


  ぴー様(そして野性的勘の鋭い娘)が、一目で惚れる男。


  エゾシカのハーレムのボスたる男。

  それが、娘の彼氏(近々結婚するらしい)である。