夏登山四回目。
四週連続、なんとか天候に恵まれ、山へ登れるなんてラッキーである。
この山は、登山のトレーニングには最適な山だ。
平坦な林道から始まり、徐々に心拍数を上げていく。
四合目からやがて少しだけ緩やかな坂道になり、キツイなと思ったところでまた平坦な道へ出る。
またキツめの坂道になり暗い樹林隊を抜けると、一気に羨望が開ける。
景色を眺めながらトラバースし、広い岩場がある八合目で休憩する。
ここから九合目が山場だ。
急峻な坂道に心臓をやられながらも上り切ると、這松帯の緩かな道に入り、いつのまにか頂上となる。
何度が同じ山を登っていると、どこで時間を縮められるかがわかってくる。
休な坂道では心拍数はおのずと上がるが、平坦な道で休もうとするのは危険だ。
なるべく心拍数が変動しないように平坦な道こそ速度を上げる。
九号目に差し掛かってから徐々にスピードを落とし、心拍数をゆっくりと下げていく。
競馬の騎乗と同じだろうか。
私の身体は馬で、私の脳は騎手だ。
帰りの下り坂も行きたがる足を制御しつつ、怪我をしないように足元に意識を集中させる。
山にいると案外、自分が思うよりも身体は無理ができてしまうのだ。
心拍数のメーターが振り切れていることも気付かず、溢れ出るドーパミンに導かれるまま、飲み物すら飲まず、スピードが上がり続けることもある。
するとそれまでは大丈夫と思っていたのに、下山時に突然吐き気に襲われ、熱中症になることもある。
エゾハルゼミの大合唱で、他の音が掻き消される。
聴き続けていると、音は振動だ、と腑に落ちる。
ジージージー…ジジジ…
誰かが鳴き始めると、徐々に辺りのセミたちも呼応して音は広がっていく。
音の層はどんどん厚くなり、森全体が震えているように思える。
色と音のグラデーション。
私は今、どっちにいる?
ここにいるのは私。
私がいるのはここ。
私がここで、ここが私。
ゴールが見えて、私はスピードをゆっくりと落としていく。
段々、私の輪郭がはっきりしてくる。
途端に足が重くなる。
汗が額から落ち続けていたことに気付き、タオルで拭う。
もうあの、辛かった八合目の体感記憶は、ない。












